第5話「認めたくない。」

…………


「真希、」

「…」

「おい、真希!」

「!!」


昼休み、いつものように学校の庭でお弁当を食べていると、ぼーっとするあたしに公ちゃんがそう呼びかけた。

あたしがその声にビックリして公ちゃんを見ると、公ちゃんは、


「どした?お前さっきからずっと上の空だけど」


と、心配そうにあたしを見る。

…公ちゃん…

でもあたしはへらっと笑うと、「何でもないよ」ってごまかした。


「ただ、追試が待ってるから憂鬱なだけ」

「…そう、なん?」


そのあたしの言葉に公ちゃんは首を傾げて、あたしが作ったお弁当をいつものようにおいしそうに食べてくれる。

…そういえば、今頃水野くんも食べてくれてるだろうか。

最近は公ちゃんだけにじゃなくて水野くんにも作ってあげているから、あたしは思わずふとそんなことを考えた。

ちゃんと食べてくれてると…いいな。

そう思うと、思わずまたぼーっとしてしまう。

すると、そんなあたしに公ちゃんが…


「もーらいっ!」

「!」


あたしのお弁当に入っている唐揚げを、そう言って奪っていった。


「あ、それあたしのっ…!」

「ぼーっとしてるからだろ、」


公ちゃんはそう言って悪戯な笑みを浮かべると、その唐揚げを頬張る。

ひっどーい!


「あ、もうお弁当作ってやんないからね」

「え、それは困る」

「じゃあ唐揚げ返して」

「…」


あたしがそう言うと、公ちゃんは少し黙り込んで…


「…しょーがねぇなぁ」


そう呟いて、お弁当の中に入っている唐揚げを箸でつまんだ。

そしてそれをあたしに向けると、キョトン、としているあたしに言う。


「ほら、口開けろ」

「え、いいよ恥ずかしいから!」

「お前がいつもやりたがってることだろ。何を今更、」

「…」


公ちゃんのその言葉に、あたしは恥ずかしいながらも口を開けてそれを待つ。

すると、やがてその唐揚げが公ちゃんによってあたしの口の中にコロン、と転がり込んできた。

普段のあたしだったら、喜ぶのに…何で今は…、


「…ど?」

「我ながらサイコーにウマイ」


全然、嬉しさがないんだろう……。


…………


しばらくお弁当を食べて教室に戻ろうとしたら、そんなあたしを引き留めるようにして公ちゃんが言った。


「真希、」

「…うん?」

「今日俺部活ないから、一緒に帰るぞ」


そう言って、あたしの好きな笑顔でニッコリ笑う。


「…公ちゃんが誘ってくれるの、珍しいね」


あたしが少しびっくりしながらそう言うと、公ちゃんは、


「帰りにゲーセン寄って、ホッケー対決すんべ」


って、今度は悪戯な笑顔で笑った。

…あー、なるほどね。公ちゃん、ホッケー好きだもんね。

あたしはその言葉に「いいよ」って頷きかけたけど、すぐに首を横に振って言った。


「っ…いやいやいや!公ちゃんダメだよ、あたし追試が待ってるもん!さっきもそう言ったじゃん!

