第12話 絵本の騎士 後編

 それは終わりを告げる音。

 二つの戦いはこの鐘の音の最中に決した。

 ロイは正面から『ゴート』へ踏み込んでいた。

 攻撃超過による剣の範囲に『ゴート』を最短で入れる為である。

 何が来ようが止まるものか。たとえ、何を犠牲にしようとも、これだけは絶対に譲れない。

 鐘の音の中、ロイは三種強化の全てを発動し、即死だけは避ける為に『ゴート』へ全神経を集中する。


「……なんだ?」


 しかし、まだ無慈悲な力のネジれは来ない。先程はあれだけ頻繁にこちらを捉えようとしていたにも関わらずだ。


「チッチッチッ――」


 何か……何かが引っ掛かる。その時、ロイは思い出した。

 最初に『ゴート』に遭遇したときに、コイツは鐘の音を前に去って行った――


 そして、剣の間合いに『ゴート』が入る。ロイは横なぎに剣を振り抜いた。


「――――」


 すると『ゴート』は初めてロイの剣を避けた・・・


「……眼も鼻も耳もない。ならオレの位置を知るのは――」


 ロイはようやく答えにたどり着いた。

 『ゴート』がこちらを把握しているのは、“振動”だ。

 故に鐘の音が鳴り響く今こそが最大の好機であると理解する。


「チッチッチッ――」


 『ゴート』は後ろに下がりながら、ロイの位置を知ろうと口を鳴らす。

 対するロイは少しでも撹乱する為にジグザグに動き続ける。


「チッチッ――」

「捉えた!」


 剣の攻撃超過の距離。『ゴート』の首を凪ぐ一閃が振り抜かれ――


「ぐぁ?!」


 刹那、剣はまるで固い岩を斬りつけた様な衝撃に弾かれた。


 今のはナイフを空中で止めた時の能力か?!


