不憫な奴じゃ
ぶぃーん。
背後で羽音が聞こえた。
一緒にナサリアの悲鳴もまた聞こえた。
「思うのだがな、シスター……」
「マーシェと申します」
依頼人であるシスターは、自分が名乗るのを忘れていた事を思い出したかのように、口を開いた。
「……シスター・マーシェ、奴等を退治するのに冒険者が必要か?」
「それは……」
シスターは痛いところを突かれたように沈黙する。その様子を見てフィリアはシスターを睨みつける。
「一般の人にとってみれば、冒険者なんて依頼を出せば何でもやってくれる便利屋さんみたいなもんさ。むしろ、だからこそ『邪悪なるもの』とか書くのは許せない。冒険者に失礼だし、冒涜だと言っても良い。ちゃんと書いたって、やってくれる人は居るはず。けど、あんな風に騙されてやってくる馬鹿なお人好しだって居る。アレを見て、何とも思わないんだったらアンタ聖職者辞めたほフガッ……」
フィリアが怒りを込めて熱く説いていたが、最後に噛んだ。ポンコツにはやはり長台詞は無理だったかと、少々残念な気持ちになる。とはいえ、普段見せる姿とは全く違い、信念を持って語る姿に私は少々感心した。
ぶぃーん。
目の前を黒いものが通り過ぎた。
「ぎゃー!」
大事なところで噛んで、凹んでいたフィリアに追い討ちをかける。半泣きになりながらも、ぐっと堪えてシスターを見据える。
「申し訳ありません!」
シスターは深々と頭を下げるが、フィリアの怒りが収まる様子はない。
「謝って貰ったところ悪いけど、虚偽または、不誠実な依頼であった場合には、依頼をキャンセルしても構わない事になっているんだよ。だから、私たちは……」
ぶぃーん。
「ぎゃー!」
またもや黒いものがフィリアの眼前を飛んですり抜け、フィリアの言葉を遮る。本人のせいではないが、とことん締まらない不憫な奴じゃ。
話を聞きながら首を回して、飛び回る奴らの姿を追いつつ警戒していたが、流石に疲れた。何とかならんものかと一考する。
問題解決の選択肢はいくつか有る。教会ごと燃やすか、キャンセルして帰るか、ナサリアに全て任せるか。
とにかく、この教会の中に残留するシスターが放った聖なるオーラは、私にとっては非常に体に悪い。さすがに、この中にいつまでも居る気にはなれないので、選択肢はどれでもいいから、さっさと終わらせて帰りたいというのが本音だった。
「面倒だから、燃やしてよいか?」
「いや、だめでしょ! アンタの『燃やす』対象は『奴ら』じゃなく『建物ごと』だよね?」
「おお、良く分かったの!」
「んなの、アンタの性格からすれば、すぐ分かるでしょ! ダメだかんね!」
かといって、有効な手だてがある訳でもない。
悲鳴を上げながら、ナサリアが何とかしようとしているようだが、努力が実を結ぶようには見えない。そして男共も何となく手伝おうとしているようには見えるが、明確な手順を持っていないのは見れば分かる。
「見た目が派手じゃない魔法とかないの?」
「
「つるぺた……物騒な魔法覚えてるんだな……」
「いいじゃろ!」
私は得意満面にフィリアを見る。その時だった。
ぶぃーん。
飛んできた奴らが、私とフィリアの頭にとまった。
「ふぎゃーーーーーー!」
絶叫が教会中に響き渡った。
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