第3話ライバル


 小鳥遊京子はすたすたと歩くクルムについて歩く。


 薄暗いこの部屋はどうやら地下室のようだ。

 窓は何処にも無く所々に時折明かりの火が灯っている。

 歩きにくいそこを小鳥遊京子は必死になって歩いていく。


 すると何かにつまづき転びそうになる。

 なんだろうと思ってみると半分白骨化した人の頭が転がっている。



 「うわぁぁぁあああああっっ!!!!」



 京子は慌てて前を歩くクルムにしがみつく。


 「む? どうした私に何か用か?」


 「あ、あそこに人の首が転がっているのよ!!!!」


 クルムは無表情のままそちらを見る。

 

 「ああ、あれは先日美味いと言われて肝を採取した娘の死骸だな。赤き竜め、食べ残ししたな」


 「き、肝の採取ぅ?」


 青ざめている京子と対照的にクルムは無表情のまま続ける。


 「ああ、私は肉は好かんがこの世で一番美味いモノと言う事で赤き竜が教えてくれた。しかしせっかく採取したのだが料理の仕方が分からず残念ながら腐ってしまい、献上する事が出来なかった。」


 「りょ、料理って人間の肝を??」


 「そうだ、とにかく私はこの世で一番美味いものを献上してミリア様を大巫女様にしなければならない」


 涼子はたじろいだが少し気になった。


 もしかしてこの子騙されてる?

 その赤き竜とか言うのに騙されているんじゃないの?

 だってホットケーキがおいしとか言ってたし。


 京子はクルムにもっと詳しく話してもらいたいと思った。


 「ね、ねえクルム。あなたが言うそのミリア様ってどんな方? それと大巫女様ってどういうことなの?」


 「む? そんなことも知らないのか? 仕方ない、教えてやろう。ミリア様は八大巫女のおひとりでこのワシュキツラ国の巫女様だ。ゲド大陸の安定を司っておられる大巫女様がお年となり、新たに八大巫女の中から大巫女様を選定する事となった。そして新たに大巫女様に選ばれるには美味いものを献上して認められ無ければならない。だから私は美味いものを探している」


 そう言ったクルムはどこか遠くを見ているようだった。

 京子は思わずうなってしまった。

 

 美味しいものを献上するのは分かるとして、その巫女様って人間だよね?

 人間が人間の肉を食べる習慣がこの世界にはあるのか?


 そんな疑問が湧いて出る。


 「ねえクルム、この世界って人間が人間を食べる習慣でもあるの?」


 「む? 人間が人間なんぞ食べる習慣があるわけないだろう? お前はずいぶんと野蛮な習慣を持っているのだな?」


 「んな訳ないでしょ!! だったらなんでその生娘の肝なんて食べようとしたのよ!?」


 「む? 赤き竜の助言だからだ。赤き竜は千年を生きる古竜だぞ? その知識は膨大かつ信頼性が高い」


 ふんすと鼻息荒くクルムは自慢するかのように言い放つ。

 京子は思わず目に手を当て上を向く。


 「ここからかぁ~~~っ」


 クルムは不思議そうに京子を見る。


 こいつは他の人間と違う。

 異界の者とはみんなこうなのか? と思う。



 「何か問題なのか?」


 「ねえクルム、あなたさっきホットケーキがおいしいって言ってたわよね?」


 「ああ、あれは美味い。私の一番のお気に入りだ!」


 無表情のくせにホットケーキの話になると目を輝かせ力説する。

 京子はちょとほっとして考えをまとめる。


 「だったら人間の肝なんて絶対に人間にはおいしくないよ。その赤き竜ってのは人間の肉がおいしいと思っていても人間と違うんだから!」


 「む? そうなのか?」


 京子は脱力した。

 