公ちゃんは追試ないの!?」


あたしはそう言うと、眉間にシワを寄せて公ちゃんを見遣る。

けど公ちゃんはたまに裏切り者で、実はごく稀に奇跡を起こす男だ。


「あ、俺今回は無事に免れたから、平気」

「は…」

「っつか、真希が追試なのは珍しいな!」


公ちゃんはそう言うと、憎たらしいくらい可笑しそうに笑った。


「…だって、勉強に集中出来なかったんだもん。………水野くんのせいで」

「…ん?水野?」


すると、そんなあたしの言葉に公ちゃんがそう反応してしまう。

呟くような小さな声で言ったつもりが、どうやらはっきりと聞こえていたらしい。


「水野に勉強の邪魔でもさせられたか?」


公ちゃんはそう言ってキョトン、とした顔をするけれど、あたしは「な、何でもないよ!」って誤魔化した。

…何でだろう。

ちょっと、顔が熱い。

そしてあたしが、


「それより、ゲーセンは寄らないけど一緒には帰ろうよ!」


そう言ってさりげなく話を逸らしたら、公ちゃんは「おぉ、じゃあ教室まで迎えに来いや」ってへらっと笑った。

……あたしが迎えに行くんかい。

まぁいいけどね。


「ん、じゃあまた放課後ね」


だけど公ちゃんを迎えに行くことなんてもうすっかり慣れているあたしは、その言葉に頷いて教室に戻ろうとする。


でも…


「なぁ真希」

「!」


その一歩を踏み出した瞬間、公ちゃんが突如あたしの腕を掴んで、問いかけてきた。


「お前さ…水野のこと、ほんとはどう思ってんの?」


そう言って、いつになく真剣な顔をする。


「…どうって?」


そんな公ちゃんにあたしがそう言って首を傾げると、公ちゃんは腕を掴んだまま言った。


「いや、ほら…何かあるだろ。苦手、とか…嫌いとか、好き、とか」

「!!」

「ほんとは、どうなんだよ」


そう言って、あたしの目を真っ直ぐにじっと見つめる。

でも一方のあたしは、そんな公ちゃんの言葉に思わず公ちゃんから目を逸らした。

あたしは、水野くんのことなんて……好きなわけない!


だから、


「や、やだなー!好きとか、そんなわけないじゃん!あたし水野くんはどっちかっていうと苦手だよ、」

「…そっ、か」

「そうだよ。もー、突然何言い出すのかと思ったじゃん」


あたしはいつもの感じでそう言うと、公ちゃんを見れずに下手くそに笑う。

……けど。


「……ね、公ちゃん」

「ん?」

「もし、もしもだよ。もしもあたしが……水野くんのこと、好きって言ったら…寂しい?」


ふいにそんなことが気になって、あたしは公ちゃんに横目で聞いてみた。

すると公ちゃんは…


「そうだな。ちょい寂しいかもな」


そう言って、複雑そうな顔をした。

…え?それって…

そんな思わぬ公ちゃんの言葉に、あたしは想わず目を見開いて公ちゃんに言う。


「っ…ね、それってどういう意味!?まさかっ…」


けど…


「いや、真希が期待してるようなそういう意味じゃねーよ。

ただ、俺は真希を妹みたいに思ってるから…何つーの?ほら、兄貴みたいな立場としてちょっとだけ複雑…みたいなさ」

「…なぁんだ」

「ははっ、期待した?」

「かなりね」

「あほだ、」


公ちゃんはあたしの言葉にそう言うと、可笑しそうに笑う。

今のは、はっきりと公ちゃんに告白を断られたようなものだ。

それなのに……不思議とそこまで、ショックじゃない。

そのことにあたしが独り首を傾げていると、その後ろで公ちゃんが小さな声でぼそっと呟いた。


「……何で水野だよ」

「え、何か言った?」

「何でもない、」

「?」


だけど公ちゃんは何も言ってはくれず、あたしの横を通り過ぎて先にすたすたと教室へと戻って行く。

公ちゃんのことは、確かに好きなはずなのに。

今は不思議なくらいに、あたしの中には「水野くん」がいるんだ───…。


…………


ある日の放課後。

オレンジ色の陽ざしが射しこむ図書室で、あたしは独り勉強と格闘する。

一番苦手な数学の教科書を開いて暗号のような問題を解こうとするけれど、

さっきから右手に持っているシャーペンが、可笑しなくらいにピクリとも動かない。

…ってか、勉強に全く集中出来ない。わからない。


「はぁ~…ダメだ」


そしてあたしは独りそう呟いて盛大なため息を吐くと、大きな机の上にうなだれた。

そもそも普通のテストで赤点とるくらいだもん、追試なんかで点数があがるわけない。

第一、水野くんから言われた昨日の言葉で未だにショック受けてるっていうのに。


…って、ちょっと待て。

ショック?

