第4話

【まえがき】

さて、みなさんの脳内ではどんなパンドラズ・アクターが生まれたでしょう?


本当は予定の無かったコキュートスがなぜか出てきました。

こいつだけ別世界に行ってないか? 具体的にはHxHの世界あたり……


【本文】


 コキュートスは、第五層の環境罠であるブリザードが停止された極寒地帯の奥、白銀の大地にそびえ立つ巨大建造物、大白球スノーボールアースの前で今日も佇む。


 コキュートスの一日はほぼこの場で完結する。数日に一度、まるで思い出したように第六層を巡回するが、それ以外はこの場で瞑想し、ふと立ち上がると武器を振るう。


 刀、剣、小太刀、短剣、ハルバード、槍。


 武器は多彩で一本のみのときもアレば、四本の腕全部で別々の武器を持つこともある。あえてルール付けがされていると予想するならば、同じ武器を連続で持っていないことぐらいであろうか。


 その姿は雪山にこもる武人。b


 しかしその心中はこの数年で大きく変わった。


 最初は、創造主・武人建御雷の背を追って武器を奮った。一振り一振り、同じ斬撃を出しているはずだが、若干の歪みがあり一振りとて同じ軌道を描くことはなかった。しかし、下賜された武器を振るう喜びもあり、無心で振っていた。


 しかし三年前、記録ではあるが武人建御雷の戦いを見た。


 それはいままで思い描いていたものとは別次元のものであった。


 たしかにコキュートスはナザリック一五〇〇人襲撃の際、十分以上の活躍をしている。もちろん死んだことで記憶は無くなっているが、記録を確認することである程度は把握している。


 だが、武人建御雷の一撃は違っていた。


 正確には、プレイヤーが数多のスキルと装備で基礎ダメージとクリティカル値を上げ、さらに相手の種族的、装備的弱点に正確無比な一撃を加えた際に発生する大ダメージ。簡単に発生するものではなく、レベル一〇〇プレイヤーであっても、それが入れば致命傷になるほどのものである。


 真なる一撃

 

 それを見た日から、コキュートスは武人建御雷の背中ではなく、その一撃を追い求めるようになった。

 

 気が付けば武人建御雷が、ユグドラシルにログインしなくなって一年がたった。


 まわりの者たちは、去っていく創造主の姿に寂しいや不安などの感情を発露させる中、コキュートスはそのような感情を持つことが無かった。なぜ、何も感じないのかわわからなかった。むしろ悲しまぬ自分は壊れているのかとさえ考えた。


 だが、そんなことを考えている時の攻撃はどれも話にならない酷いものだった。


 そして三年たった。


 コキュートスが瞑想と鍛錬を突き詰めた末に残ったものはたった一つ。


 忠の一文字


 創造主である武人建御雷様ともう会うことはないかもしれない。しかし、あの方の武は自分に受け継がれている。ならば、その武をもって何を成すのか。


 それに気が付いた時、放った一撃は空を断ち、音を置いていく一撃であった。もしプレイヤーにその一撃をはなっていれば、あの戦いで武人建御雷が見せた一撃に匹敵するダメージをたたき出すだろう。


「モウ迷イマセン」


 くしくも、その日、ナザリックでパンドラズ・アクターというモモンガが生み出した存在が宝物殿の守護者となったことが周知された。


 最後までNPCを生み出すことを拒否していたモモンガ様が、遂におのが子ともいえる存在を生み出したのだ。それは驚きをもってナザリックに伝わったが、コキュートスがその報告を受けた時は……


「ソウカ」


 その一言のみであった。


「ご興味はございませんか?」


 付き従うフロストフラウたちが聞くと、コキュートスは珍しく笑いながら答えた。


「ハハッ。ソウダナ。情報トシテハ興味深イガ、我ガ忠ニ変ワリハナク、ヤルベキコトニモ変ワリナハナイ」


 そういうと、コキュートスは日課である瞑想と打ち込みを再開するのだった。

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