第9話 静かなる花の上で

 目が覚めると、草の背丈が小指程に高くなっていた。どれだけの時間を眠っていたのだろうか。体を起こすと、そこ光景に息をのむ。

「今度は貴方が寝る番なのね」

 振り返ると女は花に囲まれながら俺を静かに見ていた。日の光が女を祝福しているかのようにやさしく射し込む。一つ一つの花をやさしく撫でていた。

「なんで、こんなに咲いているんだ?」

「貴方が、寝ている間に一気に咲いたのよ。この前の赤い花は先を急ぎすぎたみたい。その分、綺麗だった」

「そうだな」

 自らの個性を表す様に、色とりどりに咲いていた。どれも見ていて飽きることはないほど奥深く鮮やかな色だった。よく見るために顔を近づける。

 花は俺を気にしない。撫でようと少し触れると指先に柔らかな感触がした。少し面白く何度か触った。すぐに可哀想だと思い手を引いた。

「良い時に起きた」

「えぇ、本当に……」

 俺たちは飽きるまで花を見ていた。しかし、飽きることはなく、まるで対話するかのように一つ一つを大事に見た。風に揺れる姿が照れているようでとても愛らしかった。

 しかし、柔らかく流れていた風が段々と恐怖で震えるかのように強く揺れ始めた。風が我先にと駆けていく。逃げてきた方向を見ると、なにかが大きく渦巻いていた……。

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