第5章 ジン編2 彼の帰る場所

第27話 王都騎士団副司令リンクス・ベイル

 『魔王』による王都陥落から一ヶ月。

 理由は不明だが、ヴァルター領地からの支援物資が送られる事に王都騎士団は大いに感謝した。

 人員の問題は今尚、切り詰めているものの、冬も本番になってきた今季において王都全域に暖かい食事が配られる事は人々に大きな安らぎをもたらす。


「ふむ。これにて『スフィア』のレポートは良しとしよう」

「はぁ……リテイク8回目でようやくですか」


 魔法学園校長、鳴狐真なるこしんは疲れた様にため息を吐くモルダを見て、ほっほ、と笑った。


「前は12回じゃったぞ。日々の成長を感じ取れるのぅ」

「ナルコ先生がまとめた方が絶対に早いと思いますよ……」

「妾は王都復興に尽力しておる。今も“歩兵”を五体同時に稼働中じゃ」


 ナルコは校長室の椅子にふんぞり返りながらも、部屋にある幾つもの魔道具を使い、今も魔法を展開している。


「私としては食事の平均値が前に戻ってくれたのが嬉しいです。先生、ヘクトル領主と何か取引したんですか?」

「ほぅ。何故、妾だと?」

「前に“ヘクトルは妾が育てた”とか言ってたので、その伝手があるのかと思いまして」

「あやつには星の数ほど借しがある。妾の方角に足を向けて寝ることは生涯許されん程にのぅ」

「ヘクトル領主もお気の毒に……」


 ナルコの腹黒さを誰よりも知るモルダはヘクトルに心底同情した。


「まぁ、それ読みで引き受けたんじゃがのう」


 王都で活動する諜報機関『アルビオン』。

 十全な動きが出来る様にヴァルター領が支援を始める事は読んでいた流れである。表向きの条件としては『レコード』開示との等価と言う事になっているが。


「モルダよ、緑茶を淹れてくれぬか? そこに湯もある」

「……」

「お主も飲んで良いぞ。ついでに王都で食事にでも行くか。ジェシカも誘ってのぅ」

「……わかりましたよ」

「ほっほ」


 モルダはナルコが極東から取り寄せた道具で緑茶を淹れた。何度もやらされているので手慣れたものである。

 湯気の立つ緑茶の一つをナルコの前に、どうぞ、と置くと自分は近くのソファーに座って啜る。


「室内にも湯気が見える。冬も本番じゃな。凍死者が出なければ良いが」


 その時、遠くから角笛の音が王都に響いた。その音色は、敵襲を告げるモノ。


「ナルコ先生。これは……」

「早とちりのようじゃな」


 ナルコは特に慌てる様子もなく、ずず、と緑茶を啜った。






 城壁の上を見回る兵士は思わず眼を疑った。北から侵攻してくる騎兵隊の姿を的確に捉えたからである。


「おいおい……嘘だろ! くそ!」


 北の国境では隣国が侵攻の準備を進めていると聞いていたが、あちらは大きな運河を挟む為、突破される事は無いと思っていた。


「おい!」


 城壁の係所で暖まっていた二人の同僚たちの所へ飛び込む。


「交代にはまだ早いぞ?」

「違う! 敵襲だ! セトナック領が抜かれた! 北から敵が来る!」


 その言葉に同僚たちも慌てて立ち上がり、自分達の眼で確認するために城壁に出る。


「……マジかよ」

「角笛を鳴らせ! お前は下に行って門を閉める様に伝えろ!」

「壊れてる門はどうする?!」

「出来る限り荷物を置いて塞げ! とにかく急げ!」


 三人は各々の動きを開始する。

 ほどなくして角笛が鳴り、城門を走る一人は他の門の担当に直接伝えるべく走った。


「おっと、マズったねぇ……こりゃ、ボスに怒られるニャア」


 と、走る先に『猫』の女が短刀の刃を抜き、それを眺めるように座っていた。


「チッ! もうここまで来てやがる!」


