020話 ぽーたる

アトロップには俺の見たこのとない様々な材料が豊富に揃っていた。

俺は金にものを言わせて、片っ端から買い漁った。

心配していた通貨の問題は何故かここでも問題にならなかった。

支払いが基本的に電子マネー決済風だったからと言うのもあるが、スマホを持ち歩かないエリカはどうやって買っているだろう。

そう思って、聞いてみたらスマホがなくても、視界に表示される金額の授受ができるのだそうだ。

なんかいいなぁ、羨ましい。

そもそも、なんで俺だけいつまでもスマホが必要なんだろうか。

まぁ、いいんだけどさ。

100Mete程使った頃、アトロップからめぼしい商品はすべて消え失せた。


「おい、兄ちゃん、あんた何者なんだ?」


「通りすがりの金持ちですよ。」


最後に立ち寄ったパーツ屋のお兄さんにそう聞かれ、ふざけてそう答えたら「またよろしく頼む」と、顔馴染みになってしまった。


すると、不思議なことが起きた。

何気なくスマホを覗いた際、さっきのパーツ屋が画面上に現れたのだ。

今まで道具屋しか表示されていなかったので、これは発見だった。

顔馴染みを増やすと選択肢が増えるのかもしれない。

グロウが昔言っていた、買い物はたしなみと言う意味が少しだけ分かった。


そらから、アプリに出てきたと言うことは、これでパーツも買い放題になったと言うことだった。

アプリだと品切れにならないのだ。

あとは、このパーツの使い方が分かれば完璧だと思うのだった。


再び中央通路に戻って来ると、さっき何処かに向かったケンザキが同じ場所で腕を組んでいた。


「エリカ、あの人はあそこが定位置なのか?」


「皆に報告を受ける時はあそこに戻ってくるんスよ。

多分、好きであそこにいる訳じゃないと思うッス。」


「そうなのか…。なぁ、ちょっと思いついたんだが…。」


そう言ってからエリカに耳打ちする。


「なるほど!それはいいアイデアッスね!

時間も共有できるし!」


「なに、なに?なにか悪だくみ?」


グロウも参戦してきたので、ウララも呼んで皆に話す。


「だからさ、ディアの試練をこの街のみんなに受けてもらったらどうかって話してたんだよ。」


「良いですね、確かに、駅全体の底上げにもなりますしね。」


さっきのパーツ屋のお兄さんみたいな人が体操服を着ている姿はあまり想像したくはないが、一度でクリアーすればダメージは少ない。

しかも、そのリスクを越えて手にはいる【思念伝達コミュニケーション】と【時間計測ウォッチ】はこの世界において必須とも言えるものだ。


「じゃあ、早速報告しようぜ!」


そう言って、俺達はケンザキのもとに向かった。


―――


「なるほど。俄には信じがたいが、エリカはともかくウララも言うのだから間違いないだろう。

わかった、やってみるとするか。

そのスポーツテストだか運動会だか知らんが、この駅の全員に参加するよう言ってみよう。」


「それは良かった。場所は…」


俺達はディアの場所を説明しようとして、思った。


「しまった。

ポータルを設置しておけば良かった。」


…と。


ケンザキは目ざとく、指摘する。


「ちょっと待ってくれ。そのポータルと言うのは何だ?」


説明に困った俺とグロウは、このヨコハマ駅の中央通路に二つ目の設置型のポータルを配置せざるを得なくなるのだった。


―――


「なるほど、確かに、ポータルと言うのは便利だな。」


俺とグロウは、エリカ、ウララ、ケンザキを連れて俺の部屋にあるポータルに移動した。

ポータルの、説明をするためとは言え、女性ばかりを3人も引き連れて移動するのはなんと無く恥ずかしかった。

エリカは無遠慮にキョロキョロしている。

まるで、動物園に来た子供のようだ。

ケンザキやウララは気を使っているのかキョロキョロはしないが、何故か二人ともベッドの方だけは見ないようにしていた。

それが逆にとても恥ずかしかった。

恐らく、ケンザキ達の想像しているものは、ベッドの下に眠っているが、オブジェクト化しているので取り出せようになっている。


それと、チラチラとイノリに集まる視線が、居たたまれなかった。


「ポータルについてはだいたいわかった。

一旦戻ろう。

あまり長居するのも失礼だからな。」


突然、ケンザキは声を上げて、何故かそそくさとエリカを引き連れてカーテンの中に消えて行った。


俺、グロウ、ウララの三人は取り残されることとなった。

ウララが遠慮がちに聞いてきた。


「この方が以前おっしゃられていたアイザワさんのお友だちですか?」


俺が答えるよりも早く、グロウは間髪おかずに、


「違うわ、彼女よ。」


と言ったが、即座に俺が


「彼女じゃねーから!」


と、くい気味に否定するとグロウは豪快に笑い、ウララは少しだけ微笑んだ。

その後ウララが何かを呟いたようだったが、俺には上手く聞き取れなかった。

ディアの最後の試練でサーベルタイガーと戦った後くらいから、何となくウララと距離感が出来てしまっている気がして、少し居心地が悪かった。

それから逃れるように、


「さぁ、俺達も帰ろうか!」


と、俺が促すと


「そうですね。」

「わかったわ。」


二人は同時に返事をするのだった。


―――


俺たちが中央通路に到着すると、ケンザキがこんな提案をしてきた。


「アイザワ君が迷惑でなければ、このポータルをそのディアと言う女神像の元に設置して欲しいのだが、可能だろうか?