 攻撃超過でも斬り裂けない硬度。ロイは落としそうになった剣を両手でしっかり握る。


 落ち着け……鐘はまだ鳴っている。


 今の状況が何時まで続くのか分からない。だが、焦れば焦るだけ動きが単調になる。


「チッチッ……」


 すると、『ゴート』は何を思ったのか近くに浮かせている半身だけのヒトを下ろす。そして――


「お前の勝ちだ」


 嗤いながらそう言うと、背後から迫ってくる霧に呑み込まれ、その姿は消え去った。


「……」


 『ゴート』が去ってからもロイは警戒を解かなかった。

 そして、鐘が鳴り止み霧が煙のように消えると、ようやく全身の力が抜ける。


「ハッ……ハッ……くそ……」


 三種強化の同時使用による反動で力が入らず、平衡感覚も乱れている。


「うう……」


 しかし、『ゴート』が置いて行った“彼”のうめき声で側に行かねばと力を振り絞る。


「君は……レティか……?」


 ロイは眼が機能を失うほどに永い間『ゴート』に拘束されていた“彼”を抱き寄せる。


「……違うのだな……どこぞの強者か……我が国の騎士か……『ゴート』を退けるのなら……有名な方なのだろう……」


 彼は久しく感じた人肌の温もりに安堵するように語る。その弱々しい口調からロイは“彼”が永くないと悟った。


「違います……俺は――」


 運が良かっただけだ。実力でも何でもない。最後も『ゴート』の気まぐれに命を救われただけ。


「……名も知らぬ強者よ……一つお願いがある」


 “彼”はロイの言葉は聞こえていない様子だった。


「まだ……祖国『ヴァンディール』があるのなら……私の耳にあるピアスと……言葉を届けて欲しい……」


 すると、“彼”の身体は時の流れを思い出した様にボロボロと崩れていく。


「アレンが……すまなかった……とレティシアに――」

「必ず……必ず伝えます――」


 その言葉が伝わったのか、“彼”――アレンは安らかな笑みを作り、その顔も風化と共に塵になって行った。






 広間の戦いも鐘の鳴り響く中で決着がついた。

 右胸にある心臓を貫かれたハウゼン。

 カーラは風魔法で刃と化した手刀を引き抜く。


「…………」


 壮絶だった。両胸を貫かれつつも倒れないハウゼンは騎士団を睨み付ける。

 その様は執念にも近い。騎士団は追撃を躊躇うほどに凄まじいものだった。

 すると、淡く転移陣が光り出す。


 鐘の音が聞こえる……その光は……あの子を引き裂く……止めなければ……何のために……オレはここに居る――


 ハウゼンは一歩踏み出す。しかし、全盛期に戻った力の代償は無慈悲にもここで支払われた。

 身体が端から塵へと消えていく。僅かな夢の対価は永遠の消滅であると教わっていた。


 まだだ……まだ……オレは――


 崩れながらも前に進もうとするハウゼン。しかし、何かを見た彼は歩みを止めると、残った瞳から涙を流した。


「後は……頼む――」


 すまない……ゼノン……先にゴールドマン様の元へ逝く――


 約500年間、一人の少女を護り続けた奴隷剣士ハウゼンは己の信念を貫き続け、その生涯に幕を下ろす。






「ッハァ!」


 敵が消滅し緊張から解き放たれたカーラはようやく大きく息を吸えた。

 同時に全身の力が抜け、立っておくこともままならなくなる。


「今手当を!」


 ジガンがよりキツくカーラの腕を縛り止血する。

 広間に現れた敵の総滅。生き残った騎士団は最初の三割まで減り、市民達は半数は殺されてしまった。

 それでも、生き残った者たちは互いに喜び会い、抱き合ったり、負傷した者達を手当する。


「……悲しむのは後だな」


 転送陣は機能している。人数が減った事で即座に起動できるだろう。

 ジガンは斬られたカーラの腕を布にくるんで近くに持ってきた。


「ジガン、点呼を取ってくれ。誰も置いていかない」

「分かっています」


 驚異は去った。他の通路からも敵が来る気配はない。いつの間にか鐘の音は止んでおり、霧も消失していた。


「……ノエル。ありがとう……」


 カーラはそっとノエルの遺体に感謝する。

 ノエルはカーラの後輩だった。彼女が新兵だった頃から付き合いで妹のような存在であったのだ。


「おにーちゃん……大丈夫?」


 壁に背を預けたまま、少しの間意識を失っていたサハリは、生き残った騎士団と市民達に治療されていた。


「……ああ。嬢ちゃんは怖くなかったか?」

「うん。助けてくれてありがとう」


 それは『死体喰らい』に襲われていた少女だった。少女の母親もサハリに頭を下げて礼を言う。


 サハリは自分の手を見る。深度を深めすぎた事でヒトから獣に近い姿から戻っていなかった。


「……けど、悪くねぇな」


 それでも、目の前の人たちを救えた事に対する満足感に自分の事は特に気にならなかった。


「君は無事だね」


 ジガンがサハリの様子を見に訪れる。


「ああ……ちょっと男前になっちまったがな」

「君のおかげで多くの命が救われたよ」

「……ギリギリだったけどな。ヤツはマジで強かった」


 結果として一対多数の戦いだったが、こちらが全滅しかける程に敵の実力は圧倒的だった。

 勝てたのは一人一人の思いが敵に引けを取らなかったからだろう。