 「当り前でしょう! クルムだってホットケーキがおいしいって感じるでしょう、人間の好みと竜の好みじゃ違うって!!」


 クルムはしばらくぼぉっと虚空を見る。

 そしておもむろに左手の手のひらに右手の拳をポンっとたたいて「なるほど」と言った。


 京子は思い切り大きなため息をつく。

 それと同時に少し安堵する。

 この世界の人間も自分たちの世界の人間と同じような味覚なのだと。


 「むう、そうすると困った。私は美味しいものを探さ無ければならないのに相談する相手がいない」


 再び歩き出したクルムに京子は置いて行かれない様に慌ててくっついていく。


 階段を上り曲がりくねった通路を抜けるとどうやら地上に出たようだ。

 同じく石造りなのは変わらないが窓が有り外から日の光が差し込んでいる。



 クルムはそのまますたすたと歩いていく。

 きれいに掃除された通路は所々観賞用の花や植物が置かれ、壁には装飾品が飾られている。


 ずいぶんと大きな建物のようだ。


 クルムについて歩いていく京子は周りをきょろきょろ見ながら歩いていく。

 そして大きな観音開きの扉の前に来る。


 クルムは何かぶつぶつ言って右手を扉に向けると重々しい音を響かせながら扉が勝手に開いていく。

 完全に開き切る前にクルムはすたすたと中に入っていく。

 

 京子もクルムについて中に入るがそこはおとぎ話の世界に出てくるような王様に謁見するような場所だった。


 「ミリア様いるか?」


 クルムはおもむろにそう言ってきょろきょろと周りを見る。

 すると奥の方から声がする。


 「クルムですか? 私はここに」


 そう言ってふわっとした感じの衣服にやわらかく包まれた極上の美人が現れる。



 京子は思わず息をのんだ。


 

 柔らかな雰囲気に神秘さの空気をまといきらびやかな金色の髪の毛はつややかな絹のように流れ、うっすらと赤く染まった唇はみずみずしく、深い湖のような碧眼は静かに静かにこちらを見ている。


 クルムも十分な美少女だがこの女性は美しいを通り越し「神々しい」とまで言えるほどだった。


 「ミリア様すまない、美味しいものが見つけられなかった。赤き竜にも相談したが駄目だった。困ったどうしよう?」


 「時にクルム、そちらの方は?」


 ぼうっとその女性を見ていた京子は、はっと我に返り慌てて姿勢を正す。


 「私は……」


 「食材だった奴だ。今は用済みだが契約した。元の世界に返してやると」


 あたしの紹介は元食材かよ!?

 思わず突っ込みを入れたかった京子だが気を直して挨拶する。


 「初めまして、小鳥遊京子と言います。なんかこっちの世界に召喚されたみたいなんですが大巫女様にお願いすれば元の世界に返してもらえると聞いてここへ来ました」


 そう言ってぺこりと頭を下げる。

 そしてこのミリア様と呼ばれた美女を見ると似つかわしくない眉間にしわを寄せていた。


 「それはそれはクルムが大変失礼をしました。面倒をかけてしまってごめんなさい。でも困りました。貴女を異界から召喚したとするならば元の世界に返す手立てが無いのです。確かに大巫女様ならば出来るかもしれないけど今は大巫女様もご体調を崩されて……」


 ミリアはどうやら常識が通じるようだ。

 京子は少しほっとしたがやはり元の世界に帰るには大巫女様の力が必要らしい。


 「あの、クルムから聞いたのですがミリア様が大巫女様になれば元の世界に返してもらえると。」


 「まあ、クルムっ!なんて大それたことを言うのです!?」


 ミリアは大いに驚きクルムを叱責する。

 しかしクルムは無表情のまま静かに語りだした。


 「私はミリア様を大巫女様にする。ミリア様ならみんなを幸せにしてくれる。だから私の全てを懸けてもミリア様を大巫女様にしなくてはならない。大丈夫、きっとミリア様ならなれる!」


 どこから湧く自信かは分からないがクルムはふんっと息まいている。 

 ミリアは困ったような顔をしている。


 「クルム、気持ちはありがたいのですがあなたも私もお料理なんて出来ないではないですか? 今次の通達、次期大巫女様の選定には美味しいものを献上したものにその座を譲ると言いますが私たちにそんな大それた事出来るはずがないではないですか?」


 「む? だから美味しいもの探している。しかし赤き竜に相談してもダメだった。ミレア様どうしよう?」



 なんなんだこの状況?

 もしかしてこのミリア様っていうのを大巫女様にするには限りなく高いハードルがあるのではないか?

 京子はそう感じた。

 しかもこの二人どうやら料理の類は全くできないようだ。



 「あ、あのぉ~、お取込み中すみませんがもしかしてミリア様を大巫女様にするのってものすごく難しいのですか?」


 「む? そんな事は無いぞ! 美味しいものを見つけて献上すればいいのだからな!」


 「ですからクルム、私たちでは料理が出来ないのですから無理なのです!」



 あー、そう言う事か。

 京子は理解した。

 これって美味しい食材探すだけじゃダメな奴ではないのか?

