第3話理性

 そして、なんだかんだで三カ月が過ぎて、武器と軽装の鎧を揃える事が出来た。

 とっくにゴブリンも卒業していて、階層も地下六階層と結構な速度で深度を下げている。

 

 かなり好調と言って良いのだが、最近軽視できない問題が起こり始めていた。

 今現在、隣で寝息を立てる彼女の髪は結構伸びて来ていて、もうどこからどう見ても女の子なのだ。

 いや、美少女といっても過言では無い。


 そう、問題と言うのはあれだ。理性が持たないのだ。

 正直俺は理性が弱い。なのでイケないと思いつつも、寝ている彼女に悪戯するのが日課になって居る。

 これは絶対にいつか気が付かれると、分かっているのだが止められないのである。


 その悪戯とは……



    ♢♦♢


 ……今日もアレクは小声の呼びかけで私を起こすポーズを取る。

 あれは二週間ほど前でしょうか……思い起こせばあの時に目が覚めている事を伝えるべきでした。

 だけど、あの一言で私は硬直してしまいました。

 今日も言ってくれるのではないかと、しばらく起きていない振りを続けてしまいます。


「フラン……まだ寝てるんだよな? フラン?」


 彼は小声でまだ寝ている事を確認すると、髪を撫で、唇を弄り、お腹周りを軽くさすってみたりと、別に起きている時に触っても構わない場所に触れて来ます。

 薄目を空けて彼の表情を窺うと、申し訳なさそうな表情でありながらも興奮している。


 正直、自分でも意外ではあるのですが、嫌では無い様です。

 だからそんなに怖がらなくて良いのに。と少し笑いそうになる。

 しかし、ただ好き勝手にされるのも癪なので、いつもの様に私はアクションを起こす。


「んっ、んんっ?」


 そう軽く唸り声を上げるだけで彼はビクッと身を硬直させて固まります。

 正直、楽しいです。


「お、起きたのか?」

「んふ~、スー……スー……」

 と、笑いそうになるのを堪えて、もう少し楽しむ為に寝ていますアピールを続けた。


 ですが、可笑しいですね。アレクは胸が大好きなはずなのに、まだ一度も触って来ません。

 もしかしたら、あれは私がショックを受けない様に気を使って触りたそうにしていたのでしょうか?

 いえ、もしそうならこの様に色々と触ってくる事も無いはず。

 となると、あの約束があるから我慢しているのでしょうか。


 好きなだけ触らせてあげると言うあの約束……

 もし、そうであれば、私の事を大切に思ってくれていて、そこだけはと思っているのでしょうか?


 あっ、また行動に移すようです。え? いや、お尻はやり過ぎじゃ無い?

 彼の手が太股からどんどん上に上がってきた。ど、どうしましょう。

 しかし、どちらともいえないお股に近い場所で手が止まる。

 ま、待って下さい。お股の方はダメですよ? 飛び起きちゃいますからね?

 私はドキドキの最高潮で少し身を強張らせる。 


「はぁ……寝ている女の子にこんなことして最低だよな……でも我慢できないし。これ以上暴走する前に俺はここを出て行った方がいいかもな……でも、一緒に居たいんだよなぁ」


 はぁ? 何でそうなるんですか!?

