第6話 異世界生活の始まり

 佑吾たちはしばらく悩んだ後、狩人に自分たちの事情を話すことにした。自分が元いた世界で死に、そして気づいたらこの森の中に居たことを。

 最初、狩人は狂人を見るかのような目で佑吾を見ていたが、佑吾にいくつかの質問──恐らくこの世界での常識であろうと佑吾は推測した──をして、それに何も答えられない様子から、半信半疑ではあるものの、佑吾が嘘をついてないと信じてくれたようだった。


 狩人の提案で、佑吾たちは先ほど狩人が教えてくれたアフタル村まで付いて行くことになった。サチは最初、知らない人間に付いて行くことに難色を示したが、ライルの「素人が森を歩くと迷うぞ」という発言を受けて、不承不承納得してくれた。

 森を歩く道すがら、佑吾たちは狩人と話して様々なことを教えてもらった。

 狩人の名前はライル・アルゴーというそうだ。アフタル村に住んでいて薬草採取と狩猟で生計を立てているらしい。

 今日も薬草採取に来ていたところ、佑吾たちが黒猪ダグボアに襲われていたので助けてくれたそうだ

 その佑吾たちを襲った黒猪ダグボアは、魔物と呼ばれる生物らしい。

 魔物は、他の生物に対して非常に凶暴な性質を持っており、更に先程ライルが見せたような不思議な力──魔法のような力を行使したり、異常な体質や体組織を有している生物とのことらしい。

 色々と話をしていく中で、そう言えばと佑吾がライルに話しかけた。


「ライルさん、ライルさんはコハルとサチの姿を見て驚かないんですか?」

「ん? 別に驚くような所は無いと思うが」

「いやだって……動物の耳と尻尾が生えてるんですよ?」

「それの何が……ああ、お前さんは異世界から来た、んだったな。お前さんの世界に犬人族と猫人族はいなかったのか?」

「ええ、俺がいた世界に、彼女たちのような人はいません」

「そうか、この世界には様々な種族が存在する。俺やお前さんのような人間種、そっちのお二人さんのような犬人族、猫人族といった動物の特徴を体に持つ獣人種、人間と同等以上の知能を持ち、魔物の中でも人間のような姿をした魔人種、美しい外見と高い魔力、そして長大な寿命を持つ妖精種など、たくさんの種族がこの世界で暮らしている」


 妖精や龍なんて、まるで童話の世界に飛び込んだようだ、と佑吾は苦笑した。


「それなら、コハルやサチをそのアフタル村に連れて行っても大丈夫ですか?」

「問題ないと思うぞ。村には人間しかいないが、帝国内や村にたまに訪れる行商の中にも獣人種はいるからな。珍しがられることはあっても、迫害されるようなことは無い」


 その言葉を聞いて佑吾は安心した。

 サチの方を見ると、彼女も少しホッとしているようだった。コハルは森の中の花や昆虫に夢中になっていて、こちらの話をまるで聞いていないようだった。


「見えたぞ。あれがアフタル村だ」


 しばらく歩き続けると視界が開け、木造の家が転々と見えだした。

 視界一杯の広い範囲で家屋が転々と存在しており、家屋の他には畑や井戸、牛が数頭いる小さな牧場らしきものもあった。

 そして、村全体をぐるりと囲うように、佑吾の腰くらいの高さの柵が張り巡らされていた。


 木で出来たアーチ状の門をくぐって村の中へと入り、ライルの案内で佑吾たちは村長の家へと向かった。

 向かっている途中、村人たちから好奇の目を向けられて、佑吾は多少落ち着かない気分を感じながら、ライルに付いて行った。

 案内された家に着くと、真っ白な髪をした初老の男性が出迎えてくれた。どうやら、彼が村長のようだ。

 家の中へと招かれ、テーブルについた佑吾たちはライルとともに事情を説明した。

 ただし、佑吾たちが異世界から来たことは伏せて。


 これは村に来る前に、ライルからそのことは今後伏せた方がいいと助言されたためだ。ライル曰く、佑吾たちがこの世界の常識を知らないとバレれば、厄介ごとに巻き込まれたり、犯罪者につけ込まれるとのことらしい。


「それで村長、そういう事情なんだが、彼らをこの村に住まわせても良いだろうか?」

「う〜ん、村の仕事をちゃんとやるって言うんなら、別にええぞ。家はほれ、数年空き家になっとるやつがあるじゃろ。あれを使ってくれ」


 さすがに不用心過ぎないかと佑吾は思ったが、「ライルの紹介ならば信用できる」と村長はカラカラと笑いながら言った。

 どうやら、この村においてライルは非常に信頼が置かれているらしい。

 それならば佑吾たちに断る理由は全く無い。佑吾たちは、その提案を承諾した。

 こうして、佑吾たちの異世界での暮らしが始まった。

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