第24話 新勇者一行
「いや悪い悪い。何かあるとふざけるのが俺の性格なもんでね。真面目な話、助かったよ。ありがとう」
俺は馬車から降りると、『聖剣』の勇者である
助けられたのはマジだしな。
「ああ、いえ。このくらいでは怒りませんよ」
俺の言葉に、青一は柔和な笑みを浮かべた。
本当に怒ってはいなさそうだ。
人格者だな。
「お兄ちゃんより人間ができてますね」
「何を言う。俺ほど人格のできた人間は居ないぞ」
「じゃあ、お兄ちゃんが舐められたことを言われたらどうするんです?」
「舐められたら殺す。それがジャパニーズ侍スピリッツだからだ」
「ウチの先祖は お百姓でしょ。お爺ちゃんが洋服の仕立て屋になったからそれまででしたけど」
うむ、その通りである。
武士道精神なんぞ ほとんどの日本人にはない。
なぜならば大半の日本字に流れるのは お百姓の血だからだ。
俺も侍ではない。
言ってみただけである。
「で、ええと。新たな勇者様はどちらです?」
青一の言葉に応じ、翠が一歩ずいと前に出る。
「はい、私です。私が新しい勇者・
「初めまして、補佐神官のイユ・トラヴィオルです。よろしくお願い致します」
「同じく初めまして、勇者の兄でニートやってます。
「ええ、こちらこそ――。あれ!? いま何か変わった自己紹介がありませんでした!?」
「ああ、補佐神官とか初めて聞いたッスね。そんなんあるんスか? イユさん」
「違いますよ!! アナタですよ!! ニートって何ですか!?」
「ああ、ニートと言うのは『Not in Education, Employment or Training』の略で、『教育を受けても居ないし、就労してもいないし、訓練も受けていない』人のことだよ。一つ賢くなったね」
「違います!! ニートと言う言葉の意味が分からなかったのではありません!! なぜ異世界でニートをやっているんですか!?」
「いやまあ、俺は筋トレしてるから厳密にはニートではないけど」
「お兄ちゃんはニーですよね、ニー」
「どっちだっていいですよ、そんなの!! 異世界に折角来たんですよ!! 頑張って活躍して世界を救おうとはしないんですか!?」
「なんで?」
俺の言葉に、青一は目を見開いた。
「何でってどういうことです!? だ、だって異世界に来たでしょう!?」
「うん」
「魔法の力を得たでしょう!?」
「うん」
「世界が魔王と戦っていることを知ったんでしょう!?」
「うん」
「なら何故 戦わないんです!?」
「え? だって俺は勇者の付き添いだし。別に戦うべくやってきたわけではないし」
「なっ、付き添いってそのままの意味なんですか!?」
「そのままの意味だよ」
「じゃ、じゃあ異世界のために立ち上がろうとは思わないんですか!? 魔王の脅威に脅かされてるんですよ!!」
「俺たちの世界だって貧困、飢餓、環境問題、宗教間の争い、人種差別、その他もろもろ問題はあったじゃん。それが分かりやすい魔王という脅威になったくらいで『よーしじゃあ世界を救うか』ってなるほど俺のケツは青くないよ。ところでケツって青いもんなの?」
「知りませんよ!! えっ、じゃああなたは普段何をしてるんですか!?」
「筋トレしたりご飯食べたりオヤツ食べたり酒飲んだり本を読んだりそこらへんの人と お喋りとかしてます」
「……な、なんで働かないんですか? 異世界に来て、心機一転! とはならないんですか? 僕も……正直な話、元々は引きこもりだったんです。でも、異世界に来て変わりました!! この世界のためになら、僕だって頑張れると思ったんです!! この世界に来たから、僕は変われたんです!!」
「良かったじゃん」
「良かったじゃん、じゃないですよ!! ほ、本当に働く気が無いんですか!? 別に勇者じゃなくても良いじゃないですか!! 現代知識で内政チートとか商売人ルートだってあるでしょう!? なのに何で、働かないんですか!?」
「はぁ~、愚問だなあ。江土井 青一君」
俺はやれやれと肩をすくめると、スッと空を指さした。
「君は雲に向かって『何で空を漂っているんだ?』とでも訊くつもりかい?」
「いや何カッコ良さげな雰囲気で誤魔化してるんですか!?」
チッ、騙されなかったか。
「良いじゃないですか。俺の代わりに弟の翠ちゃんが働くんだから」
「弟のスネを齧るんですか!? 正気ですか!?」
「良いじゃん別に。ねっ、翠ちゃん。代わりにウンコ食べる以外なら何でもするよ」
「じゃあ、お兄ちゃん。おしっこは?」
「飲むよ」
「何ですか その異端児の会話のキャッチボール!?」
「あー、聖剣の勇者様。この二人のこの会話に付いて行くとキリがないので、この辺で切ったほうが良いですよ」
面倒くさくなったのか、イユさんが口を挟んできた。
ちなみに、この間 騎士たちは『異世界人は頭がおかしいのか?』みたいなヒソヒソ話をしていた。
何を言っているのか。
人間なんか全員頭イかれてるに決まってんじゃん。
「待ってよ~~~!! 青一~~!!」
「青一様~~~!!」
そこに、駆け寄ってくるものがあった。
2人の女子だ。
一人は格闘家らしき女の子、もう一人は魔法使いらしき女の子だった。
彼女たちはこちらに駆け寄ってくると、2人ともが勢いよく青一に抱き着いた。
「置いてくなんて酷いよ青一!!」
「でも、そうやって誰よりも早く、誰かを助ける青一様のこと……。私、大好きです!!」
「ああ、ごめんね。急がないと間に合わないと思ってさ。置いて行ってごめんね」
3人はそう言ってキャッキャと騒いでいた。
いや、青一だけは冷静な雰囲気だ。
……こいつ、ラノベにありがちな自覚のないハーレム主人公か何かか?
