そうこうしているうちに、女子高生の身体がホームから離れた。


 もう間に合わない!


 手を伸ばせば、助けるどころか巻き添いをくらってしまう。


 死にたくない……。


 このままでは、血とか肉片とか下手すると内臓とかが飛び散ってくるかもしれない。


 なんで、よりによって、どうして今日に限って先頭に並んじゃってるの!


 このジャケットだってまだ支払い終わってないし、白だし。

 素早く後ろのおじさんと入れ替わっ て盾にするか。


 ギギギギギーーッ、ギギギーッ、ギギーッ!


 電車が急停車する、けたたましい騒音が耳を貫く。


 うっそーっ!


 とても見ていられない。

 思わず両手で顔を覆って、精一杯後ろに下がった。

 悲鳴と鉄の唸り声が不気味に重なり合って、鼓膜に突き刺さってくる。


 勘弁してよー!


 地獄のような絵が広がってるに違いない。


 まじか……。絶対、トラウマになる!


 このまま気を失ったふりをして倒れ込み、誰かに医務室に運んでもらおうか。

 そうすれば、私は何も見ていない! 気付いていない! なんの関わりもない! ということで終われるかもしれない。


 この先の行動をどう取るべきか、あれこれ対策を練っている最中、突然、何かが変わった。


 まっ、眩しい!


 顔を覆ったままなのに、一瞬にして明るくなったのが分かる。


 どういうこと?


 恐る恐る両手をずらして、顔を覗かせてみた。


「えっ?」


 目の前に、スラリと背の高いイケメンが……。

 白い民族衣装のようなものを纏い、右肩からは大きな翼が見えている。左肩の翼は……、痛々しく折れている。

 そして、なんと、先程飛び込んだはずの女子高生を抱いている。


 えっ、天使? この子の守護霊?


 イケメンが、フッと笑った。


 なになに! 私に笑いかけてんの?


其方そなたも一緒に参るぞ」


 えっ、一緒にって! 私も死んじゃったの? そんなバカな……。


「あっ、あの、死んだのはこの子で……。 私は電車になんて飛び込んでないし、生きる気満々です!」


 聞いていないのか、無視しているのか、イケメンが衣装の袖をこちらに向けて大きく翻した。

 ふんわりとした絹のような袖に、スッポリと頭まで包まれてしまう。


「ちょっと、何すんの! やめてよ! ふざけないで!」


 急に息ができなくなった。


 やだ! 連れていかないで! 絶対、死にたくなーい!


 雲のような袖の中で、激しく暴れまくる。

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