オトコの海を泳ぎきれ〜実録・婚活ノート〜

たまきみさえ

 

まずは結婚相談所から

乗り遅れて行き遅れ。

「自治体がやってる安いところがあるよ」


 ある日、友人の由佳子が唐突に言った。

 入会金が三万円、年会費が一万円だという、すなわち「結婚相談所」は、私と同じフリーライターをしている由佳子が最近書いた記事でお世話になった取材先だと言う。


 申し遅れました、私こと北沢真奈絵は、三十八歳のフリーライター。バリバリの独り身、「行き遅れ」だ。


 もっと早く乗り出せばよかったものを、いろいろ事情もあり、結婚は自分に関係ないものと積極的に婚活してこなかった。いわば「自然に任せる」「いいご縁があれば」というスタンスで、気づけばこんなトシになっていた。


 依然として結婚にあまり現実味を感じられずにはいるのだけど、ある時ふと「この先ずっと一人でいる自分」を想像してみたら、猛烈に「それはイヤだ!」と思った。ものごとは、時々逆方向から見てみないといけない。でなければ、危うく本当に取り返しのつかないところまで行っちゃってたかもしれないのだ。


 と言っても、すでに「適齢期」なんかは取り返せないところに来てしまっている。

 そういうことだ。取り返せないものがまだ少ないうちに、なんとかせねば。「傷はまだ浅いぞー」と自分を鼓舞し、家族友人にはもちろん「婚活開始宣言」をし、さらには、かなり薄いコネ——たとえば、一度仕事しただけの取引先の人など——も無理やりに援軍に引き入れ、スキあらば「いい人いたら、紹介してくださいね」とキラースマイルを繰り出す。


 そうして、かれこれ数カ月が過ぎている。


 思えば「いいご縁があれば活動」は、もっと前からそれとなくはしていた。向こうから「紹介したい人がいる」と言われれば喜んで会っていたし、それがダメだった場合には「これにこりず、またお願いします」と一応言う。

 目の前にたまたま好物が現れれば、ちゃんと意識する。一見、脈がなさそうでも、それとなく食事に誘ってみるくらいはする。共通の知り合いがいれば、その好物くんがなぜ独身なのかなど探りも入れる。


 つまり、まったく何もしてないわけじゃなかった。が、それくらいじゃ、よほどのラッキーか「運命的なご縁」がなければなかなか実を結ばない。トシがいけばいくほど、恋愛の勢いで結婚するという「勢い」がなくなるし、女の(加齢による体重増加だけじゃなく)「存在そのもの」が男には重荷に感じられるようになるらしい。一刻も猶予ならない境遇になればなるほど、逆に縁はどんどん遠のいていくのだ。


 そういう意味では、完全に出遅れている。

 が、いつだって今日が一番若いし、今日が一番早い。明日では一日分遅くなるのだから。待っている余裕はもはやない。自分から出かけて行くのだ。ビジネス風に言うと「飛び込み営業」も辞さぬ構えで。


 そして、その手段の一つが「結婚相談所」というわけだ。


 大げさに言ってるけど、要は普通の婚活コースに乗るだけの話。

 アラフォー突入を機に、ついに私もオトコという名の魚たちが泳ぐ大海原へと漕ぎ出したのだった。

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