第4話 神の声を聴く者

 


 「貴様の童貞は俺が守る」

 いきなりクソみたいな宣言されたけどぉ⁉


 「貴様の童貞の危機は、日本存亡の危機」

 もう滅んじゃえよ、日本‼


 これほど荒唐無稽な発言なのに、誰も、何も言わなかった。純白の忍者服と鉢巻き姿で登場したのに、誰も、何も言わなかった。明らかな敵の襲来なのに、誰も、何も言わなかった。…その美しさに、誰もが息を飲んでしまうから。

 そして、その黄金色の瞳には、息を飲みこませる威圧があった。


 「ニンジャ…マスター…」


 こいつがリョウマだ。世界中の名工が1000年の歳月をかけて、髪の毛一本に至る細部まで完璧に創造した完成された美しさと、…一秒で決定するシンプル過ぎるロクデナシ思考を実行する頭脳を持った、迷惑な男だな。


 「その女が、貴様から童貞を奪おうとする、日本の敵だな」

 その理由で『日本の敵』呼ばわりされる敵も珍しいな


 ニンジャマスターさま御一行が到着した。


 「貴様が仙人でなくなったら、俺が困る」

 「………」

 「俺の許しなく童貞を捨てる事は許さん」

 …確かに、仙人の基本設定はそうだけども…転生して職業選択からやり直してぇ。




 真っ赤な少年忍者が戦闘員のキョウ、有能秘書にしか見えないのが秘書のアンさん、と同じ藍色制服を着たポニーテイルが雑用係のケイ、同じ制服で銀髪メガネが道具屋のシルバ、最後にムチムチひょっとこが戦闘員のコンだな。十把一絡げ。

 …って、ひょっとこじゃなかった。今日のコンは黄金ロングの髪をアップにまとめた伊達メガネで、出会った時を思わせた。ここ、人目につかないからな。


 


 「だから!」

 「騒ぐでない‼…所詮、我々に傷の一つもつけられない〝ただのヒト〟だ!」

 「…この刀でも、傷つけられないのぉ?」

 剣帝と炎帝の口論を、漆黒の刀が斬り割いた。


 とぼけた口調で抜き身の刀を弄ぶのは、サムライマスターのトップ…にはとても見えない、茶髪を二つ束ねておさげにした、黒コートの少女だった。彼女は自他とも認める〝天才〟スケさんだ。あの黒コートの中には、刃物が山ほど隠されている。

 ただ、真人二人は彼女を見ていなかった。彼女の持つ刀しか、見ていなかった。


 「その、…刀は、まさか」

 その刀身は闇色に輝く、全てを吸い込む深淵の黒。黒が光る、という矛盾。それこそ、星石の光…その刀身が星石の集合体である〝大星石〟の証かもしれなかった。その刀を持つ者の左瞳と同じく、底の見えない湖の底のような、漆黒の光。

 「そう」

 スケさんが年相応のはにかんだ笑みを浮かべる。


 「…アンタを一時間に1㎜づつ、1年かかって肉塊にする〝黒い解体包丁〟よぉ」

 「〝十咫の剣〟に不吉な名前つけんじゃねぇ‼」

 折れて短くなったから、もう〝十拳の剣〟だけどな。って、それただの神剣。


 俺のツッコミより先に斬撃音と火花が重なる。その台詞の不吉さに誰もが鼻白んだ、一瞬、すでにスケさんの足は地面を蹴り、その刀は剣帝の喉元を突き抜こうとしていた。それを自らの刀でさばいてかわしたのは、さすが〝剣帝〟だろう。

 首の皮一枚、にしても


 「やぁぁあっぱり、この大星石の塊なら〝真人〟も斬れるみたいねぇぇ‼」

 剣帝の首筋から、一筋の血が流れる。それは、紛れもなくカスリ傷なのだけど、紛れもなく〝絶対防御〟が意味をなさなかった証だった。


 首を切られ血を流した剣帝の顔に、痛みや死への怯えはない。が、不快は剥き出しにされていた。奴らしくもなく、後ろ向きな後悔と妬みとで。

 あの刀は、元々スケさんたちサムライの宝刀だったのだけど、なんやかやで剣帝が奪ったのを、あの大凶星がへし折った。…で、放置されていた折れた刀をまんまと拾ったリョウマの所有物になり、今はスケさんに貸し与えられているんだからな。


