2月

2020年2月3日 「静かな夜の楓と兎」


静かな夜。凛とした風に一葉の楓が赤く色づいた身を踊らせた。くるり孤を描き、湖面へ優しく口づけをする。水面に映った満月は美しい身体をふるりと震わせる。隠れた兎が嬉しげに笑って、ぴょんとひとつ飛び跳ねた。



2020年2月9日 「いなくなった猫」


いつもご飯をあげていた錆び猫がいた。その子を見かけなくなって数ヶ月。野良だからと諦めていた、ある朝。扉を開けるとその子がいた。足元には数匹の子猫がじゃれついている。俺を見ると「飯をくれ」と一声鳴いた。



2020年2月18日 「蕎麦屋の幽霊」


とある蕎麦屋の廃屋に幽霊が出るらしい。どうやらなにか未練があるようで、彼は夜な夜な現れては難しい顔をして口をもごもごこう言うのだ。「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ……ひと味足りなぁい」



2020年2月23日 「偽札ではなく」


休憩から戻るとレジのほうが騒がしい。バイトの女子高生達の声が鋭く耳に刺さる。「店長!偽札です!」ずいと出された千円札には夏目漱石。吾輩だって本物である。彼はそう言いたそうに物憂げな表情を浮かべていた。


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