6.Cランク魔物

『俺たちはインスタグラマアだ』などと訳の分からない供述により、佐藤の勧誘を見事に振り切った石田と、未だにレベル1の俺は、再びレベル上げのために始まりの森へとやって来ていた。


ネズミーマウスを召喚して魔物を狩りまくっている石田のレベルは既に6、一方俺はレベル1。このままでは流石に宜しくない。先ほど森で主にネズミーが稼いだゴールドで、俺は鉄の剣と鉄の盾を購入し装備していた。


だが、戦闘職ではない…というか、職業ですらないためか、なかなか攻撃に使えそうな戦闘スキルも手に入らない。


それでも、経験値が全く入らないという訳ではない。盾で魔物の攻撃を防ぐことで、少しずつ経験値を得ることができた。


気付けば、俺たちは大分森の奥深くまでやってきていた。


『凪、なんか強そうなの来たぞ』


道の先を見ると、頭からは角を生やし、巨大な斧を手に持った、二足歩行の強そうな魔物がこちらを見ながら立っていた。


[newスキル 戦力測定]

[newスキル 魔物図鑑]


宙に浮く水色半透明のボードに表示させていたスキル一覧に、新しいスキルが現れる。直後、感覚的に視界の魔物の強さを微かに感じることができるようになった。魔物図鑑は知識系のスキルらしく、基本的な魔物の情報にアクセスできるらしい。


「石田。あれ、Cランク魔物のミノタウルスだって」

『Cランクって、どのくらい強いんだ?』

「SからEまである内のC。イノシシがDだ」

『てことは、今までの魔物より少し強いくらいか?なら、俺たちならいけんじゃねえか?』


確かに、特に石田の召喚獣の強さは並ではない。上手く戦えば、勝つことも出来るかもしれない。


「よしわかった。じゃあ、ここは慎重に…」


その刹那、ミノタウルスから勢いよく巨大な斧が回転しながら真っ直ぐ飛んできた。


斧は俺のすぐ真横を通り過ぎ、斜め後ろでドゴッという轟音と共に土煙が舞った。


「何!?」


すぐに後ろを確認する。石田は無事のようだ。だが、石田は絶望的な顔で冷や汗を浮かべていた。


『やべえ。ネズミー即死した』

「ま?」

『ま』


やばいやばいやばい。今の一撃で?あの俊敏なネズミーが避けることもできず即死?


ミノタウルスの方を見ると、奴は今投げたのと同じ斧を、魔法で手元に生成している最中だった。


…ゲームだから死んでも大丈夫だって?前言撤回。少なからず痛みはあるし、何より奴が怖い。ずっと助けてくれた無敵のネズミーも今はいない。一切の安心感がなくなった。その辺のホラーゲームよりずっとホラーだ。


「やばくね」

『卍』


直後、ブォンと空を切る音がした。


「避けろ石田!」


石田は狩の要だ。こんなところで3日も死んでもらう訳にはいかない。俺は反射的に鉄の盾を構え、猛スピードで飛んでくる巨大な斧の前に、無謀にも立ちふさがった。俺は死を覚悟した。


『あざーす』


ん?今あざーすって言った?かなりの恐怖に襲われながら、勇気を振り絞ってシリアスに守ったんだけど、あざーすはなくね?


ドゴーーーン!と爆音が響き、再び土煙が舞い、盾を構えていた俺の姿が消えた。


『卍』



[以下の新しいスキルを獲得]

[盾術・耐久 盾の耐久性上昇]

[盾術・頑丈 盾の頑丈性上昇]



◇ ◇ ◇



『な、凪がやられた…』


これは流石に卍。Cランク魔物になると一気にあんな強くなるなんて思ってなかった。


宙のボードから、俺が今使える魔法を調べる。パッと見、無属性の初期魔法が使えるようだった。


わかりやすいので言えば魔法弾やマジックシールドなどがあったが、召喚魔法以外は正直初見故に、実戦でいきなり使えるかと言われれば不安でもあった。


奴はこちらを見ながら、再び手元に巨大な斧を生成している最中だ。ゲームだとは思えないほどの恐怖心がこみ上げる。


『あああ!卍卍卍卍!』


[new魔法 一時的語彙力強化]


お、新しい魔法を得た。試しに発動してみよう。


一時的語彙力強化 発動!


『いと卍』


ぜんっぜん強化されてない。


『くそっ、俺の闇のモンスターはまだ出てこれないのかよ!出てこいよネズミーマウス!』


[対象召喚獣はクールタイム中です]

[対象召喚獣はクールタイム中です]

・・・


『ちくしょう!魔法発動、マジックシールド!』


俺はこう見えて魔力量はAだった。それにレベルも6なんだ。斧くらい…、防げるだろ。そうだろ?


石田の前方に、白く光り輝く半透明の魔法の壁が展開される。それは、どんな攻撃も防げそうな強力な障壁。念のため、あと2回マジックシールドを発動し、魔法障壁を三重に展開する。


後は、この壁で守りながら、森の外まで逃げ切れるかどうかだ。天に召された凪のためにも、ここで俺まで死ぬわけにはいかないんだ。


『さあ、かかって来いよ。ミノタウルス野郎』


ミノタウルスは腕を大きく振りかぶり、巨大な斧を投擲した。


斧と魔法障壁がぶつかり、バリンという音がしたかと思うと、瞬時に全ての壁が割られ、斧が目前に迫った。



◆ ◆ ◆



「いってえな」


ミノタウルスの投げた斧がクリティカルヒットしたはずの俺こと凪は、何故か辛うじて生きていた。


斧によって吹き飛ばされたものの、割と近くの木にぶつかって止まったらしい。少し奥にミノタウルスと石田の姿が見える。


盾による防御が、成功したのだろうか。しかし今悩んでいる暇はなかった。今にも、ミノタウルスは石田へと斧を投擲しようとしていた。


俺は確かに防げたはずだ…。ここまで吹き飛ばされたあの一撃を、召喚士石田の防御魔法で防ぎ切れるかはわからない。デスペナは3日間のログイン不可。死なれちゃダメだ。確実に、俺が、盾で防がなければ。


俺は打たれた体に鞭を打ち、全力疾走で石田のところへと駆ける。

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