第6話 初クエスト:魔王様と添い寝

「この世界は、地球と昼夜が逆転しています。日本の昼は、こちらの夜です」


 海外旅行もそんなカンジらしいね。余計、眠れないかも。


 そう思っていたが、知らない間にあくびが出てきた。

 眠気が止まらない。


「あれ、どうしちゃったんだろう、ボク?」

 ひょっとして、一服盛られたのでは、と考えた。


 しかし、セイさんは不自然な素振りなど見せていない。

 本当に、ボクは眠いのだ。


「ですから、本当に玉座とはお辛い仕事なのです。ですので、無理せずお休みください」


 セイさんが、指をパチンと鳴らす。

 ボクが座っている座布団が、布団に変わった。


「うわあ、ありがとうございます。便利ですね、このソファ。布団になる機能があるなんて」


「玉座は案外、大変ですから。いつでもリラックスできるような仕組みにしております。好きなときにくつろいでくださいませ」


「そういえば、ベッドではなくて、布団なんですね?」


「ご用意できませんでした。今日はそちらでお休みください」


「ボクはいいんです。チサちゃんが」


 チサちゃんは、起きてこない。

 ボクの腕の中で、健やかに眠っている。


「何をおっしゃいます。お二方は、共にお休みなさるのですよ」

 平然と、セイさんは言い放った。


「ちょちょちょっとまって! 一緒に寝るの?」


「もちろんです。あなたは玉座なのです。魔王と玉座はつきものです。常に共にあります」


 何を言っているんだと言わんばかりに、セイさんはまくし立てる。


「女性同士の方が、安心できるんじゃない?」


「ワタクシだって、できればご一緒に眠りたいですよ。ですが、ワタクシ程度のマナでは、チサ様を満足させられず」


 よほど歯がゆいのか、セイさんが思いをさらけ出す。


「どうか、一緒にお休みなってくださいませ。誰も咎めませんので」


 セイさんがボクの側に、着替えを置いてくれた。

 ゆったりしたジャージだ。

 さすがにゴムではなくヒモ製だが。

 こういう服飾技術はあるということか。


「おやすみなさいませ大毅様。また明日お目に掛かりましょう」


 セイさんが去って行く。ホントに出て行くんだ。


 ボクだって、こんな小さい子に手なんて出す気はないけど。


 チサちゃんを起こさないように、着替えて横たわった。


 天井にある、シャンデリアの明かりが、ひとりでに消える。


 娘を寝かしつける父親って、こんな感じなのだろうか。

 ボクは一人っ子な上に、姪の類いもいない。

 だから、女の子を持つ親の気持ちはよく分からなかった。

 今なら、分かる気がする。


 今日は、色々考えすぎて疲れた。身体を休めるとするか。


 そう考えただけで、まぶたが突然重くなった。

 外の雨音さえ気にならないくらい、ボクは眠りにつく。

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