Data.7 死線を超えろ!

『本気で戦うって言っても、こんなやつとどうやって戦うにょん!? 勝てるはずないにょん! それならまだ森の中に逃げ込んで見失ってくれることに期待した方が良いにょん!』


「勝てる根拠は二つある」


『にょん?』


「一つは相手が手負いだということ。体の表面にかなり傷が多い。モンスター同士でケンカしたのか、それとも……」


『おそらくプレイヤーが負わせた傷だにょん。レイドモンスターはあらかじめ出現時期と場所が公開されてるにょん。きっとどこかのパーティと戦って追い詰められて、本来くるはずのないここまで逃げてきたんだにょん!』


「なるほどな。二つ目の根拠はアルマジロは内側が柔らかいということ。そこに重い攻撃をぶち込めば倒せるはずだ。転がってる間、あいつは目が見えない。逃げ続ければ俺の位置を再確認するために必ず丸くなるのをやめる。そこがチャンスだ!」


『でも、重い一撃ってどうするにょん? コレクトソードの切れ味はバツグンでも、あいつに対しては何回切っても傷が小さすぎるにょん』


「火炎旋風で……」


『効果は薄いと思うにょん。それどころか森や草原に引火してこっちが焼け死ぬのがオチだにょん』


 そうか、現実と同じように草木は燃えるのか。

 消火用のメダルを持たない俺がここで炎を使うのは恐ろしすぎる。

 初心者用のフィールドを燃やし尽くすとか掲示板で晒されそうだ。


「……どうしたものかな」


 当たり前だが、敵は俺に考える時間を与えてくれなかった。

 つぶらな瞳で俺をにらみつけ、ころがり攻撃を容赦なく仕掛けてくる。


「ハイジャンプ!」


 アルマジロの上を飛び越える。

 タイミングをミスったら回転する無数の刃シュレッダーの上に真っ逆さまだが、上手くいけば完全回避。

 あいつは急には曲がれない。


『上手上手~! その調子なら逃げることも不可能じゃないにょん!』


「なあ、チャリン。敵にスキルってあるか?」


『ん? もちろんあるにょん! 通常攻撃とは違って、特定の条件が揃った時に発動する強力な攻撃だにょん! 全部のモンスターにあるってわけじゃないけど、レイドモンスターには確実に存在するにょん!』


「それって、プレイヤーで言うスキルメダルなのか?」


『う~ん、連続で使用できないっていう制限もあるし、回数制限もあるのにょんねぇ~。確かにメダルと同じ処理をしてそうな感じはあるにょん。それにモンスターの中には使っていたスキルをメダルとして落とすやつも存在するにょん』


「なら、試してみる価値はあるな!」


『まさか、あいつのスキルを吸収するきだにょん!?』


「それが俺とコレクトソードの戦い方だからな! 問題は……あいつのころがり攻撃はスキルなのかって話だ」


 プレイヤーで言うと武器の振り回しやパンチキック、こういう攻撃はコレクトソードの効果で吸収できない。

 あいつも今の攻撃がただ丸まってころがっているだけの場合、剣で受け止めても今度こそ死ぬ。

 くっ、どうやってその違いを見極めれば……!


『あっ! アルマジロが赤いオーラをまとったにょん! スキルの合図だにょん!』


「いや合図あるんかい!」


 思わず突っ込んでしまったが、これはありがたい!

 剣を構えて攻撃を待つ。

 しかし、アルマジロのスキルは俺の想像を超えていた。


「地面に潜った!?」


 甲羅の刃と回転の力で地面を掘り、穴の中に消えてしまった!

 動いた場所の土が盛り上がって、居場所を知らせてくれるなんてことはない。

 ただ、振動だけは伝わってくる。

 近づいて来てる!


「は、ハイジャンプ!」


 なかば本能、恐怖のままに空中に飛び上がる。

 同時に足元からアルマジロが出現。

 こちらも勢いのまま空中へと跳ぶ。


 ここだ! ここがチャンスだ!

 空中ならあいつも自由に動けない!

 危険な状況のようで、もっともコレクトソードを正確に当てられる状況でもある。

 どちらにせよ、このままでは空中で粉々にされてしまう!


「当たって砕けろ!!」


 コレクトソードがアルマジロの刃をかみ合う。

 ……今度は吹き飛ばされない!

 赤いオーラを吸収し、ソードスロットにメダルが複製される。

 同時に回転の勢いも吸収、驚いたアルマジロが腹を見せた!


「破断粉砕撃……斬!!」


 スキルの効果を解放する。

 俺の体がぐるぐると回転を始め、手に持ったコレクトソードが敵をズバズバと切り裂いていく。

 まさに破断、そして粉砕!

