第9話 ナミ


 フラッと街へ行ったら懐かしいジールとルルーに会って、びっくりしたわ。

 ルルーが十二歳になったって言ったから……九年ぶりか。私も年を取るはずね。

 ジールが村長になったって聞いて二度びっくりよ!でも、真面目なジールには似合いそうだわ。

 おまけにサミエルが盗賊の親玉ですって!? 三度びっくり。──本当にアイツは何を考えてるのかしら。サミエルが盗賊になるなんて、ドラゴンの魔石を漬物石に使うようなものだわ。


 面白そうだから、付いて行く事にした。魔王が倒されてから、ヒマで退屈してたのよ。

 街を出て二日目、隣村に着いた。

 夜、ジールがサッサと寝ちゃったから、フレドと二人で酒盛り。

 フレドに何で私達の最強パーティーが魔王討伐の前に解散したのか、聞かれたわ。

 うーん、喋っちゃっていいのかな?

 ま、いいか。昔の話だし。

 ──痴情のもつれ、よ。

 マリアとジールが恋に落ちた。サミエルが嫉妬した。それだけ。

 ……え、詳しく?

 ジールとサミエルって、元から性格が合わなかったのよ。ジールはあの通り真面目で、曲がった事が大嫌い。サミエルは……変わり者。感情の起伏が激しいの。でもそんなに悪い奴じゃないわ、なんか、憎めないのよね。スマートでイケメンだし、街では女の子に大人気だったわ。

 二人は普段、あんまり話さないんだけど……いざ戦闘になると、二人の息はぴったりだった。無敵だったわ。惚れ惚れするわよ、ほんと。

 マリアとサミエルは幼なじみなのね。サミエルはきっと……子供の頃からずっと、マリアが好きだったんじゃないかしら。でもあの性格だから、気持ちを現したことはなかった。

 マリアがお腹の中にジールの子を宿した時は、見ていられないほど荒れてたわ……。

 マリアがパーティーを抜けてから、魔法使いと僧侶をメンバーに入れて暫くやってみたんだけど……ぜーんぜん、ダメだった。サミエルが勝手な事するし、ジールが咎めると突っかかってくし。私じゃ止められなかった。……マリアじゃないと。

