武士がいる

長埜 恵(ながのけい)

1日目 武士がいた

 ドアを開けて家に入ろうとしたら、武士が倒れていた。


 いわゆるちょんまげ頭をこちらに向け、フローリングに突っ伏している。袴をはいた足は投げ出され、見事に私の行く手を阻んでいた。


 近づいてみると、穏やかな寝息が聞こえた。涎まで垂らしている。


 どうやら生きているようだ。


 夏とはいえ、クーラーをガンガンに効かせた部屋では寒いかもしれない。


 武士の情けでタオルケットをかけてやり、頭の下に枕を敷いてやることにする。


 武士は明らかにこいつの方で、情けが欲しいのは明後日までに客先に持っていく資料を作らないといけない私の方なのに。



 明日も仕事だ。


 今日はもう遅いから寝る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る