 アルマジロの強靭な甲羅をも切り裂き、真っ二つにした。


「勝った……!」


『すごいすご~い! 惚れなおしたにょん!』


「まあ、コレクトソードのおかげだ」


『いやいや! この脳が現実と認識するほどリアルな世界で、あんな敵に一人で立ち向かう勇気がある時点ですごいにょん! プレイングもすごいにょん! 迷わぬ剣さばきが勝利の要因だにょん!』


「いつもすごい褒めてくれるなぁ。素直に受け取りたいけど、一つだけ訂正する。俺は一人じゃない。チャリンもいた」


『でも、私は戦力にはなってないにょん』


「話相手だけで十分さ。誰かと会話すると思考が冷静になる。俺って結構臆病だから一人だとパニックになって死んでたと思うし」


『そ、そうだにょん? あ、ありがとう……だにょん』


「調子悪そうだけど大丈夫? 実は当たり判定が合って攻撃を受けてたとか?」


『だ、大丈夫だにょん! それよりもメダルを回収してすぐに帰るだにょん!』


「別に急ぐ必要ないんじゃない? あんな敵はそうそう出てこないだろうし」


『ダメだにょん! 少なくともあいつを弱らせるほどのパーティーが近くにいるにょん! きっと、そいつらはモンスターにトドメをさすべくこちらに向かってるにょん! ここはPK許可エリアじゃないけど、目をつけられると後々面倒だにょん!』


「そうか……あれほどの敵が逃げ出すような相手が近くに……」


『少し戦ってみたいな……なんて顔してるんじゃないにょん! いつからそんな漫画みたいな熱血キャラになったにょん!?』


「でも、どんなメダル持ってるか興味湧かない? 廃人プレイヤーのガチガチ装備見るのもオンラインゲームの楽しみって言わない?」


『じゃあ、会いに行くにょん? 何かしらの方法でPK許可エリアに引きずり出されて惨たらしくキルされても知らないにょん』


「帰りまーす!」


『それでいいにょん』


 アルマジロから手に入れたメダルはちゃんとメダルボックスに入っている。

 よし、問題はない。

 そうと決まればすたこらさっさと逃げるぜ。


「ハイジャンプ!」


『今回大活躍のメダルだったにょん!』




 ● ● ● ● ● ● ●




「ん……?」


「どうしたんすか、グリフレットさん」


 ミンディア平原に入る手前で、二人のプレイヤーが立ち止まる。

 一人は背の高い男。

 目元が隠れる仮面をつけている。

 もう一人は少年。

 大きめのキャップを被り、手には銃を持っている。


「メニュー画面からレイドボス出現のお知らせが消えている」


「え? あっ、本当だ!」


「これはレイドモンスターが生存している限り消えないはずだったな、ハルト」


「じゃあ、誰かに討伐されたってことっすか!? えー、せっかく追い詰めてたのに! いったい誰が? 報復しに行きましょうよ!」


「……相手に心当たりがない。俺たちと同じくレイドモンスターを狙っていたパーティは全滅させたはずだ」


「た、確かに……。じゃあ、自爆したってことですかね? 岩に頭でもぶつけたとか?」


「それはない。考えられるのは、モンスターが逃げた方向で何者かが待ち伏せていた」


「それもおかしな話っすよ! レイドモンスターが出現マップを大きく離れて逃げ出すという行動パターンは激レアっす。待ち伏せってことはそれを予想していたってことでしょ? ないないっす! そんなの宝くじが当たる前提で豪遊するぐらいアホっす」


「だが、何らかの理由でプレイヤーが逃げた先にいたのは事実だ。それも我々に勝るほどのダメージをレイドモンスターに与えられる者がな」


 モンスター討伐を複数人で行った際には、その貢献度で与えられるメダルの量やレアリティが変わる。

 貢献度の算出方法はハッキリしていないが、モンスター討伐においては多くのダメージを与えることが最も貢献度につながると言われている。

 グリフレットとハルトの手元に送られてきたのは、ゴールドのMメダルと多くのコインメダル。

 一見豪華な報酬に見えるが、貢献度一位に与えられる報酬はこんなものではない。

 つまり、彼らよりも討伐に貢献した者がいる。


「あのモンスターは弱っていた。複数人でダメージを与えれば貢献度は分散し、我々を超えることは出来ないはず……」


「つまり、単独で討伐したってことっすか!? いよいよ、夢物語っすよ! なんでそんなすごい奴がこんな雑魚しかいないマップをうろうろしてたんすか!? わけがわからないっす! もう!」


 イライラを発散するかのように、ハルトが手に持った銃を空に向けて撃つ。

 すると、空から巨大な鳥型モンスターが落下してきた。

 シュウトが剣で切り裂いた怪鳥よりも五倍は巨大なモンスターだが、頭部を一発で打ち抜かれキルされている。


「そう癇癪を起こすな、ハルト。この世界にまだ見ぬ強敵がいるのは喜ぶべきことだ。上級プレイヤーとして……な」


「グリフレットさんがそう言うなら、もうイライラしませんよ。でも、気になるなぁそいつ! 絶対見つけ出してやる!」


「ああ、そうだな。今回は大人しく引き下がるとしよう。だが、次は……」


 草原に背を向けた男たちは、いずこへと姿を消した。

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