 衛兵は腰の剣に手をかけ、『猫』の女は短刀を鞘に戻す。


「ん? 何を勘違いしているのかニャ?」

「お前は敵の斥候か!? 『獣族ビーストレイダー』……城壁を越えるとは!」

「いや……よく見ろニャ」

「なに……!」


 衛兵は『猫』の短い腰布にある紋章を見る。

 少し薄汚れているものの、王冠とその下を二つの剣が交差する紋章。それは――


「第二師団!? と言うことは……」

「味方ニャ。ウチはキャリコ。リンクス・ベイル副司令より、帰還の旨を伝えるように先行して来たニャフ」

「じゃ……じゃあ、あの騎兵は……?」

「おー、城門は閉めない方がいいニャア。ウチのボス王都の事を聞いてからずっと機嫌悪いから吹っ飛ばすかも」


 そう言うと、衛兵は慌てて誤報の角笛を吹きに戻った。


「んー、久しぶりの王都ニャ。ボロボロだけど、キラ姉は元気かニャァ♪」






 騎兵隊が勢い良く王都の門をくぐる。

 その慌ただしい帰還に殆どの市民と巡回していた騎士と魔術師達は注目する。


「リンクス副司令!」

「第二師団が帰ってきた!」


 騎兵隊の先頭を駆ける馬に乗る『人族』――リンクス・ベイルを見て一斉に声を上げた。

 リンクスは視覚をマスクで、聴覚を遮音器にて塞いでいながらも的確に周囲を把握していた。

 誤報で強制的に城門へと駆けていた騎士達は計らずとも出迎える形となったのだ。


「けど……帰還人数は少なくないか?」

「あぁ。確か……第二師団は500で出たハズだよな?」


 第二師団は総勢約500人の大隊。しかし、王都に帰還したのは50にも満たない。

 最後の調査は【陵墓】だったと聞いている。まさか、そこで大事故でもあったのだろうか。

 そんな王都騎士達の心配をよそに騎馬隊の先頭を走るリンクスは告げる。


「ランロット」

「はい」

「今の王都責任者に私達の帰還を報告に行け」

「司令はどちらへ?」

「私は王城を見に行く。お前は報告後、待機だ」

「了解しました」


 『人馬族ケンタウロス』のランロットは数名の部下を連れて王都の本部へと向かった。


「各騎散開! 王都の状況を確認し、一時間でランロットに報告しろ!」


 了解! とリンクスの後ろを着いてきていた部下達は一斉に王都全体へ散る。


「ウェイン! ルーズ! お前達は学園に行き、鳴狐真を引きずり出せ!」

「OKボス」

「了解」


 褐色の肌と赤黒い眼が特徴である『ヒュドラ族』の男――ウェインと、『獣族』『兎』のルーズは各々応じる。


「私はハンクとキラに状況の確認を取る!」


 そう言って、リンクスと残りの二騎も別れた。






「こ、これはランロット卿! よくぞ……ご帰還を!」


 ランロットは別れた分隊と共に本部前にて蹄を止める。誤報に振り回された騎士たちが元の作業に戻った矢先であった。


「第二師団、総勢512人。【陵墓】の調査を切り上げ、北より帰還した」

「北……確か北方国が国境にて臨戦態勢だったハズでは……」

「奴らは敗走した。国境兵と我々による挟撃によってな」

「おお!」


 今の状況下に置いて、第二師団が戻ってきた事は何よりも心強い。しかし、


「約500の師団兵は……その戦闘にて大半が亡くなられたので?」


 城門の兵から王都へ帰還したのは約50人と聞かされている。


「だから……リンクス司令は反対だったのだ」


 ぼそりと、ランロットは王都の現状に歯噛みする様に告げる。


「先程の報告をもう忘れたか! 第二師団総勢512人は全員帰還した! 今は国内に散り、各領地と国境の調査に行っている!」

「おお! 何から何まで――」

「貴殿らは何をしていた?」