いやいやいや…ショックじゃない。衝撃を受けただけ、うん。

あたしはそう思うと、再び教科書に載っている問題と向き合った。


すると、その時…


「?」


ふいにあたしの携帯に、電話がかかってきた。

…水野くんだ。

一瞬、出るかどうか迷ったけど…出ない理由もないから、仕方なくそれに出た。


「…もしもし?」


そしてあたしが電話に出ると、電話の向こうで水野くんが言う。


「真希、今まだ学校にいる?」

「…」


…ふいに耳元で呼ばれた名前に、思わずドキッとしてしまう。

…ってか、何でそんなこと聞くんだ?

そう思いながらも、あたしは右手でシャーペンを回しながら「いるよ」って答えた。

そして、それがどうしたの?って聞こうとしたら、水野くんが言った。


「何処にいんの?今からそっち行く、」

「えっ、何で…!」

「何でも何も、一緒に暮らしてんだから一緒に帰りゃいいじゃん」

「!」


水野くんはそう言うと、電話越しにあたしの返事を待つ。

…い、一緒に帰るって…。

今まではそんなこと言わなかったのに。

その言葉に、あたしは不覚にも更にドキドキしてしまう。

でもすぐに歩美の存在を思い出して、言った。


「…み、水野くんには歩美がいるじゃん」


だけど水野くんはあたしのそんな言葉に、不機嫌そうに言う。


「は?アイツは関係ない。今日は他の友達と一緒に帰った」

「…あ、そう」

「で?何処にいんの」


その問いかけに、あたしは少しだけ黙り込むと…呟くように言った。


「…図書室にいる」


そしてあたしがそう言えば、水野君は、


「じゃあそっち行くから、待ってて」


と、それだけを言って電話を切る。

…水野くんに顔を合わせづらくて、ここで勉強をしてたのにな。

これじゃあ何処にいたって同じだ。

あたしはそう思うと、水野くんが図書室に来る前に教科書等の勉強道具を片付け出した。


しかし…


「聞~ちゃった♪」

「!?」


ふいにその時、図書室の奥からそんな女子生徒の声が聞こえて来た。

その声に慌ててそこを見遣ると…

そこには、不気味な笑みを浮かべてあたしを見ている、同じクラスの女子達が…。

その姿に、あたしは一瞬にして嫌な予感がした。


「な、なに…!?」


思わぬ女子達の登場に、あたしは思わずその場から少し後退る。

でもその女子達はあたしに近づいてくると、その笑みを崩さずに言った。


「ねぇ、瀬川さん。今電話で誰と話してたの?」

「!…っ、」

「誰なのかなー?なんか、“水野くん”って名前が聞こえた気がしたけど」


そしてそう言うと、顔を強張らせるあたしに言葉を続ける。


「隠したって無駄だよ。ウチら、この前からずっとわかってたんだから」

「…?」

「アンタ、歩美のこと裏切ってるでしょ」

「!?」


女子達はそう言って険しい表情をすると、目の前に立つあたしを真っ直ぐに睨んだ。


でも…

…い、いや、いきなり何言い出すの?

あたしが歩美を裏切ってる?

いや、そんなまさか…。

言ってる意味がわからない。


しかしそう言って否定しようとしたら、それを遮るように一人の女子がブレザーのポケットから携帯を取り出して、その画面をあたしに見せた。

その画面に映っているのは、一枚の画像。


しかも…、


「…!?」

「嘘吐いても無駄だからね。証拠だってあるんだよ」


あたしと水野くんが、二人で同じ家に入って行く画像だった。


は…何これ。

いつの間にこんなの撮られてたわけ!?

あたしはその画像を見ると、


「っ…消してよ!」


思わずそう言ってその携帯を奪い取ろうとするけれど、それをあっけなくすかされてしまう。


「“消して”ってことは、やっぱり何かやましいことがあるんだ?」

「!」

「ねぇ瀬川さん…これ、歩美に見せたらどうなるかな?」


そしてその女子はそう言うと、持っている携帯を遊ばせながらあたしの言葉を待つ。

あの画像を…歩美が見たら…?

