SSSスローライフの居候

 野菜をぼろぼろの台所で料理して、ぼろぼろの食器にて小さな食堂で手を合わせて食べる。


「いただきまー」


「す!」


「うわわっ!」


 俺は突然の事に椅子から転げ落ちそうになりつつも、何とかもふもふしっぽのバランスによって持ち直す。


「相沢さん、いつも言いますが突然出てこないでください」


「良い匂いがしたからつい。あたしももらっていい?」


「宿代三日分」


「四日分にしておいて!」


「本当に払ってくれるんですか?」


「……えへ」


 お金が全くないくせに、愛嬌でごまかそうとしているこの女の子は相沢奈々菜、十五歳。栗色のストレートロングで青を基調としたローブを着ている女子は何処にでもいるが、珍しいのは名前だ。現実世界の人間そのものだろう?


 でも現実世界の常識すら持ち合わせていないんだ。このもう一人の異世界転移者は。


「朝ごはんはあげませんよ?」


「ええ、ミキネちゃんは鬼? 悪魔?」


「宿代を払わない方が鬼悪魔じゃありませんか?」


「うぐぐ、しっかりしてるよこの狐耳ロリッコ……」


 そう言いつつ、勝手に更にスープをよそっているので生暖かい目で見守る。


「パーティーには戻れそうなんですか? そうでもしないとヒーラーの相沢さんは稼げないんじゃないですか?」


「たまにお金を無心するけどだめだね、あ、このスープ美味しー」


「無心するからダメなんでしょう」


 訳あってパーティーを追放されたと言っていたが、そういうところがダメなんじゃないでしょうか?


「別に戻る気もないけどね、あんなとこ。女は女過ぎるし、男は男過ぎるし」


「自分から追い出されて、よく言いますね」


「この世界ではヒーラーなって存在しないから、引く手数多んだから!」


「じゃ早く仕事してきて四日分のツケ払ってくださいね。日に日に増えますから」


「パーティーをなくした傷心の少女に何という諸行無常、神は悲しんでおられます」


「都合のいいときだけ神を呼ばないでください」


「うー……お願いだよぉ、必ず返すからあ、同じ世界のよしみでしょう」


 相沢さんは雨に濡れて捨てられた子犬のような瞳で、ずっと俺を見つめる。狐耳がぴくぴくとかゆくなりそうだ。


「まあ、払ってくれるなら少しは面倒見ますけど」


「よっしゃー! 言ってみるもんだ、おかわりはやくもってこーい! 今日は宴会だ! 山盛りスープ!」


「切り替え早いですね……はいはい、お客様」


 皿を受け取り、大盛りのスープをよそってあげる。


 結局、女の子の推しに弱いのだ俺は。現実世界でも持てたことなんてないし、免疫力がゼロもゼロなのである。


「すっごい美味しい! ミキネちゃんのスープ。ありがとう、いただきまーす!」


 そこまで嬉しそうに食べてくれるなら、作った方も悪い気はしない。だからいつも食べさせてしまうから、ダメな女将である。


 相沢さんが嬉々としてスープをすくって、桜の花びらのような唇に差し込もうとした、その時、事件は起こった。


 ヒヒーン! ブヒヒーン、ヒンヒンヒーンと三匹ほどの馬の鳴き声が聞こえ、勢いよく俺の宿屋の入り口から突撃してきた。


 俺は見えていたからすぐさま身をひるがえしたが、相沢さんは背中にもろに受けた衝撃と共に、スープ皿そのものを跳ね飛ばして、頭からスープを被った。




1-2 SSSスローライフの居候

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