ヒュペルボレイオス

水;雨

第1話

ずいぶん立て付けの悪いトイレの扉だな、と悪態をついていた。

押すだけで壊れそうだ。

何より腹の立ったのはトイレのプレートが外されていたことだ。

いくら改修の最中とはいえ、対応が雑すぎる。

大杉嘉人は久しぶりに来た市内の図書館でとことん腹が立っていた。

目当てのラノベがなかったのもそうだし、職員も忙しさにかまけてぞんざいで、レファレンスもたどたどしい。

いつからこうなった。

本を読むのは好きで、忙しい身もあり、さっと読めて充実感があるラノベを中心に攻めていた。図書館には古いのがある。もうあまり出回ってないやつだ。大きな仕事を抱えていてろくに関われてなかったのだが、ようやくひと段落つき来てみれば、これだ。

尿意には勝てなかったので、(開かない)、ぐぎぎ、ひ、ら、け〜、へあっ?パッと開き、たたらを踏んで踏み込んでみれば。

電気が付いてない。配線トラブルか?

ーーー足場がなかった。

あっ、と思った時には落下が始まっていた。

わーーーーーーーーあぁぁぁ…

遠のく意識の中、不思議の国のアリスの落ちるくだりがリフレインされていた。

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