…考えるだけで、全部が怖くなる。

ただでさえ歩美は元カレに浮気をされてフラれたんだ。

こんな画像見たら、いくら相手があたしでも不安になるに決まってる。

あたしはそう思うと、画像を歩美には見せないでほしいことを言おうとした。


…しかし、その時―――…。


「!」


ふいに、図書室のドアが静かに開いて…


「…瀬川さん?」


そこからタイミング悪く、水野くんが顔を出した。


「み、水野くん…」


水野くんの登場に、あたしは顔を青ざめて水野くんを見遣る。

そしてその時同時に水野くんと目が合って、慌てて目を逸らしたらそこにいる女子がギロ、とあたしを睨んだ。


「!!」


…どうすればいいの。

突然のことに、頭の中が真っ白になる。

目を泳がせて、意味もなく時計に目を遣る。

時間は進むけど、その場の雰囲気は全然進んでくれなくて。

またその場から後退るけど、逃げらんない。


すると、その時…ふいに何かを悟ったらしい水野くんが、あたしに言った。


「何図書室で暢気に勉強なんかしてるの。どーせ伸びないクセに」

「!…え」

「もういいから、生物室に来て。掃除手伝ってよ」


水野くんはそう言うと、ずかずかと図書室に入ってきて他の女子達に構わずにあたしを連れて半ば乱暴に図書室を後にしていく。

…その手の力もわざとなのか凄く乱雑で。…少し痛い。


「ちょ、水野くん待っ…!」

「…」


待ってよ。

そしてそう言おうとしたら、図書室からだいぶ離れた踊場で、水野くんが突如歩く足を止めた。

その背中に疑問を抱いていたら水野くんがあたしの方を振り向いて、

今まで見たことのないような…焦っているような表情であたしに言う。


「ッ、大丈夫!?真希、怪我とかない!?」


そう言われ、両肩を掴まれる。

その言動に不覚にもドキッとするけれど…

…ちょっと、痛い。

だけどそれよりも、今は目の前の水野くんの方が気になって…。


「だ、大丈夫…だけど、」


掴まれている肩に神経を集中させながら、あたしは水野くんの目を見れずに言った。


「…何か、心配しすぎじゃない?」

「!」

「肩、痛いよ」

「!…あ、ごめん」


水野くんはあたしの言葉にそう言うと、肩からその手を離す。

……だけど何か、この感じに違和感を感じてしまう。

肩から手が離れてしまった、矛盾だらけの寂しさ。

妙にドキドキしているあたしの心臓。


おさまれ

おさまって…

そしてあたしが独り心の中でそう言い聞かせていると、水野くんが言った。


「…っつか、真希。さっきの…」

「?」

「雰囲気からして…もしかして、」


水野くんはそう言いながらゆっくりあたしに目を合わせると、心配そうな表情で口を動かす。


「いじ、」


だけどそれは聞きたくなくて、認めたくないあたしは水野くんの言おうとする言葉を遮った。


「そんなんじゃないよ!」

「!」

「や、やだなぁ水野くん何言ってるの。さっきのアレは勉強見てもらってただけだってば、」

「…え」

「もしかして、嫌な雰囲気に見えた?いや、ないない。それにあたし、そういうキャラじゃないし」

「…」

「だから心配しなくていいよ」


あたしはそう言うと、心配したままの水野くんに向けて引きつった笑顔を向ける。

少し焦っているせいか、心なしか口数が多くなって早口になってしまう。

…心配されたくない。

認めたくないから、平気だって思ってほしい。


でも…


「…!?」


あたしがそう思っていたら、ふいに水野くんが更に近づいてきた。

そして、そのことに疑問を抱く隙もなく…あたしは、他に誰もいない踊場で、水野くんに抱きしめられた。

あまりにも優しく抱きしめられるから、不覚にもドキドキしてしまう。

いつもと違う水野くんに、あたしの心臓はもう壊れそうで…。


「み、水野くんっ…」


ダメだよ。

そう言いかけたけど、この感じが何故か心地よくて、その言葉を飲み込んだ。

