癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。

@kato-

第1章 転移した

第1話 鹿にあたって転移

あの秋の連休2日前の木曜日、岡田君から電話が始まりだった。頼まれてしまった。

「これ、お前の仕事なんだろ。本当に良いのかよ?」

「大丈夫だって。課長のOK、もらってあるし頼むよー。どうせ、暇でソロキャンに行くだけだろう? バイト代も出してもらうし」

「それは言わないお約束だろ。バイト代は嬉しいけどさ」

「じゃ今度、めし奢るからさー。彼女がカゼで寝込んだんだ。看病するんで、配達を変わってくれないかなー。友よ、察してくれー」

 

 頼み事と言うのは簡単なお仕事だっだ。社長の出身地の廃校になった小学校まで、なんだけどね。防災訓練の参加賞として会社にあった災害備蓄用品を、土曜日の一時までに持って行くというものだ。

「参加賞とはいえ防災用品だ。タダで配っても喜んでもらえば良い。まぁ、賞味期限切れまで後6カ月の食品がほとんどだし。エコといえばエコだろ。高速とガソリン代も出るし。お前も、社会のお役に立てるぞ」


 と、ありがたいお言葉である。俺は、加藤良太。27才、ソロキャンプ好きの独身男である。

(よく思い出してくれた。特にバイト代。確かに暇してて、今週もキャンプかなと思ってたけど) 

「ほんとかどうか分からないが、連休とってネズミランドにお泊りデートと言う訳じゃないだろうな」

「頼むよ、大切な親友の頼みじゃ。それに人の恋路に、ああだこうだは無粋と言うもんだぞー」

(ムー、リア充め)

「今回だけだぞ、あと口止め料もよろしくな」


 まあ、俺の趣味と言えば時々ソロキャンプに出かけるぐらい。夏も終わり、初秋の風が訪れ家族連れの声が少なくなったキャンプ場。テントとウッドストーブを持って行く。ウーン、良いね。たいてい管理されたキャンプ場ではあるが2・3日を自然の中で過ごすのが楽しみなのだ。


 今は昔と違って 直火禁止のキャンプ場が多いからね。山のキャンプ場では朝晩寒いと感じるし、ウッドストーブは必需品だ。暖かく揺らぐ炎を楽しみながらダッチオーブンを使って調理する。焚き火を見ながらのキャンプは、ウイスキーが合うと思うんだよ。最近のマイブームはハイボールを呑みながらなんだ。

(ポテチもあるし、これ落ち着くねー)

 昨今、女子に流行りのはずのキャンプ。未だに女子グループとめぐり会った事ない。今までは夏だったし家族連れが多かっただけなんだ。富士山の近くでもないし。大丈夫、決してボッチが続く訳ではないはずだ。ゆるキャンプで目覚めたとか、もてようかとなどといった事は絶対にない……はずです。


 まぁ、原野を踏破すると言うタイプでもない。とくに車を手に入れてからは、キャンプに出掛ける前に近場のショッピングセンターに行く事が多くなった。何故って。食材等をまとめ買いするんだ。その他の買い物もそのタイミングで済ませる事も多いけど。一人暮らしのごく普通の、自然を愛するソロキャンパーだ。それにお値打ちに購入しないと、いつまでも失業保険がある訳でもないしね。

「分かった。まあ、バイト代が出るなら。明日の朝いくよ」

「オォ、友よ! 助かるよ。じゃ、よろしく」

電話を切ってから思う。事情を知っている岡田君なりの気の使い方かな。感謝、感謝。


 ※ ※ ※ ※ ※


 翌日、愛車でマンションからわりと近くにある事務所に向かった。

「やあ、急にすまないねー。久しぶりだったけど元気してた? ウン、岡田から聞いているよ。災害備蓄用品と保存水が、ダンボール箱に各10個だけど車に載るかな?」

学生の時、この会社でロングのバイトをしたので課長さんとは面識がある。同級でバイト先が同じだった岡田は、高校卒業後ここの会社に就職し、俺はあちこちした訳だ。

「有難うございます。載りますよ、キャンプ用品とガラクタだけなので」


 荷物の届け先は、俺の本家のお婆さんの実家の村だったはずだ。昔、この会社で夏のバイトをしていた時に盆休みの予定を聞かれた時なんだけど。小さい頃、一度法事だと言って連れられて行った事があるような思い出があるんだ。しっかりとした記憶じゃないし、ふとそんな事を思い出したんだ。


 社長も課長さんも在所が一緒の、いわゆる同族会社である。課長さんに話をすると「奇遇だねー」と言われた。それに、一族郎党らしいが、彫が深いタイプとの事である。若い頃はモテたという話を聞かされた。稀に黒目というより青い目ぽぃ親戚がいたらしい。今では他人だが、元をたどれば先祖が一本になるのかな? そんな処だが、マ、少しだが縁が有った事になる。