「ノエルが逝った」

「ああ。見てたよ」


 カーラが眼を閉じさせているノエルの遺体へ視線を向ける。


「オレらも……気合いを入れねぇとな。ノエルに負けてらんねぇ」

「そうだね。王都に戻れば忙しくなるよ」

「そう言えば、ロイのヤツを見なねぇな」

「僕も捜してる。広間に居ないからこれから通路を見てみるよ」

「ったく。こっちは大金星だってのによ……」


 サハリはこの場に居ないロイの事を心配していた。

 『死体喰らい』なんかにやられるヤツじゃない。それにこれだけ広間が騒がしければどこに居ても戻って来るハズだ。


「……お前まで死んでんじゃねぇぞ、ロイ」


 ジガンがロイの居る通路へ向かった時、ふとソレに気がついた。


 片膝をつき、敵の持っていた大剣を手に取る一人の黒い騎士。あまりにも存在感が無かったので今まで気がつかなかった。


「……安心してくれ友よ。君の意志は繋がった」


 黒い騎士が立ち上がる。その時、場に居る全員がようやくその存在に気がついた。


「――敵」

「“アンサー”」


 黒い騎士の目が赤く光り、腰に持つ剣を抜き放ち横に凪ぐ。

 それは、一瞬の間を置いて景色が両断されたと見る者全てが錯覚した。

 全ての命が両断される。






 この場に居る者達は皆、満身創痍だった。

 精神的にも肉体的にも、無傷の者は居らず誰もが今すぐにでも膝を折りたかった。

 そこへ、現れた新たな敵。


 どうやって入ってきた?

 何故誰も気づかなかった?


「“アンサー”」


 と言った考えを巡らせる前に放たれた一太刀。その場の全ての命が糸が切れた人形のように膝から崩れて死を与えられた。


 黒い騎士の放った一太刀はそれだけに留まらず、発動を控えた転移陣を割れたガラスの様に破壊し霧散させる。


「あ……あぁ……」


 カーラは目の前で殺された仲間や護るべき市民達を見てそんな声しか出せなかった。


「なんだ……ふざけんなよぉ……」


 サハリも笑顔でお礼を言ってくれた少女とその母親が目の前で死んだ様を見ている事しか出来なかった。


「そうか……君たち二人は死に体か。それに距離が遠過ぎた故にズレが生じたみたいだね」


 広場で唯一生き残っているのは瀕死のカーラとサハリ。黒い騎士はその二人を見て納得する様に呟く。


「何だ……」

「ん?」

「お前達は……何が目的だ……」


 カーラはせめてサハリだけでも生かそうと黒い騎士の注目を自分に向けさせる。


「君たちが気にする事じゃない。それに『霧の都』は今終わった。ここからは個人的な事だよ」


 黒い騎士はカーラに向かって歩み寄る。


「友――ハウゼンの仇を討たせてもらう」


 敵意を向けられてカーラは黒い騎士の圧を感じ取った。


 この騎士は総出で倒した大剣の剣士よりも遥かに――


 すると、黒い騎士はカーラへの歩みを止め、別の方を見る。

 それは本来、『ゴート』が来るべきだった通路。そこから弾けるように接近してきた若い騎士に黒い騎士は反応する。


「――ほう」


 二、三回、剣を交えた二人は、若い騎士が技量で競り負け、大きく後ろへ弾かれた。


「……お前がやったのか?」


 若い騎士――ロイは広場の惨劇を見て怒りに震えていた。


「信念のぶつかり合いがあっただけだ。僕はその後始末に来ただけ」


 黒い騎士は剣を鞘に納める。それだけで、ロイは一気に冷静になる程に黒い騎士の技量を悟った。


「ロイ……! 抜かせるなぁ!」

「“アンサー”」


 サハリの声が届く前に黒い騎士が先程の一太刀をロイに放つ。

 避ける事も防ぐことも出来ない一閃にロイは胴体を凪がれた。


「――――どういう事だろう?」


 しかし、ロイは斬られていない。それどころか傷一つ無かった。

 その結果を最も不思議に感じているのは意外にも黒い騎士である。

 すると、黒い騎士は剣を交えた際にロイの懐から落ちたアレンのピアスを見つける。


「……ああ、そう言う事か。君か『ゴート』を止めていたのは」


 まるで全部見ていたかのように黒い騎士は納得すると剣を納めた。

 黒い騎士から敵意が消え、それに釣られる様にロイも剣を下ろしてしまった。

 その雰囲気があまりにも彼女に似ていたからである。

 そして、冷静にその姿を見ると――


「お前は……ギレオなのか?」


 憧れた存在にあまりにも類似していた故に、この場で出るべきではない言葉が口から漏れる。


「君からすれば“騎士ギレオ”は見た目なのかな?」


 そう言うと黒い騎士の姿は半透明になり始めた。


「次に剣を交えるまでに答えを期待するよ」


 風が煙を拐うように、黒い騎士の姿は空間に溶けるように消えて行った。






 夜明けと同時にヴォルフは数人の部下と共に勇者領地へ到着した。

 だが、『霧の都』は既に消失しており、目の前の中心街はヒトだけが忽然と姿を消したかのように静まり返っている。


「隊長。魔力反応がありません」


 索敵に秀でた部下の報告にヴォルフは腕を組んで街を見る。


「どうやら、全て終わった後の様ですね」


 付き人のミレディは風に流れる長髪を抑えながら呟く。


“『霧の都』を直に見ておいてくれ。遠くからでも良い”


