第14話 やっと話せるようになったよ。


最初の冒険者を倒して数日、やっと例の便利アイテムを手に入れられるだけのDPが手に入った。

例のアイテムとは翻訳の石だ。今ならセール期間で2割引きの24000DP。これがあればグレイスと直接会話ができる。今まではアンを介する必要があったから一緒にグレイスの所まで出向く必要があったが、これを使えばアンが居なくても会話が可能になるな。


俺はショップ画面から翻訳の石(Cランク)を選択し、購入ボタンを押した。ボタンを押してすぐにアイテムが転送されてきた。

これが翻訳の石か…一見すると色がピンクって以外何の変哲もない石だな。使い方は…

俺は付属されてきた説明書に目を通した。なるほど。耳に当てるとモンスターの声が石で変換されてマスターに聞こえるようになるのか。

早速効果を試すべく石を持ってグレイスの部屋へと向かった。


部屋に付くとグレイスは産卵中だった。この光景ってモンスターだとごく普通の光景だけど人間だと普通に18禁な光景だよな。


「グレイス、取り込み中だったか?」


俺は石を耳に当てた。


「いえ、大丈夫ですよマスター。私に何か御用ですか?」


おぉ!聞こえる!声が聞こえるぞ!


「そうか、ちょっと試したいことがあってな。さっき翻訳の石ってアイテムを買ったんだが本当に声が聞こえるのかを試したかったんだ。」


「そうですか。それで…結果はどうですか?」


「成功だ。しっかり聞こえているぞ。」


「本当ですか!嬉しいです!マスターとこうして直接会話ができるなんて…感激です!」


グレイスは俺と直接会話ができるのがよっぽど嬉しい様だ。まあ俺も部下のモンスターと直接会話できるのは嬉しい。それに直接会話できればいざって時に知恵を借りることもできる。ダンジョンを運営するうえで大きな助けになるはずだ。


「グレイス。この前の戦いだったが犠牲を出してすまなかった。俺の采配がもっと良ければあの程度の相手で犠牲を出さずに済んだはずだ。本当にすまない。」


「謝らないでくださいマスター。私たちにとってダンジョンを守るために戦って死ぬことは名誉なことです。それにマスターが適切な指示を出したからこそあの程度の損害で済んだのです。だから自分を責めないでください。」


「そうか…そういわれると少しは気が楽になった。ありがとう。」


「マスター。ダンジョンを守るためには犠牲も必要です。犠牲を払ったからこそ守れるものだってあります。それに私たちはマスターを信じています。」


「そうか。肝に銘じておく。」


俺達人間とモンスターの間では価値観はかなり異なっているかもしれないが…ダンジョンを守るって事は一緒か。それに仲間を死なせても俺の事を信じてくれるとは…これは期待を裏切らないように頑張らないとな。


「暗い話はこのぐらいにしよう。グレイスも暗い話ばっかりじゃいやだろう?」


「そうですね。暗い話ばかりだと気分も落ち込んでしまいますね。」


「そういう訳で改めて聞きたいんだがターマイト達にとって今のこのダンジョンの環境はどうなんだ?率直な感想を聞かせてほしい。」


「そうですね。居住環境は比較的いいと思います。このダンジョンも私たちの本来の巣に比較的近い感じですし食事も魔力で補えています。特に不満要素は無いと思います。」


なるほど。あえて厳しく言うのならば可もなく不可もなくといった感じか。巣穴は生前の記憶で同じ地下生活をしているアリの巣をイメージして作ったからな。やっぱり地下で生活する者同士だから比較的近い環境だったか。

食事は…魔力で最低限補えてはいるけど魔力だけだと毎日同じ食事をしているようなものだよな。たぶん魔力の質さえ良ければ不満は出ないのだろうけど同じ食事ばかりはやっぱり人の感覚だと飽きるよな。


「じゃあ何か欲しいものとかはあるか?」


「そうですね。私たちは木材とキノコを主食にしているので強いて言うのならば木材が欲しいですね。」


「木材か。キノコはいらないのか?」


「キノコはその…出したものから生えてくるので。」


出したもの…あーそういう事ね。これは聞いたらマズかった奴だな。つまり木材さえあればキノコは確保できるって訳か。

近くに森はあるがこのダンジョンが数万の大所帯になったらあっという間になくなるだろうな。森を消滅させたら危険生物扱いされるよな。そうなれば軍隊やらギルドやらが討伐作戦と銘打って大軍を送ってくるかもしれない。数万の兵力が居たとしても無用な衝突は避けたい。

そうなるとダンジョン内で木を育成するしかないか。木の育成に適した環境をテーマ設定で作るか。割と何でもありの世界だからDPで成長の促進ぐらいはできるだろ。


「じゃあ欲しいのは木材。つまり木が欲しいって事だな。」


「そうですね。でも今はまだ難しいですよね?」


「悪いけど難しいな。ダンジョンに食用の木を生やすにはまずは巨大な空間を作って、そこをテーマ変更しないといけない。大きければ大きいほどDPを使うはずだ。多分今の群れの胃袋を満たすだけでも数万DPは必要だろうな。」


「やはりそうですか。数万DPがどのぐらいの価値があるかは詳しくはわかりませんが…きっとすぐに集める事は不可能がDPですよね。無理を言いました。今言ったことはどうぞ忘れてください。」


「だが時間を掛ければ数万なら案外何とかなるかもしれない。今は1日で2000PtちょっとDPが入っているからな。それにグレイスが卵を産んでくれるおかげで召喚に使う分のDPを他に使うことができる。今はまだ無理だが1月後ぐらいならもしかすればできるかもしれない。」


「いえ、無理はなさらないでくださいマスター。今は群れを大きくすることが先決です。私たちの食事は魔力だけで充分ですので。」


「でも魔力だけじゃ物足りないだろ?いつ作るとは約束はできないがDPに余裕ができたら作ってやる。」


「マスターは優しいのですね。我々にここまでしてくれるなんて。」


「なに。部下の過ごしやすい環境を作るのはマスターとして当然の役目だ。別に褒められるようなことじゃない。」


グレイス達が居なければダンジョンを守ることができないからな。それに命がけで守ってもらっている以上こっちも何かしてやらないとな。10階層まではもう設計図を作ってしまったから変更は効かないけど、その下の15階層はまだ設計前だからな。そこに作れないか検討してみよう。その頃にはちょうどいい感じにDPが貯まっているだろうし。


「餌の木材を育成するための部屋は検討しておこう。そうだな。今工事しているエリアの次のエリアに作ろうと思う。」


「ありがとうございます。マスター。」


「でも最初は需要を満たせる量を生産できないと思うからそれは理解してくれ。」


「ええ、それは勿論理解しています。」


いずれは需要を満たすだけの生産施設を作ろう。でも数万匹の需要を満たすだけの設備を作るってなると数階層を木の生産設備にしないとな。でも森は色々なことに使えるだろうから作る価値はあるな。5階層ぐらい森フロアを作っても良いかもしれないな。


その後、俺とグレイスは今後のダンジョン運営について話し合った。そういえばアンが居なかったな。まあ後で話を通せばいいか。10階層までの建築計画はOK貰ってるし。それ以降についてはまだ設計図すら書いていないからな。


そして俺はその後自室に戻り、15階層までの設計図を書き始めた。

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