きみのまわりにあるものは?

須戸

第1話 ある日のげた箱

 なんなのこのうわばきは!? 朝から入り口にころがっているなんて! 修学旅行のときだってホテルで、「くつはきちんとそろえましょう」って先生も言ってたというのに。

 だれのものかしら。かかとがつぶれていて読みにくい。


「みづき、おはよー」

 このはっきりとした声はけいね。

「あんただったの」

「えっ、何が?」

「今ふんだうわばきのことよ。げた箱に入れるくらいしなさい」

 注意するのもめんどう。だって言い訳が返ってくるし。

「ちょっとくらいいいじゃん。またはくんだし」

 やっぱり。でもきちんと入れてくれないと、少しとはいえ私の仕事が増えるのよね。

「ちょっとって、昨日からでしょ。なくなっても知らないからね」

「ていうかさー、なんでわざわざ注意してくんの?」

「げた箱の整理。クラス委員長の仕事。知ってるでしょ」

「昨日の放課後気付かなかったの?」

「あんた後から帰ったんじゃないの? 見てないけど」

 

 そういえば、圭は私が職員室に学級日誌を届けに行った後に外に出たのかしら。いつもはグラウンドでサッカーをしたいからって、帰りのあいさつが終わるとすぐに教室を出ていくのに。それに今まではうわばきがころがっていることはなかったから、ちゃんとげた箱には入れていたはず。学校で何か用があって、終わった後もよっぽど急ぐ必要があった?


 圭はななめ上を見ている。何かかくしているらしい。でも大したことじゃないだろうし、もう少ししで朝の会が始まるからとりあえずおいておこう。

「みづきさあ、ふつうはクラス委員長の仕事にげた箱の整理なんてないよ。だれも見てないのにやるなんて、まじめなんだから」

 あ、なんか今の言葉、イラっときた。

「あんたみたいなのがいるからやってるのよ」

「昨日はたまたまだって。いつもはちゃんとするし」

 言い返したい。でも、いつまでもここにいる訳にはいけない。今は折れておこう。

「もう、わかったわ。でも、かかとをふんで歩くのはやめなさい。ころぶわよ」

「おれ運動神経いいから平気だって」

「そうかもね。ただ見栄えはよくないわ。そんなんじゃ大人になったとき困るわよ」

「そのときはみづきがめんどうみてくれるんだろ?」

「えっ」

 なに? そんなしんけんな顔をして。

「あはは、赤くなってる。みづきってばかわいい」

「っ、なんなの? からかわないで」

「いやあ、おもしろいからつい」


 圭もう歩き出してる。あ、そういえばいつの間にかうわばきをきちんとはいてる。一応聞いてはくれたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る