 「…ってかさ、リョウマ?あの刀、お前自身で使おうとか思わなかったの?」

 「バカか?貴様は」

 その哀れな生き物を見る目、やめろ‼


 「そんな事をしたら、自分が最前線に立つ事になり、危険だろうが」

 「…うん」

 「勇者に伝説の剣を与え、玉座にて魔王討伐という果実のみを食らう」

 「………」

 「それが〝王〟というモノだ」

 RPGの王様って、みんなこんなクズ思考なの⁉


 まぁ、実際、その勇者さまは、悪の魔剣士とチャンバラをなさっているのだけど。しかも、勇者が優勢だ。王から授かった伝説の剣〝十咫の剣〟は、悪の魔剣士の〝絶対防御〟を難なく突破して、その体にいくつもの赤い線をつけていた。

 「インチキ防御はどーしたの?また斬れたよ?また斬れたよ?また斬れたよぉ?」

 台詞は完全に悪役だけどな‼


 「………」

 あれ?何の解決にもなってなくね?


 「さて。この炎帝の相手をしてくれるのは誰かの?」

 大魔王が控えてるじゃねーか‼


 自分の腕の中にいたトキにキスをしつつ、その身をホスト達へと預けた炎帝が、真っ赤なドレスの裾を掴んで降り近づいてくる。大きく胸元が開いたドレスを、さらに両手を広げてさらけだしたのは、俺の望みとは全く違う意味の挑発だろう。

 無敵超人相手に、挑もうとする者など、いる筈がなかった。


 「トキに今、何をしたボケぇ‼」

 …すまん。いた。


 「面白い!この、キョウが相手です‼」

 …ごめん。結構いた。


 「でぇ?この場に〝真人〟を傷つけられるものがおるのかぇ?」

 「こ、こっちには仙人がいるんすよ‼」

 俺を盾扱いすんな、ケイ。


 「仙人殿は、わらわとの逢瀬の約束があるので、敵対はしないそうじゃ」

 「…へぇ。そっすか」

 うんこを見る目で見られた‼


 「…そら、おしあわせに」

 うんこと同じ距離を取られた‼


 「安心しろ。貴様の童貞は俺が守ってやる」

 嬉しくねーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼


 「俺が守ってやる、じゃと?」

 熱を感じて振り返る。炎帝の真っ赤な両眼に怒りの炎が燃え盛っていた。その赤髪が燃え盛る炎の様に逆立って揺らめくいていた。真紅のドレスの先から炎が燃え移っているようだった。文字通り〝烈火の如く〟怒っていた。

 それは、…実は気のせいではなかった。


 「まさか、この〝炎帝〟から、ではなかろうなぁ‼」

 ぎゃーーーーーーーーーーーーーー火柱‼」


 もはや何で生きてるのか知らんけど、ってか、炎帝はリアル火柱の中で火傷すらしていないようだった。うん!あれ!間違いなく、火柱の中にいるよねぇ⁉きっと〝偶然〟だよ‼運良く、傷つかないんだよ‼っつか知らねぇよ‼

 突然立ち上る火柱に、ホスト達は慌てて周囲に飛び、俺達も下がって身構える。


 「ひ、ひひひひ、火、ひ、」

 それに一番怯えているのはケイだった。彼女の今までの人生は『火難』で一杯だったから。火は必ず彼女を狙って襲ってくるから。いつ、自分のポニーテイルの先から火が登ってくるか、何度も何度も泣きそうな顔で見返していた。


 その肩を、リョウマがそっと支えた。


 「ケイ、俺にその身を任せろ」

 「は、ははははは、はいっす‼」

 恐怖のどん底にいた時、自分を支え声をかけてくれたのが、自分が惹かれ焦がれる男だった。本当に自分が危急な時に白馬の王子さま、ならぬ、白衣の忍者さまに救われるというのは、至上の幸福だった。…と、緩みきったケイの顔が言っていた。


