△4一火鬼《かき》(あるいは、こちら混沌区/カオスが原前/覇出所)
「あやまれ言うたら
滾る私の、爆裂気味のテンションは、もうこうなったら止められないのであって……もう何か、ギャラリー達は皆、この唐突な修羅場と化した対局室からほぼ逃げ終わりかけているけれど。ただ一人、逃げ遅れた体の沖島さんは、完全に腰を抜かしたかのようなおねえ座りの驚愕顔で眼鏡を盛大にずらしたままガタガタ震えているけど。
んもぉう、関係ない。私の学園生活はいま、この場で終わったのだ……終わったのだから……ッ!!
私の胸には、諦観を念入りにまぶした哀しみが去来していたけれど、もう別人格的な何かが、今の私の舵取りをしているのであって……
あやまるばァッ、あやまるばとッ、と、渾身の力を込めた右手で再びミロカのさらさらしたショートボブに包まれた後頭部をぐわすと掴むや、さっきよりも強めに、その美麗な顔を将棋盤に擦りつける。ごりごりと。何度も、何度も。
「い、ちょ、ま待って待って!! まじ顔に
少し、我に返ったかのようなミロカの声が盤との狭間から漏れ聞こえてくるけど。必死で嘆願するかのように、こちらに捻じり向けてきた端正な顔の右の眉毛と瞼の間には、「と」の側をこちらに晒した駒が貼り付いていたけれど。
「『いいこちゃんぶって世間に媚び媚びの条例違反ロリ』だとぉあッ!? そうするように仕向けてんのは
私のマグマのごたる勢いの感情の噴出は止まらない。そそそそこまで言うてなはぁぁぁい、との困惑気味の声がまた漏れ出てくるけど。
「オオォンッ!? いつもいつも
しゅしゅしゅ趣旨変わってきてるふぅぅぅ……みたいな震え声をまだ発してくるミロカに、私の中の、何本あるのか分からないけど、また何かしらの「紐」状のものが切れた感覚があった。
そして、抵抗を続けるミロカの首元からは、汗のにおいに混じった何か引き寄せられる芳香が立ち昇っていて。
「……!!」
思わず私は自分の中の何かを持て余すようにした挙句、そのほっそりとした滑らかで白い首筋に。
「!!」
なぜか思い切り噛みついていったのであった……大口を開け、歯を剥き出しにしながら。
その埒外の衝撃に、声も出せずに盤を抱えるようにしてのけぞるミロカ。そのサマを眼前で見せられている沖島さんの顔が恐怖で歪むと、その顔面の動きで逆に眼鏡が元の位置に収まる。
ナヤ「……これは
ミロ「そこッ!? そこは謝るよだいじょうぶ!? ごめんねごめんわざとじゃないから!! ていうか的確に頸動脈に嵌まり込んでいるっぽくて本当怖いんだけど!! ていうか喰らい付いたまま普通に喋れてるのも怖いぃぃぃッ!!」
オキ「なナヤさん落ち着いて!! 私はもう大丈夫だから!! ももう終わりにしましょう……ねね? 落ち着いておちついて……まずはその噛みついているものから口を放そうか……」
ナヤ「ん大丈夫かそうじゃねえかは
ミロ「
はいですっ、と沖島さんが盤前の座布団にこれ以上は無いほどのいい姿勢で正座をしたのを確認は出来た。あとはこの
ただならぬ狂気を感じたのか、ミロカの身体から今まで込められていた渾身の力が抜け、一呼吸ついたかと思うや、ゆっくりとした言葉が、その口から紡ぎ出されてくる。
「あ、あの、あ、ま……『負けました』。私の、負……けです……。そして感想戦もやらずにひとりよがりな『勝負』を強要してしまってごめんなさい。将棋に対しても失礼なことをしました。もうやらないから、これまで以上に真摯に対局に向き合いますから、許して……」
静寂。閑散としまくりかけた、物理的にも精神的にも最早がらんどうと表現出来うるこの部屋の中にそれは響く。それは、それは心からの言葉に聞こえた。でも、
「ソレダケジャネエダロ……」
私の口からはそんな野卑なる言の葉が。あっるぇ~、何かもう私の大脳の制御を外れかけてきてるぅ~、何だか自分で自分がこわいよぅ……と、
「
そう言った瞬間、再びミロカの全身が強張った。そして、
「そ、それだけは……それ言ったらもう私……私の将棋が終わっちゃうっていうか……何て言うかここに、この場所に戻れなくなってきちゃうような……そんな気がする……気がするから、そんな気がしァヒィッ!!」
糸切り歯を使ってその細い首筋の血管をびぃんびぃんと刺激したものの、ミロカのそこだけは譲れない的な決心は強固そうだった。必死にいやいやをしてくるけど。
こうまでされても曲げないなんて……それはそれで凄い、らしいメンタルなのかも。でもこの増長しまくりの歪んだ性根の方は、どうあっても叩き直してあげなきゃあならないと思うわけで。
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