我々が設置してもいいのだが、活性化と言うのが我々には出来ないらしい。

これは君達二人にしか頼めないことなのだ。」


俺は、


「仕方ねーな……じゃなくて、わかりました。片道20分だし、帰りはポータルで帰って来られるから、別に問題ねーよ……じゃなくて、無いですよ。」


と返事をした。

ケンザキは苦笑いをして、無理せずに普通にしゃべってくれて良いと言ってくれた。

俺はその言葉に甘えることにした。


「…話を戻すが、君には感謝している。

情報まで提供してもらった上に図々しいお願いまできいて貰って、本当に助かるよ。

何とお礼をいったらよいか。

報酬については君の言い値で構わない。

いくらでも用意させよう。」


「そんなのは良いよ。でも、まぁ、せっかくだから郵便局前の通行許可証が欲しいんだが、貰えるか?」


「それくらいなら構わないが…。

だが、まさか君はあいつに挑むつもりなのか?」


「『あいつ』って言うのは風の守護者の部下のことか?

だったら、その通りだ。

そいつを倒せないようじゃエリアボスも倒せないだろうからな。

もちろん、今すぐって訳じゃないが…。」


「確かに、君の言う通りだ。

分かった、君達が帰って来る頃までには準備させておこう。」


ケンザキと約束した俺とグロウは、一時的にウララやエリカと離れ、再び地下の線路に戻るのだった。


―――


「あんた、ずいぶんとカッコいいこと言ってたけど大丈夫なの?」


ディアの場所へと向かう道中、グロウが突然そんなことを言い出した。


「知らねーよ。今さら言うな。

何か、あの時はカッコつけたかったんだよ。」


もちろんそれだけではなかったが、とりあえずそう言うことにしておく。

その後グロウが数秒間無言になったので、ジト目をしていたのは間違いない。


「それよりもさ、ひとつ聞いても言いか?」


「なによ。」


「俺、さっきから何にもしてないんだけど、お前めちゃめちゃ強くなってないか?」


「わかる?何かね、この爪を装備してから物理ダメージの半分が魔法ダメージとして追加で入ってるらしくて、シャドーバットが瞬殺なのよ。」


「マジか。お前、本当に一人でキラーベアー倒せんじゃねーか?」


「そうなったら、あんたは用済みね。」


「ほざいてろ!」


言いあいをしているうちに、いつの間にかディアの場所まで着いていた。

時間計測ウォッチ】を確認すると15分しか経っていなかった。


「何だ、お前たちか。」


ディアが冷たい声で言う。


「そう残念そうにするなよ。

お前に良い知らせを持ってきてやったんだぜ?」


「ほう。何だ?言ってみろ。」


「この先のターミナルに1000人近い人がいるのが分かったんだけどさ、そいつらが全員お前のところに来るかも知れないそうだ。」


「それは本当か?ありがたい。感謝しよう。」


寂しがり屋のディアが、嬉しそうな声をあげる。


「だから、ここにポータル設置してもいいよな?」


「仕方がない。まぁ、良いだろう。」


言葉とは裏腹に嬉しそうなディア。

…ツンデレだな。

そして、3つ目のポータルが地下のディア前に設置された。


帰ろうとした時、


「そう言えば前回渡したアイテムをまだ装備していないようだが?」


と、ディアが言った。


「あたしは直ぐに装備したわよ。」


聞かれてもないのに、グロウは即答する。

そう言えば、いつか装備しようと思って忘れていた。


「あぁ、そうだな。じゃあ、装備してみるよ。」


俺は道具袋から『狂喜のタンクトップ』を取り出すと、上着を脱いで着替えた。

装備についてはワンタッチじゃないのが不便だ。

でも、エリカやグロウは武器をさっと取り出しているようだから、俺だけかもしれない。

タンクトップは俺専用に作られているかのように、ピッタリと体に馴染んだ。

脱いだ上着をまた着て、今まで来ていたTシャツを倉庫に送る。

倉庫に『着古したTシャツ』が表示された。


「おい、着てやったぞ」


ディアに言うと、


「そうか。では、帰りにシャドーマンにあったら、投げナイフを投げてみると良い。

きっと面白いものが見られるだろう。」


と、言われてしまい、ポータルで帰る予定が結局歩いて帰る羽目になってしまうのだった。


帰りにシャドーマンを見つけた俺は、早速道具袋から投げナイフを選択して、シャドーマンにターゲッティングした。

すると、今までは右肩の上に1本だったナイフが、右肩と左肩の上に合計四本も現れた。

手をかざし振り下ろして合図すると、そのナイフ達が一斉にシャドーマンに対して飛んで行く。

四本のナイフがクリティカルヒットしたシャドーマンは増えるまもなく煙になって消えるのだった。


「確かにすげーな。」


俺は喜んだが、後で道具袋を確認すると、投げナイフはきっちり四本消費されていた。

てっきり、消費は1本なのかと思い込んでいたために、やたらと損した気分になった。


まぁ、もともと風魔手裏剣投げてたんだから、投げナイフが4本(4Kete)でも別に良いんだけどさ…。

少しだけ、もやもやが残ったが、ケンザキに報告を済ませ、『通行許可証』を受け取った頃には、すっかり忘れていた。


その後、再びエリカ、ウララと合流し、西口のSAGA鉄エメラルド地下街へショップ巡りに旅立つのだった。

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