 それがヘクトルからの任務だ。何の意図があったのかは不明だが、これは明らかに――


「……失敗だな。まぁ、触れずに済むに越したことはねぇが」

「三災害。それを意図して捉える事さえ容易ではないと言う事です」

「追いかけるヤツなんていんのか? 正直言って、無茶苦茶だぜ」


 一週間前にこの場所に寄った時はヒトで溢れていた。

 更に途中にすれ違った馬車業者の者たちによると王都より23人の救援部隊を運んだと聞いている。それも新兵ばかり……


「王都はまともな判断が出来てねぇな」


 恐らく全滅。領地に居た市民も全て悪夢の魔都に呑み込まれたのだろう。


「死体も出ねぇし、何も報われねぇ」


 これ以上は無駄だ。ヴォルフ、ミレディは現状は全滅と判断。退却に行動を移す。


「隊長!」


 部下の叫びにヴォルフは視線を戻した。

 正面を歩いてくるのは、サハリに肩を貸して歩くロイと、何とか歩く事の出来るカーラが先導して歩く様である。


「……今の王都にアイツを抱えるのは無理だな」


 ヴォルフはサハリを見て、立派な戦士に成ったと嬉しそうに悟る。そして、三人を保護する部下の後から歩み寄った。


「『霧の都』に綻びが生まれたかもしれません。ヘクトル様」


 ミレディもまた、世界でも実例の少ない『霧の都』からの生存者達へ歩み寄る。



 彼らが新たに持ち帰った『シーカー』と『ドラゴン』の情報は『霧の都』の危険度を上げるには十分だった。

 『霧の都』による勇者領地の被害。

 領地内、総市民数約500人、派遣騎士54人、救援部隊23人。

 内、生存者――僅か3名である。



 『吸血族』による『霧の都』の調査記録に更なる情報が追加されるも、攻略の糸口は未だに未解決のままである。






 丘に建つ一軒家。ベランダで椅子に座って絵を描く老婆が居た。

 彼女は数少ない休暇は家族と暮らした場所で過ごすと決めている。

 そして、『地下の庭園』に行く前に兄が言った言葉を信じていた。


“エデンの意思を継ぎ、オレが『ゴート』を討つ。それでようやく父上から王位を受け取れる”


