第13話 誘拐未遂?

 -・*・- オリ視点

 賑やかな王都の、その裏側。

 少し奥まった場所にある、まだ新しい商会本部の扉を叩く。


「......お姉さん綺麗だね! デューにいの彼女さんなの?」


 ゆっくり開いた扉からひょこっと顔を出した6歳くらいの女の子が、目を輝かせながら問う。

 デューにい......デューの妹さんか。


(そういえばデューも私と同じ、孤児院の出身だったっけ)


 そう考えつつ腰を落とし目線を合わせる。


「私の名前はオフィーリア。城で騎士をやってる。デューとはただの友達だよ」


「そっかぁ、お姉ちゃんになってほしかったんだけどなぁ」


 しょぼんと目線を落とし、口を尖らせる。

 その子ども特有の可愛らしさに苦笑しつつ、何かフォローをと口を開きかけたとき、建物の奥からかつかつと人が近づいてくる音が聞こえ、扉に人影が見えたと思ったら、その子が2本の手に抱き上げられた。


「お前お客に何を......へ、オフィーリアどの?」


「違うよ、お客様じゃないよ! デューにいのお友達なんでしょー? 私知ってるよ!」


 私の顔を見てきょとんとしたデューの腕の中で、その子が得意げに笑った。




「えぇと、殿下は?」


 子どもを中に入れた後、外に出てきたデューが言った。


「昨日勉強終わってなかったから置いてきたよ」


「あーなるほど......じゃあ、あそこにいるアレは見つけない方が良かったやつですかね」


 と言いながらデューが指した先にいたのは、フードを被ったリアム。今は、この路地より一本表の道で花屋のおばあさんと歓談中のようだ。


(というか、私にならともかく騎士でもないデューに見つかるって、一応武道をやっている身としてどうなのリアム)


「ーーアレは後でシメるから。それより、まさかそこで荷物運んでるのはグレイどの?」


 建物の横につけられた馬車から荷物の運び下ろしをしていた男の方を見ながら言うと、その男がビクッと反応して荷物を足の上に落とした。

 グウゥっ! なんて聞こえてきた間抜けな声の主は、どうやら確かにグレイどののようだ。




「なるほど。それでグレイどのは、今はここで働いてるわけか」


 その後グレイどのとデューからことの経緯を聞いた。まさか私ら抜きで合っているとは思わなかったから、少し驚いた。

 更には、


「いやでも思ったよりきついんですよこれ。特に腰がなぁ」


 腰をさすりながらそう言ったグレイどのの口調が、以前と比べると垢抜けている気がする。

 それに気がつくと、「じじいか!」 「いやまだ20代だけどな?! 」なんて会話を繰り広げている彼らの雰囲気全体が、前とはどこか違うのだと気づいた。

 前は食わず嫌いみたいな感じだったけど、今は知り合い以上にはなれているんじゃないだろうか。


「ーーどうやら、仲良くなれたようで何よりだよ」


 まだぎゃあぎゃあと言い合う彼らにそう声をかけると、揃って嫌そうな目で見られた。

 その視線を受け流し、リアムを指差す。


「で、ね。2人とも。あそこで、無用心にも王家の耳飾りを晒してるフードの男を拐いに行かない?」




 -・*・- リアム視点

「また来るんじゃぞ~」


 そう言って見送ってくれた花屋のご老人に手を軽く振り返し、奥の路地に足を踏み入れる。


 確か、この道にオリは入っていったはずだ。全く、あるじを放って街に遊びに行くなんて酷い騎士だ。とはいえ、見つかったらニコッと笑いながらシメられるので見つからないように、


「フゴッ?!」


 いきなり背中に衝撃を受けたと思ったら、口を塞がれた。更に前からは男が歩いてくるが、その顔は路地の暗がりに滲んでよく見えない。


(賊か?! まずい、よりによってオリと離れているときに!)


 そう焦った俺に追い討ちをかけるように、目の前の男が口を開いた。


「ーー金になりそうだな、お前の耳飾りは」


「ッ?!」


 血を這うような、低い声。


(今の言い方、まさか、俺が王族だと知ってて?)


 ゾワっとした感覚が全身を伝う。

 手を剣に伸ばしかけた矢先、聞こえてきた声に思考が止まった。


「ーーーーお兄さん、随分と王都を満喫されているようだね」


 こつ、こつ、とゆっくり歩いてきた女がそう言ってにっこりと優美に笑う。それを見た目の前の男はスッと横に避け、その女を通した。


(ああ)


 さっきとはまた別の、だがさっきより断然強い焦りと恐怖とーーそして後悔が己を襲う。


 俺の幼馴染は、怒るとそれはもう死ぬほど怖いのだ。

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