 リョウマはその背をそっと押す。

 「行け」

 「…へ?」

 炎のド正面に向けて。


 「えええええええええええええええええええええええええ⁉」

 まるで吸い込まれるように炎がケイに向かって襲い掛かる。…きっと、空気の流れとかなんかなんだと思う。それが、何で、今、彼女に向けて、起こるのかしらんけど。まるで炎が意思を持って、ケイを飲み込もうとしているようにしか見えんけど。


 「火遁〝ヤタガラス〟」

 轟火が、涙で溺れそうなケイに直撃する、直前、飛び出したリョウマに乗り移る。大きく開いたその両腕の赤い籠手から、翼の様に炎が流れ散っていくも、その身に纏う炎はむしろなお一層炎々と燃えあがる。その姿はまさに一筋の炎の矢だ。


 「…あの籠手は…」

 「ワターシの作品デース‼」

 束ねた銀髪を勢いよく左手で跳ね、シルバがまんまる眼鏡を持ち上げる。…うん、あのゴテゴテした作風は、そうじゃないかと思ったよ。あれは、…星石装具?とでも言えばいいんだろうか。運命を操る星石を、効率運用する道具だな。

 「…ナニもない所からイツでも炎を出せるヘンタイは、あなただけデスヨ?」

 変態ゆーな。

 「あいつは、どうなんだよ?」


 「…カラス如きが猛牛の突進を止められる筈がなかろうが‼」

 リョウマの、十倍の火球と化した炎帝が、周囲を焦げ壊しながら猛進を始めた。


 「お、お前ら」

 爆弾の側で火遊びすんなーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼


 火球同士のぶつかり合いの熱風は、俺達をのけぞらせ、建物を揺らし、ガラスにひびを入れる。…その先にあるのは…日本破壊爆弾なんですよ‼その危機に気づいてる俺達は、敵味方関係なく、もう気が気じゃない。お前ら頼むからよそでやれ‼

 この二人だけは、爆心地でも死なないだろう理不尽‼


 実際の激突の時間は5秒にも満たなかっただろう。炎帝の大きな火球に跳ね飛ばされるように、リョウマのヤタガラスは空を舞って、ふわりと着地した。


 「ほぅ…今ので傷ついておらぬとは、さすがじゃの」

 敵からの称賛をリョウマは聞き流す。あの、火炎地獄の中心にいた筈なのに、その白い忍者服に、煤のひとシミすら発見できなかった。その美しい肌に、火傷どころか汗の一粒すら発見できなかった。その整った造形に1㎜の傷もついていなかった。


 「炎をその娘に集め、膨大な炎を消費するヤタガラスを生成する流れで散らす、か。…この炎帝の炎をも含めてな。こちらがいくら炎を送っても効かぬわけじゃの」


 「ぎゃーーーーーーーーーー⁉熱い熱い熱い熱いっす‼」

 …その炎、最終的にケイの尻に燃え移ってるけど。


 「で?」


 無論、炎帝の側にもチリ一つの傷もない。そして、彼女は〝何もしていない〟

 何もしなくても、この世の全てが彼女を傷つける事が出来ない。それが真人の『絶対防御』である。一見、互角の様に見えるが、一手でも間違えば黒焦げになるリョウマと違って、炎帝は何があっても傷つかない。何をしても傷つけられない。

 …そう、歪みきった哄笑が言っていた。


 「どうした?どうした?ど~~~~~したぁ?ほれほれノーガードじゃぞぉ?」

 耳に障る甲高い笑い声が響き渡る。


 「ああ、…神の声が聞こえます」

 そこに、一発の銃声が鳴り響いた。


 「…え?」

 誰も、何が起きたのか分からなかった。


 いや、誰もが、何が起きたか分かっていた。炎帝の左肩から血が噴き出している。流れる血が赤いドレスをどす黒く染めていた。先ほどの銃声からもその傷口が銃創であることは間違いない。炎帝は銃で撃たれて負傷したのだった。