 『地下の庭園』の入り口は自分達の国にあり、世界でも一級の危険地帯。

 兄は国で一番強かった。数人の信頼できる部下を連れて『地下の庭園』に向かい……まだ戻っていない。


「お祖母ちゃん。ご飯出来たよ」


 孫娘の呼び掛けに老婆は筆を置く。


「今日はここまでね」


 絵の続きは明日。明後日からはまた責務で忙しくなる。

 すると、一人の冒険者の男が現れた。それは孫娘の夫。仕事帰りである。


「陛下――っと、今はお祖母ちゃんの方が良いですか?」

「ええ、そうして頂戴」


 老婆は優しく微笑む。すると、男はここに来る際に預かった一つの封筒を手渡す。


「ギルドの依頼が出てたから持ってきたよ。身内って事で依頼料は貰えなかったけど」

「あの子の料理が報酬よ」


 老婆はそう言って封筒を受け取る。この辺りでは見ない紋章の入った封筒だった。

 国外から? 他国にプライベートで話す知り合いは多くはないけれど……

 椅子に座って保護のかかった封筒を開ける。

 中に入っていたのは一つのピアス。そして手紙を開いた。


「お祖母ちゃん、どうしたの? ご飯冷めちゃう――?! どうしたの!?」


 孫娘は涙を流している祖母を見て思わず駆け寄った。


「誰かが……救ってくれたの」


 手紙には老婆の兄――アレンの最期と彼の伝言が記されていた。


「大丈夫だよ……お兄ちゃん……国は私が護ってるから――」






 三種強化の同時使用の反動。身体の節々への負荷と立ってられない程の平衡感覚の狂いは遅れてやってきた。


「馬鹿やったわね」


 王都にある騎士団本部の病室。

 ロイは今回の任務に関する事情聴取を散々受けた後に見舞いに来たジェシカからも悪態を吐かれる始末である。


「相手は『ゴート』だぞ? 『ゴート』! 流石に死ぬかと思った。いや、俺以外なら死んでたぜ」

「……あんた、死ぬつもりだったでしょ?」

「まさか、お前――使い魔で……」

「あんたは分かりやすいのよ。それに……四人の中で一番死にやすい場所にいるじゃない」


 本当に心配するジェシカの声にロイは、


「俺は大丈夫だって言ったろ? 聞かせてやろうか? 今回の武勇伝!」

「そんなに元気ならもう良いわね。それじゃ」


 そんな彼に呆れてジェシカは立ち上がる。


「おぉい!」

「四人で集まったときに話して頂戴。あたしは今、入学手続きで忙しいから」


 手をヒラヒラと振って彼女は去って行った。


「ったくよ……」

「ロイ、お前あんな可愛い子と知り合いなのか?」


 幕を挟んで隣のベッドで横になっていたサハリは一部始終を聞いていた。


「前に話したろ? 一緒に暮らしていた家族だよ」

「羨ましい野郎め」

「あの口うるせーヤツのどこが良いんだよ」

「贅沢言いやがって」


 傍から見れば二人は過酷な任務に対して気にしていないように見える。しかし、その内には二人とも己の力不足を痛感していた。


「サハリは『黒狼遊撃隊』に行くんだろ?」

「まぁな。元々ソレが目標だったし、それに王都ではもう無茶しても援護してくれる奴らは居ないからな……」


 ジガン、サハリ、ノエルはチームを組んで任務に当たる事は多かったのだ。


「お前は王都に残るんだろ?」

「まぁな。知り合いも居るし」

「今の王都の状況はあんまり良くねぇぞ? まだ地方に居た方がいい――」

「理屈じゃないんだよ。俺の夢は」


 過酷な状況と力不足を痛感しつつも、ロイの道は変わらない。


「俺の目標はあれだ」


 今回の任務で遭遇した黒い騎士。あれが何なのかはわからないが……ヤツが目標に最も近い存在であると感じていた。


「そうかい」


 サハリが任務中に感じたロイの迷いはすっかり消えている。


「次に会うときまで死ぬんじゃねぇぞ、ロイ」

「お前もな。サハリ」


 戦友の二人は拳を軽く合わせると、各々の道を歩み出す。






 数日後。


「あ! 兄さん」


 買い物に歩いていたジンとレンは街の広場の掲示板に大きな見出しで張られた情報を見つけた。

 そこには、市民達に共有する情報や宣伝が定期的に更新される。今回の、特に目を引いたのは王都の状況と『霧の都』に関する事だった。


「今度会うときに無駄に脚色された武勇伝を聞かされるな」


 ジンは数少ない『霧の都』の生存者の欄を見て笑った。






 『霧の都』が終わった直後。海上を移動する船の客室でゼノンは目を覚ます。


「ゼノン」

「お姉さ……ま?」


 ゼノンは一番にナタリアの微笑みを受けて安堵する。


「お姉さま……ハウゼンが……ハウゼンが死んじゃった」


 ポロポロと涙を流すゼノンをナタリアは優しく抱き締めた。


「良いのよ、ゼノン。泣いて良いの」

「うぅ……ああぁぁハウゼェェン!!」


 ゼノンは抱き締め返し感情のままに泣き叫ぶ。

 大切な者の死。痛いほど理解できるナタリアはゼノンを抱きしめながら涙を流した。


「……大丈夫だよ、ハウゼン。君は死んでいない」


 ギレオは最後まで己の信念を貫き続けた友に追討を捧げる。


 遺志を継ぐ者がいれば死人など居ないのだから――

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