 と、私は状況を忘れて彼の手を掴み目を見開きました。

 そして、言いました。何を言っているのかと、責任を取れと。


 そう言ってしまった後に、恥ずかしさから怒って居るようなそぶりを見せてしまった。

 その事を死ぬほど後悔してしまう事も知らずに……



 ♢♦♢



 や、ヤバイヤバイヤバイ! と、とうとうばれてしまった。オワタ。

 俺は、声も出せずに硬直し、彼女の下す審判を待った。

 そして、その時はすぐに訪れた。


「ア……アレク、何言ってんだよ……こんな事をした責任を取るべきだろ……」


 ……そうだよな。こんなことして置いて、一緒に居たいと言われてもな……


「ご、ごめん。分かったよ……」


 彼女を傷つけてしまった。そんな罪悪感からそれ以上の言葉は出ず、家を出てその場から逃げ出す様に走り出した。 

 やっちまった……やっちまった……


 俺は、それから謝罪する方法を考えた。

 そして、答えを出すのに数秒の時間も掛からなかった。

 許して貰えるかは分からないが、彼女を綺麗な体に戻す為に行動しよう。

 今俺は、これから自分のすべてを使おうと誓う。


 俺が出来る事はダンジョンに籠って金を稼ぐ事しか出来ない。

 それは確定事項なのだが、彼女と同じ狩場に行くわけにもいかない。

 だから町を変える事にした。


 俺は隣町に移動したと同時にギルドに赴き、まずはフルヒールを使える人間に依頼する場合、いくらかかるのかを聞いた。

 前の町ではいないから分からないと言われ、フランも今はその事は良いと言った事でまだ何一つ知らないのだ。

 そして、帰って来た言葉は予想の範疇である金額であった。


「そうですね。まず、受けて下さるかは分からない事を念頭に聞いて下さい。相場は金貨で百枚。それも連れて行った場合での金額です。確実にその場でと思うのであれば、金貨百五十枚は用意した方が良いでしょう」


 受付の人曰く、上級ヒーラーは国が強制的に囲っていて使用料の大半を国に収める代わりに高位貴族ともいえる権力を与えられている。そのせいで値引き等は一切受け付けておらず、別で包むくらいの気持ちで行かないと渋られる場合もあるそうだ。

 主要都市には上級ヒーラーは配属されているらしい。王都なら確実だと言っていた。ちなみにこの町にもいない。


 今の俺なら本気で狩れば一日金貨一枚は余裕で稼げる。

 死ぬ危険を覚悟で階層を下げれば無理すれば金貨二枚いけるだろうか?

