Data.14 新天地へ

 俺がこのゲームで初めに送り込まれた場所を『初期村』とするなら、今いるパーラの町は『初期町』だ。

 周辺の村に降り立ったプレイヤーは、ほぼ全員パーラにたどり着くようになっている。


 しかし、パーラから先のルートは決められていない。

 メダラミアの世界のどこへ行っても自由だ!


『とはいえ、オススメのルートっていうのはあるにょん』


「……聞こうじゃないか」


 自由に危険はつきものだ。

 特にメダリオン・オンラインではフィールドに出没するモンスターだけでなく、プレイヤーも敵になる。

 いや、全プレイヤーがPKを行なっているわけじゃない。

 ただ、それを見分ける手段がない以上、警戒に警戒を重ねるほかない。


『パーラの町から近いとこだと森の町シンラ、機械の町メカロポリス、牛の町モーモモタウンあたりがオススメだにょん』


「どこも個性が強そうだな。でも、俺的に惹かれるのは機械の町かな。なんかファンタジーとメカの融合ってワクワクするし」


『うんうん! メカロポリス及びその周辺では見た目がメカっぽいメダルをゲットしやすいんだにょん!』


「じゃあ、まずそこに向かうとしよう」


 こういう選択に正解はないし、迷ってる時間がもったいない。

 心の赴くままに進む道を決めるのも悪くない。

 時間制限があるわけじゃないから、他の町にもそのうち行けるさ。




 ● ● ● ● ● ● ●




「至って平和な道中だ。なんかちょっと拍子抜けだな」


『滅多なこと言うんじゃないにょん! いつだって平和が一番だにょん!』


 いきなりPKを食らうと人は疑心暗鬼になる。

 それに加えて俺の場合は超レアメダルを観衆の前に晒している。

 あのガラの悪い観客の中に何人かメダルの強奪を企む輩がいると予想していたが、流石に疑いすぎだったようだ。

 みんなコロシアムの観客というロールプレイを忠実にこなしていただけで、根は良い人たちなのかも。


『この調子で行けばすぐにメカロポリスに着くにょん。一度町に入れば次からは行ったことのある町から町へファストトラベルできるにょん』


「そういうシステムはありがたいな」


 メダリオン・オンラインのマップは結構広いから、ただ移動するだけの時間は退屈に感じる。

 俺の場合は話し相手がいるからいいんだけど。

 あ、普通はみんなパーティを組んで移動するか。

 俺がむしろ特別すぎるんだな。


「お、分かれ道だ。看板とかないけど……どっちがメカロポリス方面なんだ?」


『あれあれ? こんなところに分かれ道なんてあったかなぁ……』


「チャリンにもゲームに関してわからないことがあるんだな」


『むっ! そんなことないはずだにょん! でも~、これに関しては記憶にないにょんねぇ……』


「そういう日もあるさ。俺が直感で道を決める!」


 二つの道は完全に雰囲気が同じというわけではない。

 片方は今まで来た道と同じで、もう一方は荒い脇道のようだ。

 冷静に考えるまでもなく、メカロポリスに行きたいなら今までの道と同じ感じの道を進むべきだ。


 でも、この脇道をチャリンが知らないというのが気になる。

 もしやこれは……アプデで追加されたばかりの隠しルートではないか?

 あんまり隠れてないけど。


 それならチャリンが失念しててもおかしくない。

 彼女の知能は人間よりずっと優れているが、メダラミアというとんでもなく広い世界の中に一つ脇道が追加されたことを忘れたって仕方ない。

 むしろ人間味と愛嬌が増す。


 そして、最近追加された要素なら、その先に最新のレアメダルがある可能性は高い!

 この世界で強くなるには運命力が必要だ。

 俺はまた運命的な出会いをしたのかも。


「脇道を行こう!」


『いいけど十分に警戒するにょん!』


 はやる気持ちを抑えつつ、脇道をどんどん進む。

 途中で深い森に入り込む。

 やはり、メカロポリスへの正規ルートではないか。


 しかし、本当にフィールド描写がリアルだ。

 森特有のひんやりした空気を肌で感じられるし、なんだかここにいてはいけないような神聖さも感じる。

 ちょっと帰りたくなってきた矢先、視界の先に洞窟の入り口を発見した。

 ぱっくりと開いた穴の先には、ただただ闇が広がっている。


「洞窟か……。入るのは少し気がひけるな」


『狭いとことか、暗いとこは苦手だにょん?』


「得意な人はいないでしょ。俺も人並みに……少し人並み以上に苦手かな」


『でもでも、ここで入らなきゃ無駄足だにょん。もちろん、私としてはそれで一向に構わないにょん。安全にゲームを遊んでくれるのが一番にょん』


 そう言われると、逃げ出すみたいで情けなくて先に進みたくなる!

 男を止める方法としては間違いだぜチャリン。


「虎穴に入らずんば虎子を得ず! 洞窟に入らずんばメダルを得ずだ!」


『メダリオン・オンラインにはメダルを手に入れる方法がたぁ~くさんあるにょん!』


「いや、例え話だって」


『わかってるにょん! 宣伝部長の血が騒いだけだにょん! メダルの入手に関する間違いを訂正しないと……って!』


 AIってのも大変だなぁ。

 さて、さっさと洞窟を攻略してメカロポリスに向かい……。


 ザクッ!


 頬を刃物が掠めた。

 お宝のある洞窟特有のトラップか?

 いや、まだ俺は洞窟の手前だ。

 反応するには早すぎる気もする。


「プレイヤー……か」


「当たりだ。流石はルーキーにしてクロガネのメダルに選ばれた男。一回の攻撃でそれを見抜くとはな」


 洞窟から髭の大男が姿を現わす。

 同時に洞窟周辺の草葉の陰から続々とプレイヤーが出現する。

 みな、同じ紋章の入ったバンダナを身につけている。


「ギルド『死喰い穴熊』の拠点にようこそ。俺様はギルドマスターのイバンってもんだ。早速で悪いが……クロガネのメダルはいただくぜ」

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