第3話 320円

 労働基準監督署で働く知り合いがいます。


 この人、ちょっとポチャリさんで、身体が大きく、笑い声も大きい。


 所謂、飲み友達で、その日も偶々行きつけの店で会いました。


「いやぁ。今日は死ぬかと思ったー」


 美味しそうにビールを飲みながら、聞いた話によると……


 今は違うらしいのですが、その当時、監督署の職員は三官制と言いまして、事務官、技官、監督官と分かれていました。


 その彼は、当時、技官と言う専門職だったのですが、その大きい身体で現場に行く訳です。


 職場の安全を図るために、ちゃんと機材が安全に設置されているか調査したりするらしいのですが、、、


 その日の現場は、新しく出来たビルの屋上に設置された機械の設置の調査。


 数十回建のビルで、上の10階分は2棟に分かれているビル。


 隙間は1mも無く、建設業者の方々は、A棟とB棟の間を身軽にぴょんと飛んで行くのですが、彼は焦りました。


 この身体で飛べるかギリだな……


 なんで足場がないんだよ……


 しかも高所恐怖症。


 落ちたら確実に死ぬ。




 嫌な汗をかきながら、必死で飛び越えて何とか無事に終えて帰って来ました。


「そりゃ大変だったね。ところでその仕事危険手当とか無いの?」


「有るよ。高所作業手当、320円…… 」


「おつかれ。。ビール一杯奢るよ」





 命がけで320円……


 今は変わってるかもですが……


 なんか意外と大変だね。

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