 いや、そんな事より取り合えず行こう。時間が勿体ない。


 考える事を止め、黙って居たせいで訝し気な視線を向けていた受付嬢にダンジョンの場所を聞いて、向かう。


「遠すぎるな」


 と、思わず呟いてしまう程に遠い。

 三時間ほどかけて漸く見えて来たのだ。

 なるほど。それで受付嬢はダンジョン通いなら助かると言っていたのか。

 長期スパンではあるが、ダンジョンが生き死にする以上は仕方が無い事ではある。目的がある俺としては非常に痛い問題だ。

 これは対策をせねばならない事だと頭に入れてダンジョンに入る。


 そして、俺はダンジョンの階層を降りて行くたびに苛立ちに襲われた。

 下がれど下がれど、ランクの上がったゴブリンしか出ないのだ。

 たとえ、厄介なメイジゴブリンであろうともせいぜい魔石は二百円程度、今まで言っていたダンジョンと比べると同階層で半額以下だ。

 現在地下八階層。ゴブリンジェネラルが闊歩するこの階層で正直安全を期すなら限界ラインだ。

 こんな事ならギルドでもうちょっと詳しく聞いて置くべきだった。

 何が丁度いい狩場になると思いますだ。適当な案内をしてくれる。

 せめて次の階層は他の魔物であってくれ、と降りる階段を探しながら狩りを続けた。


 魔物の強さが上がって来た事と人が居ないからか魔物の数が多いせいで下の階層への階段を探すのに時間が掛かってしまったが、漸く階段を見つけた時に笑みを浮かべた。

 魔物の種類が変わってくれたのだ。しかもそれだけじゃない。この階層の魔物はオークだったのだ。

 俺は、階段降りる前から見えている二体のオークに気が付かれる前に身を隠し思考する。

 魔石の値段は銀貨一枚だったと思う。そこそこ高い。そして何より食用の魔物だと言う事だ。火を起こせればその場で焼いて食える。手ぶらで長時間狩る事が可能だ。

 とは言え、普通に倒したら魔石に変わるだけなので外の物を食わせると言うちょっとした手順が必要になるが。


 一日二百匹で金貨二枚。まともなペースで狩りを出来れば十時間から十二時間程度で達成できるだろう。


「っと、笑ってる場合じゃねぇな。やった事無い魔物だし普通に倒せるのか試してみないと」


 二体程度なら丁度いいと階段を駆け下り、ある程度近くなったところで飛び降りながら一体を切り裂いた。

 勢いあまって転がってしまったが、もう一体のオークは漸くこちらに気が付いた様だ。

 即座に身を起こして突撃する。

 横薙ぎに振るって来た大きな棍棒を回避しようと急停止して後ろに飛んだが、肩当に掠る様にぶつかり吹き飛ばされて再び転がった。


「これは厳しいな。でもこの階層でやるしかない。大丈夫、しっかり入れば一撃でやれる事は分かってるんだから」


 打撃を受けた肩は痛いが問題無く動く。

 次は馬鹿みたいに突っ込むのは止めて攻撃を躱す事に集中してみるか。


 足を動かし回り込む様に走り、僅かに間合いに入った所で敵の動作に集中する。

 今度は上段から振り下ろす様だ。その攻撃を斜め前方に踏み込み交わしながらお返しとばかりに横薙ぎに剣を振るい腹を深く切り裂いた。

 だが、それでも魔石に変わらない。

 タフ過ぎるだろ。と心の内で突っ込みを入れつつも再度様子を見ながら間合いを詰めた。

 だが、その必要は無かった様だ。オークは膝をつき、少しにらみ合うと魔石へと変わった。


「逆にあそこまで深く掻っ捌いて良く生きてたもんだ」


 思わずそうつぶやいてしまいながらも次へと進む。

 それからは攻撃を喰らう事は無くなった。

 馬鹿みたいに突っ込んだりしなければ、大振りの攻撃は避けやすく、今の俺であっても多少は危険が付きまとう程度のものだった。

 そう考えられる程に数を倒した今でもまだ何も考えずにぼぉっとしながら狩りする事は出来ない。

 取りあえずはそれが出来る様にならないとな。と、独り言ちる。

 これから数カ月ここで生活するんだし、それくらい余裕にならないと困る。

 目的を達成せねばならないのだ。命は賭けるがその上で生き残らねば意味が無いのだから。


 そして、狩りを終えたのが次の日の早朝、長時間狩るのは慣れていたが、最初からちょっと飛ばし過ぎたと反省しつつ、町へと帰還した。

 町に着く頃には朝食にはちょっと遅いくらいの時間になって居た。

 そう言えば何も食べていないなと食堂へ寄って食事を済ませてギルドに行った。

 受付に居た昨日の女性に声をかける。


「すみませんが、昨日場所を教えて貰ったダンジョンの地下九階と十階の魔物は何が出るのか教えて貰えませんか?」


 開口一番そう訊ねた。そして、戻って来た返答を聞いて失敗した事に気が付く。


「まずは低階層で力を付けないと危険ですよ。そこで力が着いたのであれば、一度隣町に赴く事をお勧めします。あそこはゴブリンの階層ばかりですから」


 俺は、狩って来たオークの魔石が入った大きな麻袋をゴンとカウンターに置き、再度問いかける。


「昨日あれから八階層のオークで長時間狩りをして来ました。その下も美味しい狩場ならこれからの視野に入れたいので、お願いします」


 受付嬢は「ちょっと失礼します」と中身を確認して訝し気な表情をこちらに向ける。


「確かに、オークの魔石の大きさですね。ですが、昨日あれからでこれ全部はどう考えても……」

「そこは問題になるのですか? 取り合えずこれを持っているだけの力はあると言いたかったのですが」


 そう言葉を返すと受付嬢は「そ、そうですね。失礼しました」と頭を下げて説明をしてくれたのだが……

 九階はゴブリンジェネラルと稀にゴブリンキングが居るらしい。

 キングだけは他のゴブリンと比べてかなり強く、オークと比べても強いので行くのであればオークを瞬殺出来るくらいになるまでは止めておいた方が良いらしい。

 十階層はリザードマンと言う魔物で魔石の値段も高いが、うろこが固く、剣であれば両手剣などの太めの剣でないと折れる可能性が高いと言われた。

 要するにオークをやるのが今の所は最上という結論になる。


 受付嬢にお礼を言って魔石の換金額を受け取りギルドを出た。

 次に立ち寄るのは魔道具のお店だ。

 火を起こす道具と水魔法の魔法陣が埋め込まれた魔道具を買った。

 これで魔力を込めるだけで、火と水は確保された。


 次に訪れたのは薬草から食材まで幅広くやっているお店だ。

 一応念のためにポーションを二個と調味料を購入した。

 

