自爆霊ボムみちゃんと十一人の未来罪人

宮園クラン

第1話:女狼は驕豚を喰らう

【4/21 14:04:23 西乃沙羅 残刻 72:00:00】




 聖人君主せいじんくんしゅでもなければ善人でもない。自分はまぎれもないふしだらな人間だと、せつに思う。



 つい今しがた98人目の交際者と決別した――それは実質自分から振った形になるのだが――西乃沙羅にしのさらは、もう何度目になるか分からない、毎度お馴染なじみ懺悔ざんげタイムに没頭ぼっとうしていた。



「今回は何が原因だったのだろう」



 独白どくはくするまでもなく明白めいはくだったが、えて沙羅は誰もいない2LDKのマンションの寝室にて、自分自身に問いかける。



 厳密げんみつに状況を描写びょうしゃするならば、彼女が唯一ゆいいつ心を許せる存在である飼い犬がベッドのわきに存在しているのだが。



 沙羅の心情をはかるべくもなく、すやすやと眠っているのを、無理に起こすのもしのびなかったし、何より彼の睡眠時間をさまたげてまでして、語りかけたくもなかった。



贔屓目ひいきめでなくとも、見た目は悪くはなかった。年相応としそうおうの収入源も持ち合わせていたし、借金等のにおいもしなかった)



(でも、趣味がサボテン鑑賞かんしょうだもんな。良くない、非常に良くない)



 98人目の彼氏だった男とはカフェで知り合った。



 沙羅が一人で豆乳ラテを気だるげにたしなんでいる際、前置きなく突如とつじょとして声をけられたのだ。



 ひまとラテを持て余していた実情じつじょうあいまって、話している内になんとなく付き合うことになった。



 そしてその日のうちに外泊がいはくをすることになり、男の家に訪れた際、前述の事実を知ってしまったのだ。



(家がサボテンでつくくされていたというか、サボテンが家みたいだったもんな)



 賃貸ちんたいではなく持ち家、玄関げんかんをくぐる前からその異様さは際立って顕著けんちょであった。



 沙羅は自国内女性平均身長を大きく上回る長身にもかかわらず、持ち前の190cmの高さを優にえるサボテンが、至るところに生えている。



 敷居しきいまたぐと、そこは正にジャングルだった。



 視界を所狭ところせましとサボテンが群生ぐんせいしており――むしろ壁面へきめんであったり床面ゆかめんであったり天井てんじょうであったりの境目さかいめが見当たらず文字通り樹海を思わせた――困惑するまま為すがままに通された客間とおぼしき部屋では、沙羅はくつろごうにも寛げず、どうにかして半刻程耐え忍ぶもとうとう限界が来、(彼女なりに)丁寧ていねいにお断りをして男の家を飛び出てきた。



 ここまでが昨晩における、一連の出来事。



(普通の女なら、あの時点であきらめて受け入れちゃうんだろうけど。にしてもしつこかったなアイツは)



 翌日、というか本日になる。



 何食わぬ顔で昨晩居たカフェで今度はアーモンドラテをちびちびとすすっていると、再びサボテン男が現れた。



 字面じづらだけなら一昔前に主流だった8bitのロールプレイング・ゲームの敵キャラクターと遭遇そうぐうした様でもある。



 男は、何故あれほど意気投合いきとうごうしたのにいきなり帰ったのかであったり、どうして僕の趣味しゅみを理解してくれないんだなどと激昂げきこうしている。



 まさしく戦闘バトルに突入するのではないかと、はたまた久々に殴り合いが出来るのではないのかと淡い期待にワクワクしながらあおり文句をつき返す沙羅であったが、その願いはかなわずに終わってしまうことになる。



 客同士のいざこざに気がついた店員が、いらぬ気を使い110番をし、警察組織が出張でばってきたからだ。



 とはいえ、中年間際まぎわのスーツ姿のサラリーマンが、若い女性に一方的にる姿が、誰がどうみても剣呑けんのんではない風景に違いないだろう。



 法治国家万歳ほうちこっかばんざい、女性はかよわき存在でありとうといものなのかは全てに当てはまるかは置いておいて、果たして男は通報に応じ登場した二名の警察官達に連行されていったのだった。



 事なきを得た沙羅は、揉め事トラブルを起こした事に少しの罪悪感を感じたのか、カフェ店員に定期購買のスタンプカード購入を申し出たのだが、あろう事か逆に自身の身の安全を案じられ、店のロゴが刻印プリントされたマグカップを無償ただ贈呈プレゼントされてしまう始末。



(店員さんなり他のお客さんには迷惑かけちゃったかな。反省、非常に反省)



(というか、どうしてあたしが付き合う男は、皆がみんな普通ではないのだろう)



 成人して間もない、恐らくではあるもののきっと人生の折返し地点ハーフポイントにも到達していない彼女は、同年代と比べて明らかに交際人数が最多に位置づけられる(勿論単純な人数だけに焦点を絞っての話になるのだが)



 同年代の男子に始まり、様々な特性を持つ異性と交際関係を築いてきた――いや、築く前に相手の残念な欠点が露呈ろていし、積木玩具ジェンガさながらに自らが崩しまくっているのだが。



 最長の交際期間は、わずか2週間にも満たない。



 すなわち、バンドマン・フリーター・サラリーマン・ホームレス・陶芸家とうげいか・建築士・消防士・警察官・医者・言語学者・図書館司書・名誉顧問めいよこもん・企業CEO・劇団員・人気俳優・任侠ヤクザ・他国諜報員スパイ等々。



(思い返せば、思い返すまでも無く、どこからどこまでも普通じゃない。むしろこうして生きていることが不思議なくらい、なのかも)



 比較的おだやかでない職種も往々にして含まれていたそれらとの縁切りの際には、中には昨日のサボテン男のように怒りをあらわにし、沙羅に危害を加えようとする者達も沢山たくさんいた。



 その都度つど、彼女は面倒めんどう億劫おっくうだなどと嘆息たんそくながらに、それらと逃げたり対峙したり対峙すると見せ掛けて逃げたりしつつ、うまくやり過ごしてきたのだ。



(久々に喧嘩けんかっぽいことしたいなぁ。したいんだけどところで、)



 ここで彼女はようやく視線を上に向ける。



 先ほどから気になっていたものの、98人目の元彼氏と別れた原因究明とその他97人の有象無象うぞうむぞうに対する回想に一段落が着いたこともあって、目線を上げてソレに話しかける。



「あんた、何なの?」



 語りかけられたソレは一見少女の様に見えた。



 もっとも――腰から下が存在しておらず、全身が不自然な程に不透明な点を除けばだが。



『やーーーーーーっと気がついてくれたんだね! はじめましてこんにちはこんばんわ! ワタシは自爆霊じばくれい穂”無実ボムみちゃんだよ! 早速だけとおねえちゃん、今からちょっとしたゲームに参加してもらうじぇ!!!』



 脳に直接ひびいてくるあどけない少女の声らしきもの。それはどうやら目の前の正体不明な存在から発せられているらしい。



 らしいのだが、沙羅は欠伸あくびをしながら窓際に身体を向け、惑う。



 なんか超面倒ちょうめんどうなことになってね? 、と。

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