【カリステフス】冥皇の冠

@okitakyo

第1話プロローグ

 これは、かつて西アジアからギリシャに至るまで幅広く崇拝された神様の誕生と衰退の物語。


 太古の昔、地上にはミトラという高エネルギー体が存在した、やがてミトラは意思を持ち地上の発展を監視するようになった。


 今日、私達がミトラス、アッラー、ラ

 ー、メタトロン、カオス、ユミル等と呼んでいる神は全てミトラの別名であり、世界各国で神話として語られ畏れられたものだ。


 それなのに、何故ミトラは全知全能の力を失い地上から姿を消したのか。そもそもの始まりは空から降りて来た彼との出逢いから始まった。


 まだ地球が広大な海のみであった時代。ミトラは、全ての小さな細菌、微生物に至るまでに己の体の一部を分け与え、彼等を通して大気や海の底を監視し楽しむようになった。


 地上の生物の進化は目まぐるしい。ただ分裂を繰り返していた生物はやがて雌雄に分かれ有性生殖を行うようになっていた。


 ミトラは死と言う進化を手に入れ、雌雄に分かれた生物に、ことのほか感心を寄せ見守った。


 ミトラも彼等を真似て死と再生を繰り返し、その度に新しい思考と力を手に入れた。


 地上の生物が死を迎えると、ミトラの一部はまたミトラに帰って来る。


 沢山の竜達が栄華を極めていた時代、ミトラはある事に気付いた。最初に入れた己の一部と帰って来た一部では質量も性質も異なるのだ。やがて何度も生死を繰り返し行ったミトラの一部はミトラに吸収されなくなった。吸収されなくなった体の一部をミトラはフレワシ(精霊)と名付け己の側に侍らせた。


 いつの間にか地上の監視に飽き、空ばかりを眺めるようになったミトラ。


「あの星の何処かに自分と似た存在があるのだろうか?」


 ある日ミトラが大きく成長したお気に入りの精霊を従えて地上を散歩してると、空から小さな船が堕ちて来た。落下地点には、鉄屑と肉塊が散らばり悲惨な事になっていたが、生存者も居た。ミトラは自分の一部を持たない彼に興味を持ち、彼の姿に己を似せて接触を図った。


 彼は、仲間が亡くなった事と故郷に帰れなくなった事で嘆き悲しんでいた。憐れに思ったミトラは、従えていた脇侍神たる精霊カウティスとカウパティスを彼の亡くなった子供に似せて彼の傍らに置いた。彼は二人に自分の息子と同じ名を与えて可愛がった。ルシフェルとミカエルの誕生である。


 更に、ミトラは彼が地上の環境では長く生きれない事を知ると、異空間に彼にとっての安住の地を創った。ミトラと彼はやがて友人となりお互いの家を往来するようになった。


 ミトラがいつものように彼の家を訪ねると、ルシフェルがそろそろ母であるミトラの元に帰りたいと懇願してきた。


 彼はその言葉に悲しみ涙を流した。


 ミトラは彼の心が未だ自分より故郷にある事を知り生まれて初めて嫉妬した。


 ミトラは彼に恋心を抱いていたのだろうか。


 自分の知らない世界を見せてくれた愛しい人、それでもミトラは彼の心を無理やり奪おうとはしなかった。


 憧れた地上の生物の真似事に彼と脇侍神を巻き込んだ罪悪感があったからだ。ミトラは彼の頬に口づけすると、ルシフェルに鍵を渡し2度と彼に会うまいと誓った。


 竜の時代が終わりを遂げてから沢山の朝と夜が訪れた。ミトラは、時間軸の無い異空間に住む彼等の事を時々思い出す程度になっていた。


 あれから沢山の生物が生死を繰り返し、かつてミトラの一部であった物は原形を失い多様な自我を形成した。


 自我と力を持った精霊達は、ミトラを【母なるミトラ神】と崇め宮殿を建設し、金銀財宝でミトラを飾った。


 ミトラ神の宮殿内はとても賑やかで美しく、美の極みたる容貌と気高さを兼ね備えた優しいミトラの周りにはいつも沢山の精霊達が集まっていた。


 地上では人間が栄華を極め、ミトラや大きく育った精霊達が、神々とされて信仰され、各地に神殿が造られ国々が生まれた。


 いつものようにミトラが宮殿で魂の質量を天秤にかけていると、ルシフェルがこっそり母に会いに来た。


 ルシフェルの話しでは、養父が妻となる者を欲しがっているらしい。ミトラは暖炉の墨から女を造り彼に渡した。


 またある日、ミトラが側近のハーデスとオシリスを従えて中庭でお茶を飲んでいると、ルシフェルが訪ねて来て彼が時間軸を欲しがっていると伝えてきた。


 ミトラは「彼が不死身で無くなるがいいのか」と問うたが、ルシフェルは「彼は正真正銘の自分の子が欲しいのだろう」と答えた。


 ルシフェルは既に不機嫌だったが、金銀財宝で飾られた宮殿と、脇侍神の代わりに側に侍るハーデスとオシリスを見て更に不機嫌になった。


「あの時、貴方が私達を連れ帰ってくれていたら、その居心地の良さそうな席は私と弟の物だった」


 ルシフェルは去り際にこんな事を言った。ミトラは彼に時間軸を与える事をルシフェルに約束した。


「ここは貴方達の生家なので好きに帰って来ると良い」


 ミトラはルシフェルの背中に向かって言った。


 妻と時間軸を手に入れた彼はやがて死を迎え、後はその子孫達が繁殖し溢れかえっていた。ルシフェルとミカエルは天界と呼ばれる彼等の空間で良く彼等に仕え、時々地上の様子を彼の子孫に伝えていた。


 どうやら地上では自分達に良く似た生物が繁殖し、ミトラや精霊達を神として崇め奉っているようだ。


 自分達に時間軸を与え死をもたらした死神ミトラ神が信仰されているのが彼等には気に入らなかった。


 そこで、彼等はルシフェルとミカエルを地上に降ろし、自分達こそが全知全能の神であると地上の人間に知らしめると共に永遠の命を奪還する事にした。

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