 そしてこれで最後だと商会に訪れた。

 ここに来たのは荷車を買いたかったからだ。

 移動時間を考えるとダンジョン付近で安全そうな場所を見つけて寝泊まりした方が良い。

 それに流石に長期で籠るとなると、魔石だけでもかなりの重量になる。

 これも後を考えればプラスに向くのは間違いないので購入を決めている。

 中古で良いから手ごろなのは無いかと聞くと、気の良いおじさんで商人仲間に聞いて回ってくれて売り手はすぐに見つかった。

 ぼろいから大銀貨六枚で良いよと言って貰えてそのまま購入し、ついでに槍などを保管する細長い木箱も購入した。

 その時に商人の人に長旅をする予定ならこっちも必須だぜと毛皮でできた寝具も売りつけられた。

 何だかんだで昨日の稼ぎの大半を失ってしまったが、これでもう問題は無いだろうとダンジョンに向かった。


 着いた先でまずした事は手押し車を森に隠して、その近場で視界が悪い草の中に穴を掘り、細長い木箱を埋めて上からは藁をかけて隠した。

 ここは魔石の保管庫であり、寝室でもある場所にするつもりだ。

 これでもまだ不安はあるが、大量の魔石を抱えながら戦う訳にもいかないし、この場所なら人に見つかる事は無いだろう。

 そう考えて一息つくと、立ちくらみに襲われた。

 あれ、どうしたんだ?

 と、疑問に思ってから今更気が付いた。もう、丸一日以上寝て無い事を。

 相当気が張って居たんだな。

 気負い過ぎて体を壊したらその分遅れてしまう。

 折角準備が整った訳だが、今はゆっくりと寝る事にしよう。

 上に掛けた藁が寄らない様にふたを開けて木箱の中にそっともぐりこんだ。



 目が覚めるとそこは真っ暗な空間だった。

 身じろぎ出来ない事に恐怖を感じたが、意識が覚醒するとその恐怖は払拭された。


「そりゃそうだよ。あービックリした……って、そうか。フランはもう起きても隣に居ないのか」


 その事実が狩りに行かねばならないと背中を押す。

 そして、そんな面持ちのせいでまたフラフラになるまで狩りをしてしまった。

 だが、今日は町まで戻る必要が無い。


 森の中にはいり、オークの肉をたらふく食って寝床に着く。

 そして、次の日も同じ感情が背中を押した。


 その繰り返しの生活を送った。


 起きて狩りして飯食って寝る。ひたすらに……





 とうとう木箱に魔石が入らなくなって来た。

 これ以上入れると寝床が無くなる。

 仕方が無いので木箱をそのまま荷車に積み、一度町に帰る事にした。


 相変わらず遠いな。重い荷車を押してるからか、相当時間が掛かった気がする。

 そう言えば、不規則な生活をしたから何日過ぎているのかも分からないな。昼も夜も無い生活をしていた為に、狩りを終えて数時間かけて戻って来たのにまだ夕方にもなって無い。

 おかげで睡魔に襲われているが、慣れて来ているせいか気にせず足を進めた。


 他に比べる狩場も無いのだ。時間効率は知りたい所だけど、知ったところで意味は無い。

 そう考えながら、やっと着いたギルドへ、木箱を持ったまま入って行く。

 木箱をカウンターの上に置いていつもの受付嬢に頼む。


「魔石が入ってるので、換金してください」

「えっと、どれだけあるのか分かりませんが、もう少し小さい入れ物に入れて来て貰えますか?」


 と言いながらも受付嬢はのぞき込む様に少し木箱の蓋を開けた。

 しばしの沈黙の後、彼女は無言で奥に引っ込んでいった。

 なんだ? ああ、流石に量が多すぎたから応援を呼びに行ったのかな。


 そう考えて居ると、奥から厳ついおっさんが出て来た。

 何故、魔石の換金を頼んだだけなのに厳ついおっさんが出てくるんだ?

