異境武闘伝ファンタジーガン

藤村文幹

ある日ある場所で

戦儀開始、少し前


「外、か」


 周囲を取り囲んだ光が晴れると、青い空が見える外だった。

 

 コックピットのモニター越しに周囲を見ると、まばらに木が生えた平原の様だ。

 真っ平らな平原ではなく、起伏は有るし、折れた木が転がっていることもある。


 ここが神前の戦場、か。


 俺は、これからだれかと戦う。


 神前戦儀という、奇跡を叶える権利を得るために、国を代表して戦う場だ。


 ルールは1つ。

 与えられた神機というロボットを使って、相手を倒す。

 それだけだ。


 呼吸が短くなった。

 心臓の鼓動が耳に聞こえるほど強い。


 意識して深呼吸して、落ち着かないと。


 相手はまだ来ていない。

 落ち着いて、戦うんだ。


 深呼吸を繰り返していると、前の方に光の渦が現れた。

 光の粒がいくつも、それこそ無数に湧き上がっている。


 両腕を上げ、構える。

 モニタ左右に移る、黒い腕も上がった。武器はない。


 俺が動くと、機体も動く。

 そういうロボットだ。

 格闘技なんて、かじる程度にしかできないのに。


 光の渦が消えると、そこには白いロボットが立っていた。

 角張っていて、両手にそれぞれ銃を持っている。

 いきなり遠距離戦を強いられるのは、いやだった。

 でも目の前に立っているのは、銃持ちだ。

 拳に自然と力が入る。


『おいおい』


 男の声が辺りに響いた。


『もう構えてんのか。そのまま攻撃してくれるなよ』


 落ち着いた男の声だ。

 目の前のロボットも、銃を持ったままの腕を開いて呆れたような仕草をした。


「すまない」


 俺は緊張が現れないよう、努めて抑揚を抑えて答える。

 あまり弱気に接してはいけないと、忠告されていた。

 ただ、緊張で話を続けていたらボロがでそうだ。

 口数を減らすしかない。


『はぁ、始まりの合図はまだだろう?』


 ため息交じりの声。


「合図?」


 思わずそのまま返してしまった。

 確かにそうだ。

 合図がなければ戦いを始められない。

 揃い次第戦っていいなら、先に入った方が有利になってしまう。


『んん? ひょっとしてお前、稀人か?』

「え? あ、ああ」


 しまった。稀人であることを言い当てられて動揺したのか、妙な声を出してしまう。


「そうです」


 なにがそうですか。

 弱気になるな、俺。


『やっぱりそうか。稀人じゃないなら戦儀はみているはずだものな』


 戦儀の様子は各国に生中継される。

 神様の力とやらだろう。

 この世界の者なら合図がどういうものか知っているんだ。

 事前に訊いておかなかったことが悔やまれる。


『俺はアジャン』


 どう答えようか迷っていると、急に名乗られた。


『アジャン・ヴェルート。

 ニーネの風狼騎士団の団長を務めている。

 短い間だが、よろしくな。さ、名乗りな』

「金城 一真」


 白い神機がお前の番だ、みたいに腕を動かし、反射的に俺は名乗る。

 騎士団の団長と名乗られたから、俺も立場を言った方が良いのだろうか。

 だが、そんな身分、俺にはない。


 この世界に来る前の身分なんか、関係ないだろう。

 会社員、と言われても分からないはずだ。


「ゼクセリアの宮殿で居候をしている」


 かっこつけるつもりはないが、少し恥ずかしい名乗りをしてしまった。


『ゼクセリアだって? 稀人でか? そりゃあ災難だったな』


 声色が優しい。哀れんでいるのか?


 いらついてくる。


「災難?」

『ゼクセリアの石化病の事は聞いてる。

 だというのに、そんな無手の素神機でだなんてな』


 石化病。

 俺が戦う理由。

 アジャンが案じてくれているのは分かる。

 同情してくれている。

 深呼吸をして、怒りを抑える。

 衝動で戦っては、勝てない。

 彼の言うとおりだからだ。


『だがこちらにも事情はある。そっちと同じようにな』


 声が低くなった。

 白い神機の顔についたカメラアイが赤く光る。


 けど、そんなこと分かっている。

 こっちがどうしても勝たなきゃ行けないように、向こうもそうなんだ。


 関係ないね。

 ただ、戦って勝つ。


「こちらも負ける気はない」


 視線に力があるなら、きっと既に倒していた。

 白い神機を、中にいる男ごと。


『ハッ、吠えるね』


 言葉の応酬を終え、合図とやらはまだ現れない。


 俺はこの世界に来てからの事を思い出す。

 俺の、戦う理由だ。




※2021年7月24日 導入を改稿しました

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