「何だ、やっぱ性剣じゃん」
「はぁ!?」
「何よアナタ!! 青一様の悪口なら許さないわよ!?」
女の子達がいきなり噛みついてきた。
元気が良いことだ。
まあ、俺は恋に恋する乙女を相手に怒り散らすほどガキじゃないでね。
「こいつ、きっと青一がモテるから嫉妬してるのよ、僻んでんの!」
「顔は良いけど性格の悪さが滲み出てますねえ。腐った性根は眼鏡じゃあ隠せないんですよ。ウフフッ! どうせモテないんでしょ?」
「んだとクソガキがぁあああああああああああ!! お前らが何かしゃべるたびにネズミの被り物して甲高い声で『ハハッ!』とか言ってやろうかぁ!? 最悪の自爆テロかましてやろうかァ!? 夢の国の取立人が異世界にまで著作権料を取りに来るか試してやるぜぇ!!」
「お兄ちゃん、痛いとこ突かれて秒でキレましたね」
「器ちっさ。器の大きさショットグラスか何かですか桃吾様。あと、異世界の単語を言われても私達みたいな この世界の人間にはさっぱりですよ」
俺の背後では翠とイユさんが適当なことを言っている。
何を言ってるんだ、俺の器の大きさはエーゲ海クラスだ。
エーゲ海が何処にあるか知らんけど。
「なに言ってるか分かんないしぃ!!」
「だいたい助けて貰っておいて何ですかその態度は!!」
「お前らこそ何だその態度はァ!! 調子こいてんじゃねーぞ!! ねっ、イユさん!」
「いや私は関係ないでしょ。どう考えても桃吾様ですよ」
「いい加減にしなさいよ!! 舐めてんのアンタ!!」
「これ以上 私達を馬鹿にするなら許しませんよ!!」
「許さない場合はどうすんの? はい、では許さない場合はどうするのか30秒でプレゼンしてください」
「えっ!? プレゼン!? な、なに言ってんのアンタ!?」
「意味が分かりませんよ!!」
「面接放棄ですか。はあ~~~(隣の翠の方を見て『このあと一杯どう?』というジェスチャーをしてから履歴書をゴミ箱に放り込んで)。これにて本日の面接は終了です。ありがとうございました」
「あ、こちらこそありがとうございました。……じゃねーよ!!」
「馬鹿にするのも良い加減にしてください!!」
「お兄ちゃんを相手に乗りツッコミとは、見所がありますね」
「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて!! 僕は怒ってないから!! 2人も落ち着いて!! ――ん? あれ? あっ、ちょっと!!」
そんな風に俺たちが騒いでいると、何とか場を収めようとしていた青一の持っている剣が淡く輝き、その光は形を変え――。
神々しい雰囲気を持つ水色の髪の少女の姿になった。
年は12歳くらいに見えるが、オーラが違う。
人間ではないな。
『弟のお零れに預かる程度の男が、よくも私の勇者に舐めた口を聞いてれるわね』
少女は見下すような目で俺にそう言った。
うーん、悪くない。
でもあと15歳は年を取ってくれないかな。
ロリに興味はないんだ。
「誰? このロリっ子?」
『ロリっ子ではないわ!!』
「あ、ああ。こちらは『聖剣』の精霊。僕の守護精霊だ」
「ええ!? 守護精霊がそのまま武器になってるんですか!? そんなことあるんです!? 私の『鋼鉄』の精霊はそんなことしてませんよ!?』
『私は特別なの。私は自分そのものを聖剣に変えて選んだものに託すから。――託された青一も、もちろん特別なのよ。ねっ、青一』
『聖剣』の精霊は そう言って青一の胸に顔をうずめ、彼は困ったように、しかし優しく彼女を抱きしめていた。
「特別、特別って何だよ。お前ヴェルタースオリジナルのおじいさんか」
『いや意味が分からないわ』
「ちょっと!! 精霊様にも青一はあげないわよ!!」
「そ、そうです!!」
『ふん、こっちこそあなた達みたいなのに青一はあげない。……ついでに、教えてあげる。青一と私の固有魔法は
『聖剣』の精霊はクールな、しかし自慢げな表情でそう告げた。
なるほど。
聖水を……。
「……それってつまりおしっこで攻撃するってことで合ってる?」
「「「「「『あってねーよ!!!!!」」」」」』
その場にいた誰もがそう叫んだ。
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