 どうやら美味しいものを献上できた巫女様が大巫女様になれるようだけど料理したものじゃなきゃダメっぽい。

 そうなるとクルムがどんなに頑張って良い食材を見つけてきても勝負にならない。


 

 しかしそうなると問題も出てくる。

 このミリア様と言う人が大巫女様にならなかった場合自分は元の世界に返してもらえるのだろうか?

 非常に心配になってくる京子。



 「あ、あのクルム、もしミリア様が大巫女様になれなかったらあたしは元の世界に戻れないの? ほかの巫女様じゃお願いできないの?」


 「む? お前は私と契約したから善意のある巫女様が大巫女様になってもミリア様以外では戻してもらえんぞ?」


 「えっ!? ダメなの!!!?」


 「ああ、だめだ。ミリア様以外を大巫女様にしたら帰れん」



 がーん!!



 もしかしたら善意ある巫女様なら自分をもとの世界に返してもらえたかもしれない。

 しかしクルムのその契約とかでミリア様以外ではだめだと言う。



 「ク、クルム! その契約破棄できないの!?」


 「む? 契約は絶対だぞ? 私かお前が死なない限り破棄される事は無い」


 「そ、そんなぁ~!!」


 思わずその場に座り込んでしまった京子にミリアがすまなそうに話しかける。

 

 「どうやらクルムがまた迷惑をかけてしまったようですね。小鳥遊京子さん。本当に申し訳ありません。しかしクルムの魔法は強力で絶対、このゲドの大陸を見渡してもクルム以上の魔法使いはいないのです。小鳥遊京子さん、クルムと一体どういう契約を成されたのですか?」


 座り込む京子のすぐ横にミリアは同じく座り込み京子の手を取り慰める。


 

 うわっ!

 やっぱり奇麗!!



 同じ目線になって間近で見るミレアはとても美しく同姓である京子でさえ思わず見とれるほどであった。



 「小鳥遊京子さん?」


 「あ、はいっ! ごめんなさい!! え、えっと『ミリア様を大巫女様にしたら元の世界に返してやる』とか言ってました」


 「そんな契約をしてしまったのですか!?」


 「はい? そうなんですけど何かまずかったのでしょうか?」


 「その契約ですと確かに私が大巫女様になる以外元の世界には帰れません」


 「ええっ! そんなぁ!!」


 「だからミリア様を大巫女球にすればいいんだ。そうだ、お前ミリア様を大巫女様にするのにあの肉まんを出せ! あれは美味かった!!」


 クルムは目を輝かせ京子に詰め寄るがあの肉まんは父でなければ作れない。

 食材で何を使うかは知っているが作り方ひとつで味なんて変わるのは京子は家の手伝いをしていて嫌と言うほど知っている。

 その昔面倒だからと言って注文が入る前に野菜を油でさっと油揚げして作り置きしておいたら注文が入る頃にはぐでぐでになってとても食べれたものではなくなっていた。

 

 「あれはあたしじゃ作れないのよ。お父さんの秘伝の作り方をまだ習ってないから……」


 「む? そうなのかそれは残念だ。しかしあの肉まんはホットケーキにも負けない美味しさだった」


 目の中に星の輝きを光らせクルムは言う。

 よほど肉まんが気に入ったようだ。



 「あれ? でもお二人とも料理は苦手でもホットケーキは食べた事あるのですよね? ここって他に誰か料理が出来る人いるんじゃないんですか?」


 京子はあたりをきょろきょろと見渡す。

 そう言えばここに来てからクルムとミリアにしか会っていない。


 「む? ここには私たちだけだ。ほかに人はいない」


 「え?」


 「ここはワシュキツラ国の巫女宮殿、本来は使える者たちもいたのですがみんなクルムに怯えて逃げ出してしまったのです」


 ミリアは悲しそうにそう言う。


 

 巫女宮殿?

 クルムにおびえて逃げ出した?

 なんで??



