Data.20 熱き鉄の意思

 蒸気鉄鋼人スチルムタイタン……。

 この演出は……ネームドモンスターか。


 警告の表示が消えると床がウィーンと開き、蒸気を噴き上げる鉄鋼の巨人がせり上がってきた。

 ロボットアニメみたいだ……なんて言っている場合ではない。

 こいつが噴き出す蒸気のせいで、フロアの温度が上がっていく。

 ちょっと息苦しいし、熱い!


「これは僕らの体が継続ダメージを受けてるって考えた方がいいかもねぇ」


「さっさと決着をつけないと面倒そうだ」


 蒸気に満たされた密室というのは、視界も悪くなる。

 しかし、敵さんの方はよーく俺たちが見えているらしい。


「流石に自分の出してる蒸気で目が見えなくなるなんてことはないか」


 蒸気の圧力で繰り出された鋼鉄の拳が飛んでくる。

 ロケットパンチか、ますますスーパーロボットだな。

 これはスキルではなさそうだし、よく見て避けないと……。


「あれ? もしかして俺ってあいつに対して有効打を持ってない?」


 火炎旋風は効かないだろう。

 だって、あいつは元からアツアツだ。

 それに加えて鋼鉄の体を持っている。

 コレクトソードが通らなかった時には、俺は完全にサンドバッグだ。


「とりあえず、懐に潜り込んで斬る!」


 ありがたいことに敵の動きは大雑把。

 それに加えて巨体。

 胴体を斬りつけるのはそう難しくなかった。


 ガギィィィン!!


「……んぐっ! かってぇ! 手が痺れるっ!」


 切り傷はついてるからダメージは通っている。

 しかし、こいつの体は高温で近くにいるだけで苦しくなってくる。

 遠くからスキルで倒すのが正攻法に違いない。


「ドロシィ! 頼んだ!」


「はいよ! 水流球ウォーターボール!」


 巨大な水の塊が放たれた。

 名前的にレアリティが低そうなメダルなのにとんでもない迫力だ。

 これを食らえばダンジョンボスとて熱量を失い、蒸気を生み出せなくなるはずだ!


 ガシャンガシャンガシャン!!


「ええっ!? そんなまさか!?」


 鋼鉄の巨人が軽快に動き、スキルを回避した!?

 蒸気の生み出すパワーってすげぇ!


「いや、そんなこと考えている場合じゃない! ドロシィ、インターバルが終わったらもう一回だ!」


「う、うん……」


 時間をおいてもう一度【水流球】。

 しかし、これまた避けられてしまった。


「ドロシィ! 他のメダルはないか? もっとこう……当てやすいやつ!」


「ない! というか僕のメダルの効果でスキルを強化すると、攻撃力が爆発的に上がる代わりに細かい制御ができなくなるんだ!」


「な、なんだって!?」


「しかも、攻撃力の上昇に反比例して制御力は低下していくんだ。だから僕のスキルメダルはブロンズしかないんだよ! ゴールドメダルとかを強化すると暴走しちゃう!」


 なるほどな。

 とんでもない強力なメダルには、ちゃんとデメリットも用意してあるってわけか。

 運営もゲームバランスは考えてるんだな。

 感心する反面、今回だけはぶっ壊れメダルであってほしかったと思う。


 二人とも打つ手がない。

 俺の初ダンジョン制覇は夢と消えるのか……?


 いや、あるぞ!

 勝ちにつながる最後の手段が!


「ドロシィ! 出会った時にパーティーを組んだ仲間同士の攻撃は当たらないように設定できるって言ってたな?」


「うん、今もその設定になってるよ」


「じゃあ、それを今すぐに解除できるか?」


「ええっ!? そりゃ双方の同意があれば可能だけど……」


「俺は同意する! ドロシィも頼む!」


「なんだかわからないけど、同意!」


 よし、これで準備は整った。

 そろそろフロアの蒸し暑さがバカにならなくなってきた。

 体力はもって三分か……。


「ドロシィ、もう一回水の球を頼む!」


「え? いいけど当てる自信はないよ!」


「当ててみせるさ!」


 俺とドロシィでボスを挟み込むように移動する。

 そこへ水球が飛んでくる。

 もちろん、ボスはひょいと軽快に回避。

 すると、水球はボスの真後ろにいた俺に向けて飛んでくる。


「危ない!」


「メダルコレクト!」


 水球をググッと吸収する。

 他のメダルの効果で強化されてても、スキルメダルであることには変わりない。

 そして、コレクトバーストしてしまえば斬撃属性が加わり、スピードも上がる!

 格段に当てやすくなる!


「コレクトバースト! 水流球・斬!」


 水の斬撃派は鉄鋼の巨人の胸に命中。

 真っ二つとはいかなかったが、胸に設置されていた動力源を冷やし活動停止させることに成功した。

 その後、巨人はフロアを満たす蒸気と共に光となって消えた。

 機械といえどモンスター、消える演出は一緒だな。


「ふぅ、なんとか勝てたなドロシィ……」


 一息ついた瞬間、ドロシィが俺にだきついてきた。


「うふふ、お兄さんやるじゃん? 名前を聞いてあげてもいいけど?」


「シュ、シュウトだけど……って、パーティー登録する時にわかってるだろ?」


「本人の口から聞きたいのさ。乙女心がわかってないねぇ」


「乙女って柄じゃないだろ。てか、なんで抱きついてんの?」


「カッコよかったからだよ。いやぁ、ここまで出来る男だったとはね! 僕の目に狂いはなかったよ」


「そりゃどうも」


「つれない態度だなぁ。まっ、あんまりベタベタするとチャリンちゃんに嫉妬されちゃうからこれくらいにしとくよ」


『嫉妬なんてしないにょん! それより、戦えないと出る幕がないにょんねぇ……。私も戦いたいにょん!』


「まあまあ、チャリンも落ち着いて。先に戦利品を町まで持ち帰ろうじゃないか。帰りは来た道を戻ればいいのか?」


「流石にそれは苦行すぎるよ。ちゃんと入り口までのワープが用意されてるよ」


「そりゃ良かった」


 呼吸的にも戦力的にも苦しい戦いだった。

 かなり疲れたし、もう戦闘はゴメンだね。

 ダンジョン踏破のメダルを回収して帰ろう。


「最終回層のボスを倒した時は、そのボスのドロップしたメダルがそのままダンジョン踏破の報酬になるよ」


「えーっと、こいつが落としたメダルはゴールドのMメダル【パワフル動力炉】か」


 苦労の割にレアリティが低い気がするのは……きっと俺だけだな。

 普通はゴールドの入手も苦労するんだ。

 人前では口には出さないようにしよう。


「さあ、忘れ物はないね? じゃ、こんな狭苦しいところからはおさらばして、メカロポリスの風景を楽しめるところでゆっくり成果の確認をしよう!」


「ああ!」


 ワープの床に乗り、俺たちはダンジョンを後にした。

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