 ランロットは対応する上位の騎士へ眼光を向ける。


「王都では国民が今も嘆いている。陛下を死なせ、ライド様を死なせ、烈火司令を死なせ、民の顔には不安しか宿っていない」

「そ、それは……各領地より物資の配給が殆んどなく……」

「加えて、先程は戦闘をしようとしたな? 物資もなく、兵の士気も低い。何故抵抗しようとした?」

「そ、それは……王都騎士てとして民を護らねば――」

「民を護る意志があるのであれば、即座に降伏せよ。王都は騎士を護る街ではなく、王と民を護る砦だ! お前達の行為は民を危険に晒したのだぞ!」

「す、すみません!」


 ランロットは王都騎士は何も機能していないと察し、このままでは冬は越えられないと悟った。


「これより、王都騎士の指揮は我々第二師団が取る! 現在の上位役職の面々には追って処分が行くものと知れ!」






「面会だよ~面会。居るんだろ? あのバァさん」

「……」


 ウェインとルーズは魔法学園の前にて門番のレガリアと対面していた。


「悪いですが校長先生は今お忙しい。街中の“歩兵”は見ましたか?」

「ん? ルーズ見たか?」

「“音”は拾ってますよ」


 ルーズは王都を馬で駆けながらも周囲の索敵は怠らない。


「校長先生は今も王都の復興に尽力しておられます。故に余計な事に時間を裂く余裕はありません」

「だ、そうだ。どうするかねぇ、ルーズ」

「僕に聞く必要はあります?」

「確認だ。今、コイツが――」


 と、ウェインは眼にも止まらぬ速さで剣を抜くとレガリアへ横凪の一閃を――


「塀より5メートル」


 振り抜く前に、ウェインの喉元にはいつの間にかレガリアの手に握られた槍の切っ先が向けられていた。


「その範囲まで私の領域テリトリーだ。覚えておくと良い」


 ウェインが後、半歩でも踏み込めば喉を貫いていただろう。


「おいおい。勘違いすんなよ? 今の王都に求められているのはナニかって話だ」


 ウェインは力を抜くと剣を鞘に戻す。


「無能で王を死なせた『狐』のバァさんと、国軍の総力に匹敵する第二師団おれら。どっちかねぇ?」

「出ていけと言うなら従おう。我々とて、多くの魔術師を失った。ここが探求の場では無く、死地であるのなら新天地を目指すまでだ」

「聞いたかルーズ? こりゃ反逆だぜ」

「ウェインさん。いちいち、僕が同意したみたいな言い方するのやめてください」

「でも、同意見だろ?」

「定義によりますけどね」


 チリッと互いに向ける敵意が、場の緊張感を最高峰に引き上げる。


「もう一度だけチャンスをやるよ屋敷精霊ハウスバトラー。鳴狐真を呼べ」

「チャンスとは相手を上回ってる場合のみ機能すると言う事を知らぬようだな」


 ウェインは己の魔道具を発動し、顔に紋章が浮かぶ。

 レガリアは背後に無数の槍を従えるように切っ先を形成させる。

 ルーズも身体強化を発動し戦闘態勢に。


 両者、意見を譲らず。ただでは済まない盤面になり、後は開始の合図があれば双方の総力がぶつけられるだろう。


「ふむ。屋敷精霊には似つかわしくない敵意を感じた。少しは力が戻ったようじゃな、レガリアよ」


 その時、背後の学園からナルコが口許を袖で隠しながら姿を現した。


「!」


 そして、三人を抑制するように剣と槍を持った二体の“鎧武者”がその場に現れる。


「戦闘武者……」

「ナルコ先生……」

「レガリアよ。妾は少々忙しい」

「解っています」


 ルーズは冷や汗が流れる。

 目の前に現れた二体の“戦闘武者”はナルコの持つ戦力では最高峰。あの『パラサザク』を足止め出来る程の戦闘力を持っているのだ。


「姿は変わらずにお美しいようで」

