第6話 枯れゆく花の美しさ

どれほどの時間、この花を見続けていただろうか。気付くと女も細く目を開けていた。その目には赤色が映り、まるで情熱を宿しているかのように見えた。物静かな女には、その感情が宿ろうとも浮いて見えることだろう。

 あぁ、花が枯れてゆく。

 情熱的で美しく、茎と花びらを輪と伸ばしていた姿は、今や下を向いてしまった。あせた花びらが一枚、また一枚と落ちてゆく。その度に息を飲む音が一緒に聞こえた。最後の一枚が、はらりと地面に落ちた。役目を終えたと茎が花びらの上に倒れた。美しく荒れるようにと支えた茎は花びらの中で色鮮やかな最期を飾った。

 一息吐くと、女を見た。ゆっくりと閉じられてゆく目には、なおも赤色が映りこんでいた。

「ありがとう……」

そう言うと、女はまた眠りについた。先ほどまで起きていたのが夢のようだと思った。起きているのに夢を見ている気分は不思議なものだった。

 目を閉じた。色鮮やかだった世界は暗闇に飲み込まれた。しかし、暗闇の中には確かに赤い花が咲いていた。

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