第3話・陽子と中性子

クォーク三つが集まることによって生を得たヨウシくんは、先の爆発の勢いそのままに、ものすごいスピードで飛びつづけている。

つづけている・・・とはいっても、まだ旅ははじまったばかりだけどね。

どれくらいはじまったばかりかというと、まだ出発してから1分くらいしかたってないよ、って感じ。

まわりはあっちっちの灼熱、そして目もくらまんばかりの光の海だ。

そんな熱さとまぶしさをがまんして、ヨウシくんはふと横を見る。

するとお隣にも、自分と同じつくりの陽子が飛んでいる。

その陽子もまた、クォーク三つがくっついてできたんだ。

見渡してみると、同様の姿をしたおびただしい陽子たちが、ヨウシくんの周囲を・・・いや、耕されつつある空間全域を埋め尽くしている。

さらに、はて、それとは別な、自分とは違う姿をした・・・でもちょっと似てるやつも飛んでいる。

それはよく見てみると、驚くなかれ、オカマちゃんではないの。

名を、陽子ではなく、「チューセーシ(中性子)」というらしい。

彼・・・いや、彼女か?も、聞けば、この世で最小の粒であるクォークが三つ合体してできているらしい。

同じだ・・・

じゃ、なぜ、ヨウシくんとチューセーシくんは、姿かたちが違うんだろう?


さて、ここでちょっと難しい話をしていいかな?

実は、件の爆発のときにバラまかれたクォークには、もともと二種類があったんだ。

「アップクォーク」と「ダウンクォーク」の二種類だ。

このふたつは、そっくりなんだけど、電荷というものが違っている。

電荷というのは、つまり乾電池のプラス(+)とマイナス(-)のことだと、ざっくり覚えておけばいい。

二種類のクォークのうち、片っぽのアップクォークはプラスで、もう片っぽのダウンクォークはマイナスなんだ。

細かく言えば、アップクォークは、+2/3の電荷を持っている。

ダウンクォークは、-1/3の電荷だ。

シャッフルされたこの二種類のクォークが、それぞれに三つ合体して陽子や中性子になるわけなんだけど、ここで分数の足し算が必要になる。

ヨウシくんをはじめとした陽子は、アップクォークが二つと、ダウンクォークが一つでできているんだ。

だから、ええと・・・+2/3と、+2/3と、-1/3との合計で、+3/3=「+1」の電荷を持つことになる。

つまり、陽子の電荷はプラス1なんだ。

チューセーシくんは逆に、アップクォークが一つと、ダウンクォークが二つでできている。

つまり、+2/3と、-1/3と、-1/3とで、合計は「±0」。

なんと電荷ナシ!

だから中性子は、どっちつかずのオカマちゃんになっちゃったんだね。

おっと、難しい計算をさせてしまってごめん。

だけど、この電荷の部分はわりかし重要だから、覚えておいてほしいんだ。

そして理解してほしいのが、+と+、-と-同士ははじき合い、反対に+と-の逆電荷だと引き寄せ合うってこと。

このへんの事情は、なんとなく直感として理解できるよね。

極によって反発したりくっつき合ったりする磁石みたいなもんだな、くらいに思っておいてくれたらいい。

ヨウシくんは+電荷、チューセーシくんはゼロ電荷だから、特に仲がいいわけでも、ケンカをしたがるわけでもない。

だけど、のちに-電荷のキャラが現れて一大センセーションを巻き起こすことになるので、とにかくここのところは覚えておいてよね。

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