それこそ歩美を裏切ってしまう。

悲しませてしまう。

わかってるのに…。

だけどあたしがそう思っていると、水野くんが言った。


「……何で、」

「?」

「何で真希はそんな、すぐに強がんの」

「…え」

「お願いだから我慢すんなよ。誰かに傷つけられたら、俺が絶対助けてやるから」

「!」


水野くんはあたしの耳元でそう言うと、ふいに抱きしめている腕をほどいて至近距離であたしを見遣る。

その視線と言葉に、ドキッとしてしまう。

顔が赤いの、バレたくない。

あたしはそう思って下を向くけど……でも、水野くんのその言葉に、あたしはふとこの前のことを思い出した。


……テスト期間中に水野くんの部屋で見つけた、“瀬川真希”という名前が書かれた教科書の卑劣な言葉。

水野くんの幼なじみはきっと、イジメに遭っていて…


「……水野くん、は…」

「…?」


もしかしたら今、またあたしをその幼なじみと重ねて見ているのかもしれない。

あたしはそれに気がつくと、水野くんに言った。


「あたしのこと…心配しちゃダメだよ」


そう言って、水野くんから少し離れる。


「…は、」


あたしのそんな言葉に、水野くんはどこか納得がいかないような顔をしているけど…それでもいい。

だってあたしは、気づいちゃいけない気持ちに気づいてしまったから。


「…何でだよ。意味がわからない、」


そして水野くんはそう言うと、


「俺が誰を心配しようと、俺の勝手だろ」


そう言って、真剣な眼差しであたしを見つめる。

だけどその言葉に、あたしは少しだけ首を横に振って…消え入りそうな声で、言った。


「……水野くんは、歩美の彼氏でしょ?

あたしは、まだ彼氏じゃないけどちゃんと公ちゃんに助けてもらうから」

「!!」

「 だから、水野くんは歩美の傍にいてあげなよ」


そう言うと、水野くんからすぐに目を背けて…「先帰るね」と、逃げるようにその場を後にする。


「っ…真希!」


すると、そんなあたしを水野くんが後ろから呼び止めるけど…今のあたしには、振り向く余裕なんてない。

バタバタと階段をかけ下りると、あたしは更に熱くなっていく顔を抑えながら、公ちゃんがいる体育館に走った。


…どうしよう…

どうしようっ…

いや…でも本当は、なんとなく気づいてた。

だけど気づかないフリをしていた。

だってそんなの認めたくないし、何より悲しすぎるから。

そしてあたしはようやく体育館に到着すると、少し息切れをしながら心の中で強く想った。


……あたしはきっと、水野くんのことが好き。

水野くんに、惚れてしまったんだ。


……しかしその一方の図書室で、実は歩美も隠れていたことをあたしは知るよしもない。


「…歩美」

「…」

「だから、言ったでしょ?」


そしてさっきの女子生徒が本棚の陰に隠れている歩美にそう言うと、軽くため息を吐いた。

だけど歩美は、床にしゃがんだまま何も言わない。


「さっき水野くん、真希のこと助けてたね。

…まぁ、デキてるっていう感じではなかったけど」

「バーカ。そう見せてんだよ。バレるといろいろややこしくなるだろ」

「でもさ、歩美と水野くんが付き合いだしたのってそもそも水野くんが歩美に告ったからでしょ?」

「だからって…もしかしたら、水野くんが心変わりしたのかもよ」


女子達は歩美が近くにいるにもかかわらずにそう言って、


「…歩美、これからどうするつもり?」


落ち込んで黙ったままの歩美に、そう問いかけた。

すると、歩美はようやくその場から立ち上がって言う。


「…っ…あたし、負けないから」

「え、」

「何があっても絶対、真希に優大を渡さないっ…」


そう言って、大粒の涙を床に零した。

……そんな悲しい図書室を、綺麗な夕焼けがオレンジ色に染めていく。


もうすぐ、夏休みだ。















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