第13話 モンスターと村の発展


 村に戻ると、村はさらに見違えていた。

 畑は広くなっているし、新しい家もたくさん建っている。酒場や店も出来て、何より驚いたのは、既に教会が建っていたこと。

「……たった一年で、こんなに!?」

「ああ、大工を何人も連れて来たんだ。ナミに頑張って貰って、あちこちの街や村から。そのまま、ここの住人になった者もいる」

 ジールは優秀な村長だ。

「お兄ちゃん!早く教会を見て!私もお手伝いしたのよ」

 ジールとルルーと一緒に教会に入った。

 木のベンチが並んでいて、正面に十字で区切られた大きな窓。その前に机があって、花が飾られていた。

 小さくて素朴な、とても優しい感じのする教会だ。

「気に入った?」

「ああ、すごく!ありがとう!」


 その日は皆が、神父の誕生を祝って宴会を開いてくれた。村の全員が広場に集まって、歌ったり踊ったり、そして皆が笑顔だった。

 これが、多分、本当の『平和』だ。

 僕はこの村の平和を絶対に守りたい。


 それから数ヶ月、僕が『神父様』と呼ばれるのにやっと慣れてきた頃、ルルーに魔法を教えていたお婆さんが死んだ。

 お婆さんは少し前からベッドから起き上がれなくなっていて、ルルーが世話をしていた。そしてある日僕を呼んで言った。

「神父様、蘇生はいりませんよ。もう長く生きたんじゃから。このまま、静かに死ねたら、私は幸せ。……あんた達が来てから、本当に毎日、楽しかったよ。ああ、本当に幸せじゃ」

 そして息を引き取った。

 僕達は村の外れにお婆さんのお墓を作った。


 ある日、村の子供が「モンスターを見た!」と騒いでいた。

 その子達の話によると、数人で近くの森で木の実を集めていたら、少し離れた場所でガサガサと音がした。ウサギなんかの小さな生き物ではない。子供達はすぐ、近くの木に登った。この森にはたまに猪が出るので、子供達は木の上に逃げるよう、大人に言われている。

 木の上で息を殺して見ていると、出て来たのは動物ではない、見たことのない生物だった。それは水の塊のように見えた。青のような緑のような、ぐにょぐにょした生き物だった……。

 子供達の話が本当なら、それはきっとスライム系のモンスターだ。だが……。もう何年もモンスターなんて見ていないし、にわかには信じられなかった。

 それでも一応、大人達で森を探索した。すると、本当にいたのだ。もちろんモンスターは退治された。その後も森を探したが、その一匹以外には発見されなかった。

 なせ今まで発見されなかったのか?

 その森は村から一番近い森で、男達は森の奥まで行って狩りをする。ほとんど知り尽くされた森なのに……。

 考えられる可能性はまず、ひとつしかない。のだ。つまりそれは、魔王が復活したと言うことだ。


 ジールの号令で、念のため村の回りを防御柵で囲む事になった。

 広い畑まで囲いこむのは時間がかかりすぎるので、先ずは家のある場所を守る形にした。それでも大事業だった。

 同時にジールは、子供達に戦い方や魔法を教えるべきだと言った。幸いこの街にはフレド達、元モンスターハンターがいる。魔法を使える者は少ないが。


 防御柵がひとまず完成したのは数ヶ月後だった。

 その間、森で発見されたモンスターはわずか数匹で、大人であれば一撃で倒せるような雑魚だった。そのため、村にはそんなに緊張感はなかった。

 だが、ジールは気を緩めるな、と皆に言った。

「魔王が復活した事は確実だ。であれば、徐々にモンスターは増えていくのではないか」と。

 街の方でも、魔王復活の噂は既に現実のモノとして認識されてきたらしい。

 職を失って路頭に迷っていた元冒険者達がにわかに活気づいているようだ。


 ───それからまた数ヶ月後。

 僕が村の神父になってから約一年半。

 ジールが予想した通り、少しづつだか確実に、モンスターの数や種類が増えてきた。

 そして村に、冒険者がやってくるようになった。その多くはモンスターを追って山を越えて来た、磨石目当てのモンスターハンターだ。

 この村は東の川以外は、周りを山と森に囲まれている。山や森、洞窟など、人が居ない場所は強いモンスターが湧きやすい。

 僕の教会にも怪我をした冒険者や、瀕死の冒険者がやって来るようになった。回復を受けた冒険者は寄付をしてくれるので、僕も助かる。

 ……聖職者としては下世話な話だが。


 ジールは酒場の二階に冒険者のための宿屋を作った。人手が足りなくなって来たので、ナミがあちこちの街や村で住民を勧誘して来た。ルルーは今や酒場の看板娘だ。

 店も増えた。鍛冶屋達は冒険者が来るようになったので元の仕事を再開した。大工は大忙しだ。

 次は川に橋を架ける計画が進んでいる。

 村はどんどん人が増えていき、豊かになっていった。


 でも僕の生活はあまり変わらなかった。

 朝は祈り、昼は畑を耕し、夜は祈る。

 その合間に回復や蘇生をし、たまに釣りをする。

 夜、酒場に夕飯を食べに行くと、冒険者達の話が聞こえる。ルルーが冒険者から聞いた話をしてくれる。ナミがあちこちの街や村で聞いた話をしてくれる。


 僕は駆け出しの冒険者だった頃を思い出す。そして、自分のこれからを思う。

 僕はまだ若い。

 僕はこのままこの村で、教会の神父として生きて行くのか?ずっと?


 ────いやだ


 !!?

 いや、いやいや、そんな事ない。

 僕はこの村が好きだ。

 僕はこの村の神父だ。

 僕はこの村の平和を守りたい。


 心に浮かんでしまった気持ちを、慌てて打ち消した。












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