 まさか高額だから目をつけられた? いやいや、それならギルドの外に出てからだろう。

 と、長時間の狩りと移動の後で回らない頭でなんだなんだと考えて居ると、向こうから声をかけられた。

 

「俺はギルドマスターのドランってんだけどよ、あんちゃんがそうかい? 最低ランクの冒険者がオークの魔石をあり得ない程に持ち込んで来たって奴は」

「何日もため込んだので。ランクは討伐しかやって無いので」


 虚ろな目で問いかけに何とか答えた。気分を害してしまったと言う事は無さそうだ。

 彼は「がはは、そうかそうか」と笑いながら言葉を続けた。


「この町のギルドとしても助かるぜ。もし面倒だからランクをそのままにしてるってんなら上げてやるぜ? 前回もまあまあな量のオークの魔石を持ってきたってんならCランクが妥当だろうからな」


 俺は何の警戒も無しに正直に答えた。


「一刻も早くお金を貯めたいので、それにかかわる事は時間が取られないのであれば大歓迎です」

「おいおい、これだけ大きな箱で持って来たんだ。それなりには金になるだろ?」


 そう言って彼は箱の蓋を全開に空けた。


「マジかよ……どんだけ大きな箱だよって思ったが、ほとんど一杯じゃねぇか」

「だから言ったじゃ無いですかぁ~、一人じゃ厳しいんですよぉ」

「わーったわーった。事務の奴適当に引っ張っていいから鑑定始めてやんな。俺はこのあんちゃんとちぃと話をするからよ」


 ギルドマスターはそう言うと「鑑定中暇だろ? 高額鑑定の時は応接間に通してそっちで受け付けてるんだ。変な話じゃねぇから移動すんぞ」と、分かりやすく説明してくれて俺は後を付いて行った。


「お前、相当眠そうだな。無理には聞くつもりはねぇが、どうしてそこまでの金が必要なんだ?」

「好きな女の傷跡を直す為、フルヒールの魔法が必要なんだ」

「……へぇ、男じゃねぇか。確かにひたすら籠ってりゃ金貨百枚くらいオークでも一年経たずに貯まるわな。だがよ、フルヒールだろ? 今はポーションの方が安く済むぞ?」


 何を言っているんだ? 安く済む? え?

 それほどに強力なポーションなんてあるのか?

 俺はその言葉で眠気が吹き飛んだ。ぼけている場合じゃ無い。

 頭痛を堪え、無理やり意識を覚醒させて口調を正した。


「お願いします。聞かせて下さい。ポーションの名前と金額と入手場所を……」

「ハッハッハ、それほどかよっ! 名前は一緒だ、フルヒールポーション。金額は今はちょっと下がってて金貨で七十枚前後だったか? まあこっちは国が規制をしてない高額ものだからよ、相場の動きがかなり激しい。鵜呑みにはすんなよ。それと入手経路な、そりゃこれだけの金額のものは基本的にオークションになる」


 オークションなら無駄に包まなくて良い。上手くすれば金貨七十枚以下でも可能。フランを連れ出さずにその場で治してやれる。すべてに置いてプラスに働く。


「そのオークションはどこで開催するのですか?」

「ここだよ。と言ってもこの町の商会の地下だがな。それに参加資格がある。冒険者ならBランク以上、商人の場合店を持ってる事、後は貴族様、それ以外は入れない事になって居る。まあ、金がねぇ奴入れても仕方が無いって事だろうがな」


 そう言って頬を掻くと「ダンジョンが近くにねぇから、問題が起こるの分かってても景気の為にうちでやらなきゃならねぇ訳よ」とぼやく。

 確かに遠いですね。上層はゴブリンですし……と同意しながらも質問を重ねる。


「CからBに上がる為にはどの位時間が取られますか?」

「まぁ、すぐに上げる事も出来る。Bランクまではこの町のギルドの中だけで済む事だからな。だが、条件がある」

「なんでしょうか?」

「引き続き、金が貯まるまでうちのギルドで魔石を換金してくれ」

「それだけで良いんですか?」

「それだけってお前な。今日持ち込んだのだけで、少なくも見積もってもCランクのパーティの三カ月分以上ある。あ、そう言えばお前は何人パーティなんだ? もしあれなら仲間のランクも上げてやれるぞ?」

