快楽

狐火

プロローグ

 快楽、と一言で言いましても沢山の種類がございます。

 きっとこの地球にいる人の分だけ、快楽の種類はあるのでしょう。


 わたくしが思うに快楽は、代償が大きいほど悲惨で醜く依存性があるものです。


 さて、皆さん。この世の中で最も過激で依存性が強い快楽とは何だと思いますか?


 そうです、人殺しです。

 人殺しほど、代償が大きくて非道なものはありません。


 けれどもし、自分の行う人殺しは正義だと信じて実行することで、自分の気づかぬ間に快楽を得ている人間がいたらあなたならその人間をどうしますか?

 その人間は本当に、心の底から自分の行う人殺しを正義だと信じていたのです。


 わたくしは、何も出来ませんでした。

 母でありながら、何も――。

 だからでしょう、あんな悲惨な事件が起こってしまった。


 わたくしに残された道はただ一つです。けれど今一度、わたくしの最後の告白をどうぞお聞き願いたい。

 わたくしが産んでしまった今世紀最大の快楽主義者、Xの悪行の全てを既知とし、そして彼のことを恨んで憎んでやってほしいのです。それがあの子への最高の労いとなるでしょうから。


 これも母の愛なのです。

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