「ほっほ。ウェインよ、思ってもいないことを言うでない。こんな“バァさん”など美しさの欠片も無かろう?」


 聞こえてたかよ。と表情は変えずにウェインは悪態をつく。

 妖艶に笑うナルコの眼は自分達を品定めをする様だった。それは、より質の良いモノを見極める様な……向けられて心地の良いモノではない。


「アンタの舌戦で勝ち目はねぇですから単刀直入に言いますよ」


 ウェインは更に戦気を漲らせて告げる。


「ボスがお呼びだ。一緒に来てもらう」

「嫌じゃ。これから妾は食事に行くのでな。息が詰まる話は後日にせよ」

「ウチのボスを知ってるだろ? 最速、最短距離で問題解決に走る人だ。来てもらうぜ。力強くでもな」

「ほぅ……」


 ナルコが短くそう言うだけで場の空気が何倍にも張りつめた。

 リンクスの隣で幾度も死地を超えてきたウェインは、その“重み”に思わず冷や汗が流れる。しかし、それ以上にリンクスからの指示は重いモノなのだ。


「よくやった、お前達」


 ナルコの放つ重圧を相殺する様にウェイン達の背後から並みならぬ圧が現れる。


「ボス……」

「司令」


 二人は現れたリンクスに道を開ける。


「リンクスよ。部下の教育がなっとらんぞ? 強き風を吹いても旅人のローブは剥ぎ取れぬ」

「余計な問答をするつもりはない! 答えろ! 鳴狐真!」


 リンクスは左右の“戦闘武者”を見ると尋常でない気迫でナルコに詰め寄る。


「“戦闘武者”にダメージの気配がない! 王都崩壊時……お前は何をしていた!」


 今にも左右の“戦闘武者”を斬り捨てる程の怒りを見せるリンクスは、留守に残した部下であるハンクとキラが死んだ理由を何よりも求めていた。


「やれやれ……そのお転婆ぶりは変わらずか。仕方ないのぅ。『レコード』を見せよう」


 ナルコは口で説明するよりも、実際に眼で見てもらう方が良いと判断し、三人を学園へ迎え入れる。






「……」


 校長室にて『レコード』の記録をアイマスク越しに全て“見た”リンクスは無言だった。


「以上が、あの夜に王都で起こった事じゃ。後にわかると思うが発生した『霧の都』へこちらから救援を送り、部隊はほぼ全滅。帰還したのは僅か三名じゃった」


 ナルコはレガリアが淹れた緑茶を飲む。

 リンクスの前にも緑茶が置いてあり、彼女の後ろにはウェインとルーズが護衛の様に立っている。


「……憤りが止まらん」


 目の前で停止した『レコード』の映像。そこに映る“剣を交える『勇者』と『魔王』”。

 それに今にも攻撃を仕掛けそうな気迫を向けていた。


「知っての通り、当時の王都には『勇者』が居った。お主の部下二人ものう」

「だが、二人とも死んだ」

「王都の戦士を一人で屠る相手じゃ。致し方もあるまい」

「……『勇者』は戦った。だが……戦士ではなかった」

「ほぅ……」


 リンクスの言葉にナルコは眼を細める。


「常識を越えた能力を持つ者は、己の回りで起こる奔流を理解する必要がある。『勇者』はソレを怠った」


 彼女の憤りは、『魔王』とそれに敗れた『勇者』の双方に向けられている。


「大言を息巻いて置きながら、陛下とライド様を死なせ、あまつさえ王都の民を危険に去らした。回りが見えていないガキが力を持ったが故にそのしわ寄せが我々に来たのだ」

「それについては同意じゃ」


 はぁ……とリンクスは額に手を当てる。


「だが……そんな『勇者』を支持する陛下を説得できなかった私も似たようなものか」

「お主はよくやっておる。あの夜、『魔王』の動きは完璧であった。音も無く王城に現れ、王を殺害。都の真ん中では全力で戦えぬ者も少なく無かった。お主と第二師団が居っても同じく討たれていた可能性が高い」