「ソロです」

「マジか? 嘘じゃねぇんだよな?」

「狩りについて来ますか?」

「おっ、おもしれぇじゃねぇか! うちは暇だからよ。たまには体動かしてぇし、ランク上げる試験はそれにするか」

「助かります。明日から籠るので、差支えが無ければその時に」


 これだけの情報を貰ってお膳立てもして貰うんだ。

 正直これで一日潰れたってかまわない。


「ああ。だが、オークはCランクの魔物だ。余裕で相当数倒せないとBランクの実力とは言えない事は覚えて置けよ。まあ、気に入ったから上げてやっけどよ。がっはっは」

「分かりました。ありがとうございます。ですが、魔石を此処で換金する事がそんなに意味のある事なんですか?」

「ああ、今は領主様が他から買ってるからな。割り増しされるし輸送料金取られるし、社交の場で肩身が狭くなるってもんで、こっちに何とかしろっておはちが回ってくる訳よ」

「なるほど。確かギルドは領主様がオーナーで魔石も領主様預かりでお抱えの商人が捌く、そんな流れですものね」

「そう言うこった。国への税の上納にも大きく関わる。だから魔石が手に入るのなら今回は領主様もBランクに上げる判子を嬉々として押してくれるだろうよ」


 そんな話をしていると、換金の方が終ったみたいだ。金貨二十八枚と大銀貨数枚が積み上げられた。


「オークの換金で過去最高だ。これを元ネタにして二つ名でも作ってやろうか?」

「それは勘弁してください。最近オークが夢に出てくるんですから……」


 これはガチだ。夢の中でオークと一緒に踊って酒を飲んだこともある。こっちの酒の味何て知らないのに……

 それからも少し談笑した後、ギルドを後にした。


 そうしてギルドマスターと狩りに行く事になった為、その日は町で宿を取り次の日に備えた。



 

 次の日ギルドに赴くと、全身きっちりと高級な軽装に身を包んだギルドマスターが立っていた。


「お前、その恰好で行くのか? 予備の武器は? 鎧以外の防具は?」


 と、色々突っ込まれてしまった。だが、これでやって来たので、目的を達成するまではこれで行きます。と告げると「じゃあせめてこいつは腰にぶら下げとけ、これに命救われたら金貨三枚な」と中古の安い剣をただで貸してくれた。


 そして、何故か荷車にギルドマスターを乗せて俺達は出発した。

 色々世話になって居る手前、これくらいはいいかと早歩きで押していく。


「かぁ~、たまには外に出ねぇとダメだよなぁ。体がなまっちまっていけねぇ」


 ならば降りろと思いつつも、この機会に色々聞こうと話を続ける。


「現役の頃はどのくらいの階層でやって居たんですか?」


 ダンジョンの階層は一応どこでも難易度は同程度になって居る。地中深くから吹き出す魔素の濃度で決まるらしく、地上に近づくほど薄れ、その程度も似た様な物になるからだ。


「おう、一応Aランクだからな。パーティで二十階層までは行った事がある。ま、そこで壊滅しちまったけどな……」


 壊滅って……命がけで戦うんだからそう言う事もあるだろうが、実際に聞くと言葉が出ないな。


「そう、でしたか……すみません」

「まあ、そう言う事も普通にあるからよ。油断だけはすんなよな」

「気をつけます」


 と、そうは言ったが、せめて目的を達成するまでは、舐めプする事はまず無いだろう。油断する余裕があるくらいならその分急いで緊張感を上げる。


「てかお前はなんでパーティ組まねぇんだ? ちゃんとしたパーティ組めば五階層は下げれるって言われてる。オークは銀貨一枚だが、十三階辺りなら銀貨八枚はいくぞ?」

「そう言う話も無かったですし、元々は傷を治してやりたい奴と組んでいたので」

「ああ、そう言う事かよ。まあ、個人の自由だ。稼いだ後そいつと組み直すなら今はソロで良いのかもな」


 ……許してくれるかな?

 いや、考えてみたらいけない事はしたけど、謝れば許してくれるレベルだろう。

 あれ? そう考えてみると……頭撫でたり腰ら辺触っただけだな。

 でも、フランは出て行って欲しいっぽい事言ってたし……

 よし。ポーション持って行って謝って強引にでも一緒に居られる様に攻めてみよう。

 いや、最初に謝って一緒に居たいと告げよう。ポーション渡してから強引に言うのは何か違う気がするし。

 と、そんな事をもやもやと考え続けていると、いつの間にか到着した様だ。


「さて、着いた様だな。お手並み拝見と行こうじゃ無いか」


 そして、荷物を適当に隠しギルドマスターと共にオークの狩場を目指し奥まで進んでいった。

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