第7話 街道で


 久しぶりにベッドで寝て、疲れが取れた。元気に出発だ!

 村を出てから十一日目。

 ここから街までは街道を歩けばいいから、楽だ。明日は街に着く。

 ……街で僕は、僧侶として暫くの間、教会で修行する事になる。神父になれるまで、どれくらいかかるんだろう。

 この旅もあと少しだと思うと、なんか寂しくなってきた。


「人が居ないと思わない?」

 街道を半日ほど歩いたが誰にも会わない。この街道はいくつもの村や街とをつなぐ道らしいから、商人が行き交ったりするよな、普通。

「確かに……モンスターも居なくなったんだし、もっと人が出歩いててもいいはずだ」

 と、噂をすれば──行く先に人が見える。

 だけど近づいて行くと

「ここを通りたけりゃ、一人百ゴールドだ」

 またかよ!

 ただ今度は一人じゃない。物陰から四人出て来た。合わせて五人。


「……お前らもサミエルの手下か?」

「サミエルだと? 冗談じゃねぇ、あんな女みてぇな奴の下につけるか!──痛い目をみたくなけりゃ、金と食い物を置いてきな……!」

「ちょ、アニキ、こいつジールじゃねぇか?」

「……ジールって……あのジールか?」

 あれ?ジールって有名人?

「だ、大丈夫だ!一人はガキじゃねぇか!しかもこっちは五人だ!」

「いや、止めた方が……」

 何やら仲間内で揉めてるぞ……。

 フレドが小声で

(足下を狙って、軽く魔法を放ってやれ)

 ルルーに囁いた。

「……炎」

 ブワッ

「あッッちぃ!!?」

「ガキが魔法使えるじゃねぇか!」

「逃げろ!!」

 ──盗賊達は凄いスピードで逃げて行った……。

「ルルー、よくやったな」

 ジールに褒められて、ルルーが笑顔になった。フレド、グッジョブ。


 しばらく行くと日が暮れたので、街道を少し外れてテントを張る。

 火を焚いて食事の準備をしていると

「あの〜……、先程は失礼しやした」

 さっきの盗賊だ! 微妙に離れた場所から声を掛けてきた。

「武器は持ってません!ホラ!」

「……何の用だ?」

「その……こんな事頼めた義理じゃねぇのは分かってるんだが……」

 ──さっきも思ったけど、この人たぶん、悪い人じゃない。だって全然、怖くない。むしろ人の良さそうな顔してる。

「オレ達、丸二日間、食ってねぇんだ!!残りもんでも何でもいいから、恵んでくれ……!頼む!!」

「……どうする?」

 ジールが皆を見回す。

「いいよ。まだ食料あるし。明日は街に着くんだからなくなっても大丈夫」

「かわいそう」

「……オレも気持ちが分かるからな」

 と、これはフレド。

「だ、そうだ。仲間は何人だ?」

「い、いいのか?──ありがてぇ!ありがとう!ありがとう!」

 泣きそうな勢いだ。よっぽど、腹が減ってたんだな。……初めてジールに会った時のことを思い出した。

「仲間は五人だが、本当に、余りもんでいいんだ!」

「ここで一緒に食べようよ。他の人達、呼んできなよ」

「そ、そうか?分かった!おーい、お前ら!」

 ……木の陰から四人出て来た。


 僕達は残りの食料を全部出して、振る舞った。本当に涙を流して「うまい、うまい!」と食べる。

 ……聞けば、この五人の内三人は兄弟で、街で鍛冶屋をしていたと言う。

 後の二人は武器屋と防具屋だった。つまりこの五人の生活は一蓮托生だったワケだ。

 魔物が居なくなり冒険者が減って、武器や防具が売れなくなってしまった。

 困って隣村へ商品を売りに行ってみたが、入り口で金を要求され(アイツだ!)仕方なくなけなしの金を払い一人だけ村に入った。だが商品は売れず……おまけに帰り道で盗賊に会い、商品もわずかな食料も奪われてしまった……。やむにやまれず事に及んだらしい。

 ────ここにも平和な時代の犠牲者がいるんだ……。

「あぁ、助かった!あんた達は神様だ!」

「なんの礼も出来ねぇが……良かったら、あんた方の武器を鍛え直させて貰うよ。こう見えて腕はいいぜ!」

「それは助かる。それで、この先どうするつもりだ?」

 フレドが僕をチラッと見る。

「はぁ……わかんねぇよ……俺たち家族も居るんだ……どうすりゃいいのか……」

 ジールが僕を見てニヤニヤしてる。

「僕──」

「私達の村に来たらいいんじゃない?お父さんは、村長さんなのよ!」

 ────ルルーに取られた……。


 次の日。

 僕達は九人となって街に到着した。

 僕が居た街よりも、少し大きな街だ。

 ……だが、賑わいがない。行き交う人の顔が暗いし、物乞いが多い。

「皆、生活が困窮してるんだ」

 鍛冶屋の長男がやるせない顔をして言った。

 村への移住を家族に話す、という鍛冶屋達と別れ、宿屋に向かう途中──


「ジール!?ジールじゃない!」

「おお、ナミか!帰ってたのか」

「久しぶり〜!元気だった?」

「まあな……昔の仲間の、ナミだ。ルー、覚えてるか?」

「あらぁ、覚えてないわよ、小さかったもの……ルルー、大きくなって!」

 ルルーは判らないって顔。

「ちょうど良かった。ナミ、話がある。後で宿屋に来てくれないか」


 ──宿屋でも。

「ジール!久しぶりだなぁ!……娘か?大きくなったなぁ!」

「よお、ジールじゃないか!帰って来たのか?」

 どうやらこの街で、ジール(とルルー)は有名人だ。

 僕達は荷を卸し、ジールとフレドは村から持ってきた物を売りに行った。僕はルルーに街を案内して貰う事にした。

「えっと……あっちに行くと私とお父さんが住んでた家」

「ここに雑貨屋さんがあったんだけど……ないね」

「この公園で良く遊んだの」

 ルルーは懐かしい、と言いながら街を歩き、緩やかな坂を上って行く。

「ここが教会。──お兄ちゃん、こっち」

 教会には入らず、裏手に回る。そこは大小様々な十字架が並ぶ、墓地だった。

 教会の建物から一番離れた一角でルルーは立ち止まった。

「ここ、お母さんのお墓」

 ──皆に愛されたマリア、ここに眠る──

「……気持ちのいい、場所だね」

 そこは日当たりのいい、風が良く通る高台で、遠くには海が見える。

「でしょう?……お母さんの事は覚えてないけど、私、この場所が好きだったの」

 僕達はしばらくそよ風に吹かれながら、海を眺めた。……ここで修行するなら悪くない──。

「ここに居たのか」

 ジールが小さな花束を持ってやって来た。膝をつき花を手向け、静かに祈りを捧げる。厳かな時が流れる──。

「さてヨハン、神父に紹介しよう」


 神父様は僕を歓迎する、と言ってくれた。通りかかった年配のシスターが、

「まあ、ジールさん。──ルルーちゃん!大きくなったわねぇ。……お母様にご挨拶しましたか?」

 ルルーの頭や肩を優しく撫でた。

 その慈愛に満ちた目は、僕を育ててくれたシスターに似ていた。


 次の日、村へ戻るジール達を見送ると、僕の修行生活が始まった。





































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