旧約 マグノリアの連換術師

大宮 葉月

一章 生誕祭

プロローグ

 壮麗なそれでいて華美ではなく、要所に荘厳な佇まいを持つ古い聖堂の一室。

 

 壁には聖女の絵画が飾ってあり、薄暗い部屋を照らす蝋燭の灯りが本来、見る者に安らぎをもたらすはずの彼女の微笑を、妖艶なおよそ聖職者には見えない何か別のものかのような印象を与えていた。少なくともその部屋に潜む少女の瞳にはそのように映っていた。

 もっとも少女の関心は絵画ではなく、ドアを隔てた先の廊下に意識を向けている。


 さっきまで慌ただしく、足音が鳴り響いていたが、まるで聖堂から人が一切いなくなったかのような静けさが辺りを覆っている。

 慎重にドアを音を立てずに開き、左右を確認する。すると聖堂のほうから聖女に捧げる聖職者達の祈りの祝詞が聴こえてきた。明後日に控えた生誕祭の前夜祭が始まる合図でもあった。

 

 周囲の状況を確認した少女は、潜んでいた部屋に引っ掛けていたシスターのローブを手早く羽織り、部屋からそっと抜け出した。


 そのまま聖堂の裏手から抜け出した少女は、前夜祭で浮かれる夜の街へと歩き出す。

 

 人混みを避けるよう少女は薄暗い路地へと入り込み、時折背後を振り返っては先へと進む。

 

 複雑に入り組む路地を抜けるとそこは街はずれの一角。人気も無いその場所には放棄されて久しい教会が、街の喧騒から取り残されるように佇んでいた。


「反応はここからのようですね」


 腐食した教会の扉の前で少女は胸元から何かを取り出す。それは聖職者が持つロザリオに似ているが異様なことに七色に輝いている。


 少女が教会の大扉に手をかける。ギィィィィィ⋯⋯と油も差されて久しい蝶番が軋みながら扉を左右に開いていく。朽ち果て饐えた匂いに顔を顰めながら少女が教会に足を踏み入れようとした、その時。


「ようやく見つけたよ? 聖女の子孫?」


 少女の背後に男とも女ともつかないフードを被った人物が笑みを浮かべ、退路を断つかのように立っていた。

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