 みんな、分かっていた。それでも、皆…あのスケさんすら、動きを止めていた。


 「…何で〝真人〟に傷をつけられる…?」

 そう。それだ。


 うわごとのようにその言葉が漏れ出した、炎帝の唇は震え歪み、その顔は蒼白だった。それは、果たして痛みのせいなのか、それともあり得ない…あってはならない、現実のせいなのか…おそらく、後者だろうな…

 その表情よりもはるかに歪んだ感情を向けられたのは、


 「神の言葉は〝絶対〟なのです」

 天使だった。


 まるで花に水をやるじょうろを持つように、…銃を握ってるよな?いや、確かに、間違いなく、そうなのだ。まるで水をやったお花を眺めるように、自分が撃った相手に天使すぎる笑顔を向けて、…いるよな?な?な?俺、間違ってないよな?

 …俺が、今、見てる光景って、何?


 「神はおっしゃいました」

 自分に集まる視線を持ち上げるように、ショウは天を仰いだ。


 「〝ニューナンブを仰角20度1時の方向に向けて引き金を引きなさい。左手はしっかりと右腕を抑え、重心をしっかりと軸足に乗せるのです〟と」

 「神、そんな細けぇアドバイスしねぇよ‼」

 それ、ただのお前の第2人格だよねぇ⁉


 「〝聖人〟か」

 しかし、リョウマは納得していた。


 「せ〝聖人〟だと⁉」

 そして、眼帯も現実に驚愕し、狼狽している。


 「まさか…〝聖人〟も実在したのか…」

 なんか、トキも呆然自失している。


 「………」

 あれ?何か、ツッコんだ俺がおかしいみたいになってね?


 見回してみると、…うん、大丈夫。俺、変なこと言ってねぇ。ニンジャマスター御一行も、ホストの皆さんも、タマモも、俺と同じ顔をしていた。『納得できねー』とゆー…そして、皆さん俺に圧力をかけてくる。『ツッコむのはお前の役目だろ』と。

 

 「………聖人ってなんじゃらほい?」

 「〝絶対者〟だ」

 綺麗すぎる横顔で呟いたリョウマの手は、ちゃっかり操作盤を拾っている。


 「〝仙人〟が〝偶然〟が人の形をした存在ならば、〝聖人〟は〝必然〟が人の形をした存在…その言葉は、必ず実現する。絶対に回避不能な〝必然〟」

 「神の言葉は絶対、か」


 視線を落とすと、その神の使途が上目遣いで見上げていた。

 「タコツボ、買いますよね?」

 「やだ」

 「が~~~ん」

 …これが絶対者?


 リョウマが言うには、真人の絶対防御を無効化した時点で、このキノコ頭は〝聖人〟だと。『絶対防御』は、それこそ〝ただのヒト〟には絶対に破れない。破れるのは、同じ真人か、どんな願いも叶えると言われるほどの大星石。

 あとは〝ただのヒト〟を超えた存在だと。


 「…お前、神の存在とか信じるタイプには見えんけどなぁ」

 「バカか?貴様は」

 それは侮辱と言うより、呆れた顔だった。


 「世界に絶対的な存在など幾らでもあるだろ。重力しかり、光しかり。どんな事象であろうが、それを理解して利用する。それだけの事だ」

 …そーいや、こいつ〝運命〟を道具にしてるやつだった。


 「な、何故だ⁉」

 いきなりの絶叫に思わず俺は飛び退いた。恐る恐る声がした方を振り向いて…後悔した。そこにあったのは、剣帝の…全ての理不尽を憎悪する表情だったから。


 「何で、〝仙人〟と〝聖人〟が一緒になって、我々真人の前に立つ⁉」

 「………」

 タコツボ押し売りされてるから、とか言えないなぁ。


 「全ては神のご意思です」

 「………」

 そう。実は、俺、今回、一度もコインを投げて選択をしてない。


 神の声とやらは、俺を仙人と知った上で、タコツボを押し売りして、その流れの結果として今があるのだ。その理由は何だ?神とやらが名目通り崇高な存在なら、

 「…この計画は、やはりやるべきではなかったという事なのか?確かに、幾ら地球人類百億の為とはいえ、日本人を犠牲にしていいはずがない…今からでも」

 「…チッ」


 舌打ちを飲み込んだ、その顔は深々と垂れていた。今までも、一人、何かの影に隠れていた5人目のホスト男。長髪がその左側にかかって影になっているが、他の四人と同じく整った造形をしている。他の四人と違って、マネキンの様に。

