十三.その名はゲスオーガ(泣)

「「「乾杯チャンハ!」」」

 皆が唱和し、祝杯を上げた。

 主賓席に据えられた俺達三人。

 俺の左右でジーナとミーナも盃を傾ける。俺も微妙な気分ながら果実酒を飲み干した。果汁と水で割ってもらったので、それほどアルコールは強くない。戦闘後も救助で水を飲む間もなかったので、カラカラになった喉と体に染み渡る。

「ぷはーっ!」

 気分は微妙でも、体は正直だ。


 あの爆発で、十数人が破片で怪我をした。肋骨や手足が折れた人はいるが、死人は出なかったのが不幸中の幸いか。まあ、人型の操縦者を除いては、だけど。


 操縦者のいた胸部が、爆発の中心地だった。調べていた神官たちは首を捻っていた。どんな魔法によるものとも違う燃え方だったからだ。

 だが俺には分かる。あれはもちろん魔法じゃない。ボイラーの水蒸気爆発でもない。火薬によるものだ。

 空賊って呼ばれてるけど、ただの賊なんかじゃない。あれは科学文明の国だ。ただし、蒸気機関の時代の。

 空の魚も、蒸気で推進される飛行船だ。おそらく排煙をつかった熱気球式だろう。

 ちなみにその飛行船は、人型の爆発と同時に向きを変え、雲の中に姿を消した。市は無事守られた。それで、祝宴となった訳だ。


「何考えとるん?」

 左からミーナが覗き込んだ。

「あ、いや、別に」

 考えている間に注がれた酒に口をつける。

 右のジーナにちらりと目をやると、向こうもこっちを横目で見ていた。

「な、なに?」

「別に? なんにも」

「そっか」

 顔を背ける。ジーナの顔が赤かったのは、酒のせいだけだろうか。いや、俺だって気まずい。

「んふふふ」

 ミーナがにやけながら俺たちを見ていた。

「心が繋がった感想はどうや、お二人さん」

「う、うるせー」

 それしか返せなかった。

「ま、それはおいおい聞かせてな。ほんで、合体機の試運転即実戦は成功やったし、名前決めんとな」

「え、でもそれって官房長様に聞かなきゃいけないんじゃねえの?」

「それがな、うちらで決めたらええて。あの方はややこしい揉め事以外には興味が無いんや」

 それはそれで面倒な人だな。

「ジーナはどうや」

「合体機一号とか、キュリアスタンでよか」

 中央アジアにでもある国ですか。やめてください。

「相変わらず簡潔つうか質実剛健つうか殺風景やなー」

「ほっときんしゃい!」

「ほな、エイチは?」

「そうだなあ」

 真っ先に俺の頭に浮かんだのは……ごめん、色々なロボットアニメのメカが浮かんだけど、それは頭から追い出した。万が一ほかにも俺たちの世界から来た奴がいたら、俺は恥ずかしくて死んでしまう。


 それじゃなくて、まともに考えて思いついたのは、ゲシュタルト・オーガニズムって言う言葉だ。たしか、集合的有機体、みたいな。個別のものが集まって、一つのものとして活動する、とかそんな意味だったと思う。

 でもこれだと長いよな。それにメカの名前っぽくない。


「ゲシュオーガンってのはどうだろう」

「なんやそれ?」

「いや、なんとなく」

「よかじゃらせんか!」

 酒を注ぎに来た隊長が叫んだ。

「なんか知らんが、響きがよか! ゲスオーガ!」

「え?」

 どうも聞き違えられたらしい。俺は慌てて

「いや、ゲスオーガじゃなくてゲシュ」「ええぞ! ゲスオーガ!」「いいでねえかゲスオーガ!」

 皆が盛り上がり、姉妹までが、

「ええやないの! ゲスオーガ。なんかかっこええし! ジーナはどうや!」

「よかとよ、ゲスオーガで」

「……うん、ゲスオーガでいいです」


 そんな感じで、合体機の名前はゲスオーガに決まった。酒の勢い、恐るべし。

 なんていうか、食人鬼オーガよ、ゲスとか言って、ほんとごめん(この世界にはいないけど)。


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