マンホールの蓋の下(New花金Day)※注意!
マンホールの蓋が丸いのは、落ちないから、らしい。
四角いと、くるりと辺が回って長さが合わず、蓋が落下する。でも円はどこも同じ直径だ。
「でも、マンホールの蓋が落ちなくても、うっかり踏み外した人間は落ちるよねぇ」
前を歩く華が振り向いた。長い髪の毛と、プリーツのミニスカートが、くるくると風車のように回る。上から桜が降ってきて、マンホールの蓋の上は、まるでスポットライトのよう。
細い腕。細い足。細い腰。
確かに彼女なら、そのままマンホールの蓋の下へ落ちてしまうだろう。
いいなぁ。私も、こんな身体に生まれたかった。
私は身体が丸いから、きっと底へは落ちない。この太い太ももが、お腹周りが、肩幅が、私が落下する前に、マンホールの円周に引っかかるのだろう。
華。私の親友。私の憧れ。私のコンプレックス。私の、……。
『あんたみたいなデブを引き立て役にしてるなんて、華も性格悪いよね』
クラスメイトの言葉が脳裏に響く。
私はそれ以上、言語化するのを辞めた。こんな想い、バレてしまったら、きっと嫌われる。嫌われたくない。嫌われる自分を想像したくない。
ーー私、本当に嫌なやつだ……。
「ね、
その名前の通り、花のように彼女は笑う。
私は、雨に濡れ、踏みつけられた桜の絨毯を思い出す。
マンホールの下水に、桜の花びらが浮かぶことはあるのだろうか。
■
あのね、円。
私、あなたが羨ましかった。
あなたの腕は、何でも抱えられる。前、男子が怪我をして保健室へ運ぶ時の円、カッコよかった。力仕事の時は、どんな男子より頼りがいがあったね。
あなたの脚は、ゆるぎない。どれだけ立ち仕事をしても、泣き言ひとつも漏らさず、涼しい顔で立っていたね。あなたの歩き方や姿勢は、真っ直ぐで美しかった。
抱きしめてくれるあなたの身体は、柔らかかった。私、そんなふうに抱きしめられてこなかった。きっと、素敵な家庭で、大切にされてたんだね。
誰もそんなこと口にしなかったね。
ごめんね。
私、言わなかったことを後悔してる。きっと円は困るだろうって、この恋心を隠していた。でも誰にもとられたくなかったの。あなたの魅力に気づいて欲しくなかった。囲まれて欲しくなかった。
円みたいに、人のこと考えられる人間になりたかったのにな。
ねえ円。私、落とすつもりで、落ちちゃった。
あなたのような身体だったら、あなたを自殺に追い込んだこの男を、簡単にマンホールの蓋の下に突き落とすことが出来たかな。
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