 「えっと、なんでみんなクルムに怯えるんですか?」


 確かに普通の感覚と違う所が有るのだろうけど見た感じこれと言って怯える要素はない。


 「む? そう言えばお前は私の目を見ても怯えんな。珍しい」


 「は? 目がどうしたっていうの?」


 京子はもう一度クルムの目を覗き込む。

 真っ赤な瞳は自分のいた世界では珍しくルビーのようなその色は美しく透き通っていた。

 色白の陶器のような顔に輝く銀髪、そこにアクセントのように怪しく揺らめく赤い瞳。



 うーん、西洋人形みたい!

 可愛いよね?



 「きれいな赤だし、美少女だし何が問題なの?」


 「小鳥遊京子さん、本当に怖くないのですね?」



 怖い?

 何が?

 このホットケーキと肉まん大好き少女が怖い??


 いやいやいや、本音で言えばぎゅっと抱きしめてお持ち帰りしたいくらい美少女だ。

 こんな魔法使いの格好させないでもっとかわいい服を着させたいと思うほどなにの?

 あ、白黒のゴスロリなんか似合いそう!!

 そんなお気楽な事を京子は考えていた。



 「呪われた瞳、赤眼の魔女と私は呼ばれている」



 クルムはぽつりとそう言った。


  

 呪われた瞳?



 京子は何が何だか分からずきょとんとする。

 するとミリアが説明をしてくれた。


 「私たちの世界では赤い瞳の者は呪われた者、悪魔の瞳と恐れられています。赤い瞳の者は生まれつき膨大な魔力を有していて中には呪文も唱えず意思だけで魔法を使えるものもいるほどです。しかし赤い瞳が悪魔の呪われた瞳などと言うのは迷信で現にこのクルムだって誰それに危害を加えるわけではないのです」


 ミリアそう悲しそうに言った。

 

 「なんだ、迷信だったら何も問題無いじゃないですか。だったら……」




 ばんっ!!



 

 いきなり扉が開く音がして数人の男たちが血走った目で剣や槍をもって入ってくる。

 

 「い、いたぞ赤眼の魔女だ! 悪魔の瞳だ!!」


 「ミリア様、今こそお助けししますぞ!!」


 「ぬ? 見たことない服を着た女もいるな? さしずめ悪魔の生贄か!?」


 男たちは口々にクルムを罵る。


 

 「み、皆さん落ち着いてください! 私は何も問題ありません! どうぞお気持ちをお静めください!!」


 

 しかし男たちは一向にミリアの言う事を聞かず相変わらずクルムを罵りとうとうクルムに襲いかかる!!



 「む? ミリア様下がってくれ」



 そう言ってクルムは男たちの前に出る。

 男たちの刃がクルムに切りかかるがぶつかる寸前に見えない盾にさえぎられる。


 ガキンっ!

 ガガガキンっ!!


 「くっ、化け物め!!」


 「こなくそっ!」


 男たちはクルムに何度も切りかかるがやはり何度も見えない盾にさえぎられクルムを傷つけることは出来ない。



 「どけっ! 【炎の矢】!!」



 男たちの一人が魔法で【炎の矢】を飛ばす。


 「む? 【絶対防壁】!」



 ばしゅっ!!



 【炎の矢】はクルムがかざした右手から発生した淡い光の壁に遮られその場で小さな炎をまき散らし拡散した。


 と、その炎のかけらがはじけてミリアの近くに飛ぶ。


 「きゃっ!」


 「うあっ! あぶなっ!!」


 かろうじてミリアと京子はその炎の破片から逃れるがもし当たっていたらただでは済まない。

 それを見たクルムの雰囲気が変わる!



 「お前たち! ミリア様に!!」



 無表情は変わりないのにその瞳だけは怪しく揺らめく。

 そしてこの小さな体のどこにそんな魔力があるのかと驚くほど周囲に魔力を放ち呪文を唱える!