 新しいメンバーは直ぐに呆れて出て行ったわ。また新しいメンバーを入れても同じ。それでパーティーは空中分解よ。

 ────こんなところかしら。


 ベッドに入って、サミエルの事を思う。

 マリアが死んで……サミエルはジールを憎んでるわ……。

 マリアが死んだのは病気、ジールのせいじゃない。サミエルだって分かってるはずだけど、マリアを失った悲しみを処理できないでいる。

 可哀想な奴……。

 私も、あんたも。


 翌朝、隣村を出て洞窟へ向かう。

「ねぇ、サミエル盗賊団が居るかもしれないんでしょ?……念のためかけとくわ」

 念のためって言ったけど、絶対、サミエルと会うはず。きっとアイツは待ってる。ジールを。

 私自身を含めた全員に、防御系魔法をかける。

 ジールには念入りに。魔法防御、物理防御、筋肉増強、視野拡大、重力軽減、精神安定──。はぁはぁ。

 魔力半分くらい使っちゃった。

「ナミさん、すごーい!」

 ふふふ、ルルーが尊敬の眼差し。余裕の笑みを返しておくわ。


 洞窟の中は、所々に松明が掲げてあった。私の照明魔法はいらないみたいね。

「来る時にはなかったよ」ってルルー。

 ふーん。て事は、やっぱり。ほら……サミエルの気配が、する。

「ジール、居るわよ……サミエル」

「そうか」

 しばらく行くと広い場所に出た。何本もの松明で明るく照らされてる。

 ──サミエル。


「よう、ジール!待ってたんだ──あれぇ?……懐かしい顔があるねぇ!」

「サミエル、久しぶりね〜!……元気?」

「ん〜、まぁまぁかな。何、メンバー交代?」

「……サミエル、用件を言え。また通行料か?」

「……全く、相変わらず不粋だなぁ、ジールは。久しぶりに昔の仲間が揃ったってのに。……一人、足りないけど」

「……」

「ジール、決着をつけたいんだよ。ボクとタイマン勝負してくれない?」

 そっと周囲を検知する──誰も、居ないみたいね。

 サミエル、あんたってば……バカよ。

「何の決着だ? 俺にはお前と戦う理由がない」

「────こっちにはあるんだよ……ぉぉお!!」

 サミエルが魔法を放つ。

「さがれ!!」

 言いながらジールは剣を抜きサミエルに飛び込んでいく。


「見守りましょう」

 フレドは手出しはしないと思うけど……ルルーは抑えておかなくちゃ。今はポカン、と見てるけど。父親が負けるかもなんて、想像したこともないだろう、このは。


 ジールが間合いを詰めると同時に、サミエルは退く──退きながら魔法を放つ。ジールがそれを避けながらまた斬りかかっていく。

 久しぶりに見る二人の戦いぶり。今でも見応えあるわ。でも……。

「すっげーな……」

 フレドが目を見開いて、二人の動きを追っている。

 こんなモンじゃないわ。昔はもっと、動きにキレがあった。もっと速かった。──しょうがないわね、私達、もうとっくに全盛期を過ぎたんだもの……。

 お互いに相手の戦い方を熟知しているから、攻撃が当たらない。でも、サミエルの戦い方は……たぶん時間稼ぎだわ。サミエルは気づいてる。ジールに施された私の補助魔法。それがもうすぐ切れる事も。

 徐々にジールの動きが鈍くなる。サミエルの魔法が当たりだした。


「ルルー、ダメよ」

 ルルーが不安気な顔で私を見上げる。その小さな手に魔力をみなぎらせて……。

「大丈夫。どちらかが危なくなれば、私が止めるから。ね?」

 嘘。私にはどちらも止められない。ジールはきっと、止めを刺さない。でもサミエルは……。


 サミエルは待ってる。ジールの体力が消耗するのを……。剣の勝負ならサミエルはジールに勝てない。魔法だけでも無理。サミエルの魔力はそんなに強くないから。──最初からずっと、魔法を小出しにして逃げまわって、ジールを動かせてるのは、ジールの体力が減るのを待って、動きが遅くなるのを待って、隙が出来たら一気に魔力を剣に集中させて──決着をつける気だわ。その瞬間に、ジールに魔法防御をかけよう。私に出来るのは、それだけ。


 その時がやって来た。

 ジールに僅かな隙が出来た。その瞬間、サミエルの剣が赤く光る──同時に私もジールに防御魔法を放った。


 ────── ?


 あれ?

 私の放った魔法の先に、ジールは居なくて──魔法剣で斬りかかったはずのサミエルが倒れていて──その喉もとに、ジールの剣が……

「サミエル!!!!」

 私は叫んでいた。一瞬の、出来事。


「……まだ、生きてるよ」

 ────っ〜〜〜、気が抜けた。

「まんまと騙されたよ、ジール」


 ジール、わざとだったのね。もっと速く動けるのにそれを隠して……体力は温存されてるのに疲れたふりをして……わざと隙を作って。

 ジールは全く、衰えてなかったんだわ。

 私は二人に近寄って行った。


「……早く、殺せよ」

「もう、いいでしょ、サミエル。あんたの負けよ」

 ジールはまだ剣を引かない。

 ──お願い、ジール。殺さないで。私が好きだった人を。

「……ジール」

「お父さん!」

 ルルーの声に、やっとジールが剣を収めた。 二人に回復魔法をかける。

「あ〜、魔力、切れちゃったわ。少し休ませてね?」


 良かった。二人とも無事で……。


「サミエル。なんで盗賊なんてやってるのよ」

「──は?ボクが?……ああ、通行料の事か……あれは村長に頼まれて」

「へ?」

 


















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