第3話 オークの群れと弱体化の痛感


 オークの群れからハイ・オークが飛び出してきた。


 通常のハイ・オークよりも足が速い。


 様子見の尖兵といったところか?




 対して――――


 今のベルトは無手だ。


 唯一の武器だった短剣は、友へ送ったばかり。


 それを差し引いてベルトから出た言葉は――――




 「舐められたもんだぜ」




 迫ってくるハイ・オークの数は12匹。


 1匹の戦闘能力はCランクの冒険者と同格。


 しかし、群れになるとSランク冒険者でも不覚を取りかねない。




 「だから、近づく前に殺やる」




 ベルトは素手に魔力を込める。




 ≪魂喰いソウルイーター




 本来なら、離れた場所にいる相手に斬撃を飛ばす暗殺用魔法。


暗殺者を極めたベルトにかかれば、魔法職が詠唱をもって放つ究極魔法と匹敵する威力に。


 具現化された魔法の刃は、ハイ・オークたちを切り裂く。


 それも尖兵の12匹だけに留まらず、背後で待機していたハイ・オークたちにまで甚大な被害を与えた。


 だが、その成果に対してベルトは「ちっ」と舌打ちをする。




 (まさか、ここまで威力と精度が落ちてるとは……暫く斥候(せっこう)役と暗殺術しか使っていなかったからなぁ)




 信じがたいことに自身の衰えを痛感していたのだ。


 そんなベルトの内心知らず、さらにハイ・オークの背後にいたメガ・オークが動いた。


 メガ・オークはハイ・オークよりもデカく、何より装備がいい。


 どうやって装備を手に入れているのだろうか? 鋼の鎧と剣を持ち、剣術らしき技まで使う。


 メガ・オークは間合いを一気に縮めると、ベルトの頭上から剛剣が振り下ろされる。


 ベルトは簡単に素手で剛剣をいなして避けた。


 通常のオークよりも知能が高いと言われるメガ・オークに驚愕の表情が浮かび上がる。


 それも一瞬だけだ。


 すぐに白目を剥いて、背後に倒れた。




 ≪毒付加ポイズンエンチャント




 素手に毒を付加させ、メガ・オークの剣をいなすと同時に毒を打ち込んでいたのだ。


 ここまでやってようやく、オークたちは戦力差に気づいたらしい。


 途端に逃げ腰に――――いや、実際に逃げ出し始めた者もいる。




 しかし――――巨大な咆哮が闇夜を揺らした。




 ギガ・オーク




 トロールすら凌駕すると言われる巨体。


 周囲を威圧するように金色に輝く鎧と武器。それらは本物の純金で出来てる。


 本当にどうやって作ったんだろう? 冒険者の誰もが同じ疑問を浮かべるがギガ・オークの生態については、まだ未知な所が多い。


 幸いにしてギガ・オークは1匹だけ。コイツが群れのボスだろう。


 持っている武器は巨大な両手斧。 馬鹿げた大きさだ。




 (もう少しだけ、待ってくれよ。俺の体!)




 ≪暗殺遂行アサシネーション




 ベルトの気配が消え、姿も朧になり、知覚すら出来なくなっていく。


 だが――――




 「ぶぉぉぉぉぉぉ!」




 ギガ・オークは両手斧を地面に叩き付けた。


 爆散したが如く、四方へ弾け飛んだ石礫(いしつぶて)は、姿を消したベルトにも届く範囲攻撃。


 巨大な石は素手で弾いて防御する。しかし、小石や砂埃まで避けれるはずはない。


 体に纏わりつき、消えていたベルトの姿を明らかにする。


 ギガ・オークは勝利を確信したかのような笑みを見せた。


 姿が消せない暗殺者など、餌でしかない。そう思っているのかもしれない。




 「うがああああああああぁぁぁ!」




 ギガ・オークは動きが鈍くなったベルトを握りつぶそうと、その体を掴んだ。


 ――――そのはずだった。


 次の瞬間、ベルトの体は幻のように消え去った。




 「悪いな。ソイツはただの残像だ」




 声の主でベルトは、ギガ・オークの頭上より高く飛び上がっていた。


 素手であるはずの、その両手には刃物の煌きが備わっていた。




 ≪二重断首刀ギロチンエックス




 大木たいぼくと見間違うほどに太いギガ・オークの首。


 それがあっさりと切断されると、周囲に鮮血をばら撒きながら頭部を失った胴体が倒れた。




 他のオークたちは既に逃げ出していた。


 圧倒的な勝利だ。


 しかし、ベルトは勝利の余韻に浸るでもなく、ただただ自身の弱体化を痛感した。




 やはり――――




 手の震えも酷くなっていた。




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