あふーん……

「さて、このムカデの処分どうするかな」

 そう言って迷う人間の姿を見て思う。

(いや、これ珍味じゃよ! ちゃんと加工すれば絶品なのじゃよ! 飼って観賞するのもいいが、食うのもいいんじゃよ!)

 ヨダレをたらしつつ、手を伸ばす。味を想像するだけで……。

「とりあえず、焼いて埋めてしまえ」

 結論が出たらしい。私の心の声、届かず。あふーん……。

 解体されて火にくべられていく死体を見て、私は心で嘆く。ふと、横を見るとフィリアが同じように、がっくりと肩を落としてうなだれている。

「どうしたのじゃ?」

「あれ、美味いんだよね……。見た目は気持ち悪いけどさ、私達の村では珍重されてた程のやつなんだよ」

「アレの味が分かるのか!」

 思わぬところに同士が居たが、時すでに遅し。死体は全て焼却処分にされていた。

「人間はあれ、食べないんだねぇ。ってか、つるぺたはあれ食べた事あるの?」

「何度もあるわ。あれはちゃんと加工すれば絶品なんじゃがのぅ……。ナサリアなんぞ、見ただけで硬直しておったからな。食おうなんて思いもしないだろうな」

「「はぁ……」」

 ふたりのため息が被った。


 戦闘でムカデの体液を浴びたフィリアは、着替えを用意して貰うと浴場へ逆戻り。私とナサリアだけが部屋に戻ってきた。

「男共はなにをしておったんじゃ?」

「さあ? さっき酔っ払って戻ってきたから、騒ぎも気にせず、お湯に浸かりながら酒でも飲んでたんじゃない?」

 ナサリアが半ば呆れたように肩をすくめる。

「なに! 湯の中で酒を飲めるのか!」

「飲めるけど、アルデリーゼちゃんはお子様だから駄目だよ」

「あふ……」

 ムカデの肉と酒で楽しい時間が過ごせただろうに、と思うと少々哀しくなる。悪魔だって切なくなる時もあるんじゃよ……。

 仕方が無いので、宿の夕食で我慢するしかない。そう自分に言い聞かせる。

「まあ、夕食前に運動もしたし、これで美味しく食べられるな」

「え……いや、私はさっきの見たら食欲無くしたよ」

「ん? アレ、美味いんじゃぞ? クロにも食わせてやりたいところじゃ」

「……」

 ナサリアはあからさまに嫌な顔をする。

「無言で引くな」

「あんなの食べるの怪物とか悪魔とかだけでしょ」

 悪魔をゲテモノ喰いだと言いたいのか? 私は美食家じゃぞ。食い物を見た目で判断しないだけじゃ。何でも食うような、そこらの怪物と一緒にされると腹が立つ。

「……エルフも食うと言っておったぞ」

「……」

「だから、無言で引くなと言うとるじゃろ!」

 全く無神経なんだか、繊細なんだか分からん奴だ。まだポンコツエルフの方が分かりやすい。


 こう周囲に気を使ってばかりだと、たまには元の姿に戻ってゆっくりしたいものだ、と思う反面、今の生活に馴染みつつある自分が怖い。

 とは言え、色々と人間社会は勝手が違うのが悩みの種。周りに気を使えとか、もっと配慮をしろとか、悪魔にそんなものを要求されても困るのじゃよ。

 本来ならあの程度のムカデ、軽い魔法でサクっと済ませられた。だが、やれ森が燃えるだの危険なのは使うなだのと言われて、ここのところ悪魔らしい豪快な魔法が使えずイライラしていた事もあり、久々に大出力の魔法を使えて良い鬱憤晴らしにさせて貰った。食えないのは不満だが、魔法に関しては満足できた。

 ほら、あれだ、悪魔らしい容赦無い一撃ってやつ。格好いいじゃろ?

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