 「いけないっ、駄目ですクルム! 皆さん逃げてっ!!」



 ミリアの必死の叫びも間に合わずクルムの呪文が完成する。

 そしてクロムは力ある言葉を口にする。



 「【地獄の咢】!!」



 途端に男たちの足元に大きな魔法陣が浮かび上がりそこから無数のマリモのようなモノが飛び出す。

 そしてそのマリモのようなモノは鋭い牙を持ち男たちに噛みつく。


 「うっうあああぁぁぁぁっ!!」


 「ぎゃぁあああぁぁぁ!」


 「ぶあぁっ! や、やめてくれぇぇぇっ!!」


 マリモのようなそれは無残にも男たちを食いちぎり鮮血をふりまく。


 

 「クルム! もういいです!! やめなさいクルム!!!!」



 しかしクルムの魔法は止まることなく男たちを蹂躙する。

 目をえぐり、のどに噛みつき、はらわたを引きずり出す。

 一人また一人とその場に男たちは倒れていき動かなくなる。

 

 京子はその惨劇に思わず目を背けた。

 床は真っ赤な血で汚れ、人だったそれは無残な骸となり果てていた。


 

 「クルム、いくら自衛とは言えやりすぎです! 何も殺す事は無かったでしょう!?」


 「む? しかしミリア様がケガしそうになった。これは正当な自己防衛」



 こ、これが自己防衛!?

 京子は驚きを隠せなかった。

 いきなり押しかけてきた男たちにも驚いたがクルムが使った魔法にも驚かされた。


 そしてこの二人の様子だが人の死をそれほど重く感じていないようだ。


 「あわわわわ、ク、クルムって本当に魔法使いなんだ……」

 

 京子がそうつぶやいた時だった。



 「おーっほっほっほっほっほっ! 流石はゲド大陸最強の魔導士ですわ!!」



 声のした扉の方を見るとミリア同じような服を着たやはりとびきりの美人が立っていた。

 

 「あなたはソエ!? どうしてここに?」


 ミリアの驚きを無視して彼女、ソエと呼ばれた美女はずかずかと歩いてミリアの前まで来る。


 「何をしているか知らないけど、通知ですわ。一の門、あなたと私どちらが美味しいものを出せるのでしょうかしら? 楽しみだわ!!」



 彼女は懐から巻物を出してミリアに渡す。



 それは蝋で封印されたスクロールであった。

 ミレアはその巻物の封を自分が首から下げているペンダントにかざす。

 すると封が光り解除される。


 ひとりでに巻物が広がり宙に浮きそこに妙齢の女性の像が浮かび上がる。



 「この度一の門を開催する。一の門は『見た目良きもの』とする。双方七日後に天空の城に参れ」



 妙齢の女性はそう言って消え、スクロールは燃えて消えてしまった。

 京子はクロムたちを見てみると三人ともかしこまって膝をつき頭を下げていた。


 「大巫女様、承りました」


 ミリアやソエはそう言って頭を上げる。


 「ふふっ、七日後を楽しみにしているわ! では、ごきげんよう!!」


 そう言ってソエと言う女性はこの場を離れていった。



 「ミレア様」


 「大巫女様からの通達です、やれるだけの事はやってみましょう」

 

 ミリアの表情は厳しい。

 京子は一度にいろいろ有り過ぎてついていけない。


 「どうなっているのよ? それにさっきの美人誰?」


 「む? あのお方は八大巫女の一人、ナンダラ国の巫女ソエ様だ。ミリア様とは旧知の仲だがいつもミリア様をいじめるのだ。私は好かん。それと大巫女様からの通達だ。七日後に天空の城へ『見た目良きもの』の美味いものを献上しなければならない。この勝負に三回勝てばミリア様が大巫女様になれる。そうすればお前も元の世界に帰れる」


 クルムはふんっと息荒く言うがミリアは元気がない。


 「『見た目良きもの』ですか…… 一体どうしたら……」


 そうつぶやくミリア。

 京子はそんな彼女を見て決心する。


 「ミリア様、お料理ならあたしが手伝います。ミリア様に勝ってもらわなければあたしも元の世界には帰れないのでしょう?」


 その言葉にミリアは京子を見る。

 クルムも京子を見る。

 

 「小鳥遊京子さん、あなたはお料理が出来るのですか?」


 ミリアもクルムも期待の眼差しを京子に向けている。


 「ま、まあ一応は実家の手伝いもしていましたしお弁当とかは自分で作ってましたからそれなりに」


 おおーっと二人は声を上げる。

 

 「これでミリア様が大巫女様になれる! お前すごいぞ!!」


 「お前じゃないでしょ、小鳥遊京子、京子でいいわ」


 「うむ、キョウコさっそく美味い物作ろう!」



 驚かされることの連続だったが自分の世界に戻るため京子はクルムたちに協力することにした。


 そして京子とクルムの料理が始まるのであった。

 

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