 そして、間違いなくこいつがホストどもの頭だった。


 「剣帝さまは炎帝さまを連れてお引きください。この場は我々が」

 「あ…ああ、そうだな、ジャン、あとは任せる」

 もはや茫然自失してしまっている剣帝は、その5人目のホストの言いなりに、言いなりになってるなど気づかずに、気絶している炎帝を抱えて歩き出す。


 「バカか?貴様は」

 「アタシが逃がすわけないでしょぉ?」

 悪役が二人いる‼


 「雷遁〝タケミカヅチ〟」

 壁から漏れ出ていた火花が増幅して光った、と思った刹那、雷がジャンと呼ばれた男に…当たる前に逸れた。いや…逸れたと言うか、Uターンして、戻って…くる。その稲妻は、もはや巨大な獣の姿にしか見えなかった。

 「いけ〝雷獣〟」

 「…グッバ~イ、不動明王」

 スケさんの真紅の脇差一振りで、雷は散って消えた。


 …今の、一連のやり取りって、全部〝運命操作〟だよな?ニンジャとサムライがそれをできるのは知っているけど、じゃあ、あいつは何なんだ?


 「あ、あれって」

 VRゴーグル…じゃねぇよな。パッと見はそう見える、あの男の顔上半分を隠してしまっている金属物。それを俺達は知っていたから。あれはリョウマや真人の『運命を操る技術』を機械演算によって一般人も扱えるようにするゴーグルだ。

 気づくと、ホスト全員がそれを装備していた。つまり、こいつらは、


 「科学忍者チーム‼」

 なにその昭和臭ただよう団体⁉


 「わ、ワタシ、知りまセーン‼ワタシ関係ないデス‼」

 自分に集まろうとする視線を振り払うように、シルバがその銀髪を振り乱す。リョウマの籠手と同様、あのゴーグルの開発者も彼女だからな。


 そのゴーグルが何でマフィアに渡っているのか、…を、今、論じても仕方ないべな。そもそも、そんな警戒厳重じゃねーし…問題は、突如現れた八門五行の使い手にどう対処するか、だ。実力は分からんけど、人数では完全に逆転された。


 「笑止‼」

 時代劇でしかお目にかかれないセリフを吐いたのは、真っ赤な少年忍者だった。


 「カラクリ忍者隊など、真の忍者の敵ではありません‼とぅ‼」

 言い放つなり、キョウが地を蹴り、回転しながら空を舞ってホスト達の頭上を飛び越える。そして、10mほど離れたコンソールの上に見事な片足着地した。

 「このキョウが相手です‼」


 ぽちっ


 『爆破、最終シークエンスに入ります。基地内から速やかに避難してください』

 「あれ?」

 「何しとんじゃコラぁぁぁぁあああああああああ‼」


 ほんと見事に着地したよ‼ボタンの上にな‼ほとんど全員からの総ツッコミに、キョウはしばき倒されるように飛び上がり、よろけて危うく倒れかけた。


 ぽちっ


 『秒読みを開始します。爆破まで、あと60、59、58、57』

 「あれ?」

 「おいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいい⁉」


 「アン」

 「かしこまりました。リョウマ様」

 髪を振り乱し、喚きまわる俺達とは正反対。切り揃えられた長髪から、その制服の襟や袖の端まで、完全なる整然さでアンさんがコンソールを操作している。カウントダウンに動く心なんて最初からないような、機械のような正確さで。


 結局、アンさんがコンソールを操作して、何事もなかったように警報は止まった。そして、その間中、俺とキョウとケイが周りでカウントダウンをしながら踊り狂っていた間に、…ホスト軍団はこの場から逃げ去ってしまったのだった。

 ついでに、タマモとトキもいなくなっていた。


 「…逃げられたな」

 「してやられました!」

 お前のせいだよねぇ⁉キョウ‼

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る