 ナルコは映像の『魔王』に視線を向ける。


「そして……こやつの放った“アンサー”と言う剣撃。この一撃で王都以外に滞在する、王家の血筋は全て死した事を確認した」

「……遠縁に至るまでか?」

「うむ。調査の結果、この夜に突如として倒れ、目を覚ます事は無く死去したようじゃ」


 呪術の類いにしてはあまりにも正確すぎる。“アンサー”は五世紀以上生きてきたナルコでさえ初めて見たモノだった。


「ヒトの輪廻……そもそも概念に触れる可能性があるのなら、誰も勝てぬ」


 最初に使わなかった様子を見るに、何かしらの条件があるのかもしれない。現時点ではこれ以上の探りは入れようがなかった。


「……」


 『魔王』個人の力量を分析するナルコとは違い、リンクスは王都襲来の一連の動きを見て別の解釈をしていた。


「『魔王コイツ』は戦略的に動いている。敵陣に単身で乗り込むのは、馬鹿か英雄のどちらかだ」


 情報を噛み締め、『魔王』の動きは他との連携が合ったのだとリンクスは瞬時に察する。


「お主はどっちと見る?」

「認めたくはないが後者だ。ヤツは全ての目的を達した。この国の敗けだ。誰がどう見てもな」


 現時点で別方面に広い視野を持つナルコとリンクスの考えは違っていても結論は同じだった。

 この国は敗けた。王と世継ぎ、王都の機能を殺され、完全な敗北を帰したのだ。


「だが、滅んだわけではない」


 リンクスのその言葉にナルコは妖艶に微笑む。


「ならば、次の一手はどうする? リンクス司令」

「ナルコ。お前が王をやれ」


 リンクスの迷い無い言葉にナルコは、緑茶を無言ですすった。そして、コト、と置くと、


「断る」


 日常生活でちょっとした事を否定するような口調で返した。


「妾は向いてない」

「今必要なのは国力の回復だ。それに必要なのは高いカリスマと多くの時を国の中枢で過ごしてきた者……お前だ」

「リンクスよ。それには大きな欠点があるぞ?」

「言ってみろ」

「やる気じゃ」


 ナルコは微笑みながら、半分になった緑茶を見る。


「妾に王をやる気概はない。適当に祭り上げても国の傷口を広げるだけ。器ではない」

「なら、お前が案を考えろ」

「ほぅ?」


 リンクスは腕を組んでナルコへ顔を向ける。


「理由はどうであれ、お前は王都を離れていた。何も出来ずに見殺しにしたのと同じだ」

「ほっほっほ。とんでもない解釈じゃな。それが適応されるのなら、お主にも言えるのではないか?」

「そうだ。故に私は次の王に揺るぎない忠誠を誓うと決めた。それが陛下を死なせ、民を不安にさせた私の償いだ」

「大きく出たのぅ。リンクスよ」


 当事者と成り得なかった自分をリンクスは悲観している。過去は変えられない。今は民の安寧となる未来を作る事が先決だ。


「血を流すのは我々騎士の仕事だ。図り間違っても民にその役目を押し付けてはならない」


 過去の戦いの後遺症で、眼と耳を駄目にしているリンクスは誰よりも国に忠義を尽くす騎士だった。


「ふむ。実はのう。妾は一つだけ『勇者』の提案した政策に感心できる事があったのじゃ」

「聞こうか」


 すると、レガリアが一つの資料を持ってくる。目の前に置かれたソレをリンクスは手に取った。


「……せんきょ? 聞き慣れない言葉だな」

「妾たちでは選定に偏りが出る。民の未来は民に選ばせてこそ、後悔の無い未来が紡がれると思っておる」

「……その考えは理解できるが、これは地方貴族たちの潰し合いになるぞ」

「他と民を納得させる程の器量があるのなら、ソナタも忠義を尽くすに値するであろう?」


 ナルコは少し冷えた緑茶を、ずずず、とすすった。


「ちなみに、王都が陥落した次の早朝には早馬を飛ばしておる♪」

「なに!?」


 リンクスはこの女狐に国を任せるのは大海原に気まぐれでボートを漕ぎ出すのと同義であると、改めて感じた。


「細かい規定を作る暇は無くてのぅ。まぁ、何でもアリな国王選抜じゃ」


 ナルコはそう言うが、リンクスは明らかに、目の前の狐は楽しんでやったのだと確信し、嘆息を吐いた。

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