26.情報屋

途轍もなく広大な始まりの町の中で、チビ助は如何にして凪の所属ギルドを知ることができたのか。


時は、チビ助がウィンドギルドにやって来た少し前に遡る。



◆◆◆



『ここが情報屋の隠れ家であるか。ただの洞窟に見えるが、座標はここで間違いない』


[情報屋リテラシィ]、先日昇格したばかりの同じくBランクのトッププレイヤーの一人。


彼には、どうやら戦闘能力は全くと言っていい程ないらしい。彼とはいっても、性別すら不明だが。では何故、Bランクに昇格できたのか?


それは、驚異的な情報収集能力の賜物だろう。噂によれば、彼は最初の昇格試験を、ギルド職員たちの弱みを用いて脅すことで突破したという。


その後の昇格試験も怪しいものだ。おそらくギルド職員や運営を脅迫し、データを改竄させ無理やり昇格したのだろう。


彼の情報網を使えば、手掛かりを得られるかもしれない。そう考えたチビ助は、第二草原の渓谷に潜んでいるという、情報屋に会いに来たのだ。


《用件は》


地面の下、渓谷の奥に来たチビ助に、コンピュータの合成音声のような声が薄暗い中どこからともなく語りかけてきた。


『ある情報を買いたい』

《一体何の情報?》

『その前に、本当にお主の情報収集能力は凄まじいものなのか、是非とも確認したい。もしかしたら、俺の情報網の方が上かもしれないと思ってな。俺よりも下ならば、情報を買う意味もないであろう』

《へえ。私の情報収集能力すら情報収集できていないとは、暗殺者トップが、聞いて呆れる》


チビ助が僅かに顔をしかめた。


『…本当にお主は凄い情報収集家なのか?俺なんて、普通に近くを通り過ぎたプレイヤーのほぼ全てに発信器をつけてるが?』


それに対して、合成音声はいとも容易く言い返す。


《へえ。私は近くだけでなく、半径10メートル以内に一度でも入った全てのプレイヤーに発信器を付けるくらいが、常識だと思っていたが…?》

『残念だったであるな。俺の近くっていうのは15メートル以内のことだ』

《言うまでもないけれど、10メートル以内っていうのは、私がまだまだ弱かった時のこと。今は半径30メートルの全てのプレイヤーに発信器つけてるけど》

『ほお?口だけではどうとでも言えるであるしなぁ。今だって、そう言っといて俺に発信器は…』


そう言って、体を確認したチビ助は、驚きの表情に包まれた。


そう、チビ助の背中には、既に大量の発信器がジャラジャラと付けられていたのだ。


《驚いた顔をして一体どうした?貴方の背中に、私の発信器が30個くらい付いてるのが、そんなに不思議かな?》


チビ助もこれは誤魔化しきれないだろう。確かに、いつの間にか背中に大量に付けられた発信器に驚いてしまったのだ。だが、こんなところで引き下がるチビ助ではない。


『…いいや、まさか、発信器をつけた相手に気づかれるような大間抜けな付け方をするとは、思ってなくてな?』


流石はトッププレイヤーチビ助。見事にピンチを味方に変えたのだ。これで追い込まれたのはリテラシィの方、そんな安堵も、束の間でした。


《へえ?貴方の頭に付いている20個の発信器には気づいてないのに、よく言うねえ》


ふとチビ助が自らの頭を触って確認すると、大量の発信器がジャラジャラしていた。この発信器、高レベルの隠蔽魔法だけでなく、重力魔法なども用いて重さも0にされている。


『これは、気づかなかった…』


そう言って、チビ助は地面に膝をついた。するとバキッと音がした。そう、チビ助の膝にも発信器が付けられていたのだ。


『完敗だ。お主は本当に、恐ろしい情報屋である。では、情報を買おう』

《で、何の情報を買うの?私から買うならゴールド高くつくよ。情報の交換なら、それ相応の情報を提供してもらうことになるけれど》

『情報の交換だ。お主は、職業が″スキル名″のプレイヤーがいることを、知っているか?』


暫しの沈黙の後、合成音声はチビ助に答える。


《…知らないな。一体、どういうことだ?》


それは知らなかったか。まあ、幾ら発信器を付けたところでプレイヤーたちのステータスボードを覗きまくれる訳ではないからな。頼りにしているのは、その情報網の凄さだ。


『職業がスキル名というのはだな…』


そう言って、チビ助はリテラシィに、凪と職業盾術に関する情報を提供した。



《…とても価値のある情報だった。実に興味深い。で、貴方の欲しい情報というのは?》


合成音声がチビ助に尋ねる。


『凪の所属ギルドが知りたい。何か、行方の手掛かりになる情報を…』

《容易い。ほぼ全てのギルドは私のネットワーク下にある》


数秒後、合成音声はギルドから得たであろう情報を、チビ助に伝えた。


《ウィンドギルドだ》

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