第3話 怪しい繋がり

 -・*・- リアム視点

「まぁ簡単に言ってしまえば、予想は当たりですよ。どう考えても、これはバイロンジュニア1人でできるもんじゃない」


 とさっ、と資料を広げながらデューが話し始める。

 バイロンの息子をバイロンジュニアなんて言うのは失礼、なんて突っ込みはとりあえず置いておいて、それよりもだ。


「じゃあ、やっぱり」


「ですね。言いづらいっすけど、ルース殿下ーーあなたの弟さんが関わってるのは確実だと思います。というかむしろ......」


「むしろ?」


 デューが資料の一部を指差す。


「この香辛料の流通情報に関しては、バイロンジュニアが商会やり始める数ヶ月前のもんです。でもこの時点で既に国内への流通が広がり始めている。しかも、バイロンジュニアが商会を持ってからはほぼそこの独占販売ときてますから、」


「......俺の弟の方が先に他国に手を出してるってことか」


「そうなりますねえ」


 となると、状況は思ったより悪い。いや、他国の商品を安く仕入れて販売するということに関してはなんら問題はない。だがそれに関わっている人物がきな臭すぎる。


 第二王子と、この国一番とも言われる商会の跡取り息子、そしてここ最近軍事力を増してきた彼の国。


「ルース殿下が他国、そして我が国の要人とも繋がっておられるということになるわけだね」


 俺の後ろに立っているオリが淡々と要約する。


「だな。はあ、ったくあいつはなにやってんだ」


 思わず頭を抱えた。


(ルースは、昔から自分が王位継承権を持っていないことに憤りを感じていたようだったが、まさか今更狙っているつもりか?)


「王に報告するんですか?」


 デューの口調は、それがいかに重大な判断であるかということを伺わせないくらい軽くて飄々としている。

 それくらい、俺も余裕が持てたら良いのだが。


「......いや、しない。というか、今ルースがやってることは別になんら問題のあることではないしな」


「まぁそれもそうですよね~。でも実際のところどうなんですかね? 狙ってますかね、ルース殿下は」


 狙っている、というのは当然王位の話だろう。


「さあな。その話は数年前にルースに父上が話して解決したはずだから、俺としては自国の発展に尽くしてくれてるだけだと考えたいけどな」


 なんて言ってみると、途端に2人から凄いものを見るような目で見られた。見られたというかオリは俺の後ろにいるから見えないのだが、明らかにこっちを凝視して、いやもしかしたら睨んでるかもしれないくらいの強い視線をじりじりと背中に感じた。


「頭ん中お花畑ですか殿下......」


「本当にそう思ってるわけじゃないよね?」


 そして案の定溜息まじりに言われてしまう。


(いや、この2人、俺を突っ込むときだけ気が合いすぎだろ)


「だああ! だって、実の弟と争うなんてしたくないのは当たり前だろう!」


 その視線に居たたまれなくなって思わず叫ぶと、デューが呆れた様子で半笑いを浮かべた。


「殿下は優しすぎますね。いつか後ろから刺されますよ!」


「あ、もっと言ってやってよデュー。ほんと、私が苦労するんだからね」


 大げさに溜息をついて見せながらオリがそう返したのだが、少しそれには反論させてもらいたい。


「なっ、あのな、俺だって最近は強くなってきたんだぞ! 簡単にやられるか!」


「いや強くなる前にもっと周りに厳しくするとかですね......まあいいですけど。それより、バイロンがこれ以上市場を独占しちゃうと俺のところが厳しいんですけどね、どうしましょうこれ」


 バイロンが他国から安く仕入れている香辛料はこの国でも一応取れ、それらはデューの商会が品種改良なんかをしてかなりこの国でのシェアを上げてきていた。


「どうしましょうって言ってもなあ。俺が直接支援すれば、ルースに表立って対立することになるしな」


 当たり前だが対立は避けたい。

 そのことはデューもわかっていたようで、あっさりと頷いてそれでも残念そうにうなだれた。


「でっすよね~」


 すると、俺の横にオリが歩き出て口を開いた。


「なるほど。じゃあデュー、私が支援しようか」


「えっ! それは殿下にしてもらうより嬉しいですけど、殿下の護衛って立場じゃ結局同じ理由で無理じゃないですか?」


 おいちょっとそれはどういうことだ、と突っ込ませる隙をこいつらは俺に与えない。


「まあ私自身が何かっていうのは無理だね。でも私は貴族とか民間の人にも割と知り合いがいるからね。そっちで掛け合ってみることはできるよ」


「えっお前いつのまにそんな繋がりを」


「王子の護衛っていうのは大変なんすよ殿下! で、オフィーリア殿、お願いしてもいいですか?」


「うん、やってみよう」


「おおお嬉しいです!! あざっす!」


 早速、この貴族相手はどうかなんて話し始めた2人の間に最早入る隙はない。

 なんて、ちょっと拗ねつつ、俺も民間の協力者が必要だなあと感じ始めていた。

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