 車にダンボールを積み始める。

「ワンボックスの中古ですが、思い切って買ったんですよ。車中泊もできますし、何でも放り込んで置けるので」

「そうかい。これなら載りそうだね」

「この箱なんか、夏のBBQの時、ビンゴでもらった百均のおもちゃで一杯ですよ」

「ハハ。キャンプが好きなんだって。それじゃ良かったらこのセットも貰ってよ。もうすぐ期限切れになるけど、一つ12980円だよ。食品なんかはダメかもしれないけど他のは使えると思うよ。そんな気にしなくても良いよ。置いといても処分する事になるしね」

「防災セットですね。いいんですか?」

「いいよ、いいよ。まぁ、使えなかったらご免ね。載せ終わったら事務所に来て」


「積み込み終わりました」

「ご苦労さん。……ウン。じゃ、これバイト代と経費ね。領収書にサインして。少しだけど色つけておいたから」

さすが中間管理職、苦労してるなー。

「ありがとうございます。明日お届けします。じゃ、これで失礼します」

 明日は、いつも行くキャンプ場と方向が違うけど、遠出するんだし納品を済ませたら、近場のキャンプ場にそのまま行ってみよう。今晩、下調べ出来るし、距離も一山越えて言う感じだ。ハローワークも連休だ。ここはキャンプを楽しもう。

(ハイ、そう思っていました)


 ※ ※ ※ ※ ※


 荷物を届けるのは、1時頃までで良いらしいが昼には着きたいものだ。届け先の小学校跡の会場は、10時過ぎならいつ着いても構わないだろうと聞いていた。余裕をもって少し早めに出る事にした。キャンプ場にも早く着けるしな。

 愛車は高速を降りて国道に出る。間もなく県道に入って1時間ぐらいかな。途中から、田舎によくある1車線の間道に乗り入れてさらに30分。

(小学校跡どころか建物一つ無いなー。対向車が来ないのは助かるが)


「林道の入り口、間違えたのかなー。カーナビは役にたたないし、こんな山奥じゃ携帯も通じないか。電波入らないし弱ったな……」

辺りは緑が一杯。山林の中を道が縫うように通っている。陽があるのに山の影では暗いぐらいだ。

「しかし、山道が続くと自然環境が豊かになってくるなー」

(ウヒョー。あれシカじゃないかな? エ、何だよ? チョット待ってくれ。嫌な予感がする?)


 年々増加して今や有害鳥獣と言われる、そうニホンカモシカが居る。

シカを見かける。そうシカを見かける。それもシカの群れを見かける。見ているうちにドンドン近づいてくる。 

シカに当たる。そうシカに当たる。それもシカの群れにぶち当たる。

「ワーー。あたあたる、るー!」

オーストラリアのカンガルーと、車の衝突事故が一瞬頭に浮かんだ。頑丈そうなバンバーがひん曲がって横転している車のニュースだったが。車にはたまらん衝撃があー。

 とっさに急ハンドルを切ったが、車は道路を外れて藪の中へ。ホント、道路への飛び出しは非常に危険です。なんとか、シカとの衝突は避けられたけど。


「何かに当たったぞ。車大丈夫かな」

 緩やかだが、勾配もついていたし。

「これはレッカーいるかな。降りて様子を見なくっちゃ」

(藪に入ったとしても10メートル位だと思うが、上手くすれば道まで戻れるかな? まぁー、事故ったが鹿殺しにはならなかったが)

 車から降りて見廻せば、何故かあたり一面にダークグレーの景色が広がっている。


 俺は、ガレキの様な建物で囲まれた直径200メートルほどの大きな広場に立っていた。横には乗ってきた愛車がある。足元はコンクリートの様な平らな床で、近くには石柱が倒れている。

(昔あった飛行場か、それともヘリポートかな? フゥー、……ここは何処だろう? さっきまでは、緑が一杯の道を走っていたんだが? どうなったんだ?)

石柱が転がっている。気のせいか、人の顔ともお地蔵さんの顔とも見えなくもない。

「こんな所にあるなんて、罰当たりな事をしてしまったな……」


加藤良太が、何かに当たったと思った時、ここでは地表に赤く輝く紋章が現れ消えた。

未来の地球? 並行宇宙? それとも他の惑星? 異世界か? 

 良太はどこから来たのか? (日本から来ました)

 良太は何者か? (ニート気味の社会人です)

 良太はどこへ行くのか? (やばい方向へ行くかも!?)

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