お断りの極意。

 No.1くん、結果報告。

 「ご紹介」から二日以内に、双方が相談所に連絡した。私はお断りしたのだが、彼の方はもう少し会ってみたいと言っていたらしい。

 この場合、私は仲人おばさんから尋問を受けることになる。いったい、何がダメだったのか。そして、すぐに決めてしまわないで数回会ってみた方がいいとか、いろいろ説得を試みられる。きっと、こんなにホイホイ気前よく断っていったら、あっという間に相談所の登録者のストックが尽きてしまうという事情もあるのだろうと想像する。


 そして、こちらがおばさんの説得に応じなかった場合、じゃあ、どうだったらよかったのか、これを踏まえて今後はどうしたいのかなどなど、一応、親身に要望を聞き取ってくれる。


 ちなみに、私のお断りの理由は、相手が専業主婦を望んでいるらしいということと、年下で頼りない感じがした、相性が合わない気がする、など。間違っても、好きになる要素を感じられなかったとは言わず、うまく取り繕ったつもりだ。なんとなくだけど、相談所であまり好きだのキライだのといった感覚的なことを押し出さない方がいいと思ったからだ。あくまで、条件によるドライな判断。これがわかりやすくて、話が早い。


 おばさんは、No.1くんが公務員であることを強調してきたが、私にとって公務員は「面白くなさそうな人」の代名詞でしかなく、あまり魅力を感じるところではなかった。昔、官庁で臨時職員のアルバイトをした時のトラウマかもしれない。


 記念すべき第一号のオトコであるNo.1くんのページには、考察を加えておいた。

「【考察】

・相談所で選んだ最初の人だったせいか、勝手がわからないのもあって、多少手探り状態で終わってしまった。

・自分スタイルのようなものが合わなそう。価値観が違って、ギャップを埋めていけないと思ってしまった。実際どうなのか、見極める前に終了させてしまった。

・ゆっくり見極める時間がないと思って先を急いでしまうのは反省すべき?」


 それから数週間後、今度は相談所から電話がかかってきた。

「男性から、お申し込みがあって、お電話しました」

 おばさんは弾んだ声で言った。

「お年はちょっと上ですけど、真面目なとてもいい方ですよ。お仕事もしっかりしたところだし。どうします? もしね、お時間あったら、ファイル見にきてもらった方がいいと思うけど、近々来られますか?」


 あちらからの申し込みで会うというパターンを経験してみるのもいいかもしれない。どうせ、婚活的には今はヒマなのだ。ファイルを見るだけなら、仕事の合い間に行けるかもしれない。

「わかりました。今週中に伺いますね。よろしくお願いします。ありがとうございます」


 二日後の昼過ぎ、ランチを終えてからファイルを見に行った。

 設備関係の仕事をしてる十三歳も年上の男性だった。写真を見ると、「親戚のおじさん」みたいなイメージ。


「あのぅ、ずいぶん年上ですけど、こんな下の私でもいいってことなんでしょうか。私、この方から見たら全然子供っぽいですし、釣り合わない気が……」

「希望して申し込んできてるわけですからね、あなたのファイルを見て気に入ったってことだと思いますよ。実際に会ってお話してみたら、また、印象が違いますからね、まず、とにかく会ってみるってことも大事ですよ」


 おばさんは、婚活かくあるべし、という感じで諭してくる。確かに、机上であれこれこね回していても始まらない。なにしろ、婚活的にはこれ以外に今すべきこともないわけだし……外食するつもりで会うだけ会ってみるか。


 次の週の平日の夜、お互いの仕事が終わって17時半に相談所で顔合わせということになった。

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