第43話 勇者VSオーガさん


 勇者アッシュは吼えた。




 「この魔物が!」




 抜刀した剣を上から振り下ろす。


 だが――――




 「随分と遅い剣撃だな」とオーガさんは笑った。


 そして、自身に襲い掛かってくる剣を空中で掴み取った。




 しかし、すぐに「むっ!」と眉間に皺と寄せる。


 敵対者――――勇者アッシュも笑みを浮かべていたからだ。




 「チッ! 罠かよ!」




 そのままアッシュの体ごと剣を投げ捨てる。


 空中に投げ飛ばされたアッシュは体勢を整えて着地。




 「さすがはボス。雑魚とは違って勘がいい」


 「ほざくなよ、冒険者如きが――――」




 オーガさんは最後まで言えなかった。


 横から盾を構えたロザリーが突進技を繰り出したのだ。


 壁際まで吹き飛ばされ動きが止まる。


 そこを見逃さぬとシーラが魔法を展開させる。




 「雷撃の矢」




 短詠唱で雷属性の魔法が放たれたソレはオーガさんへ全て直撃した。




 「やりました」とシーラの声に喜びが混じった。


 しかし、それも一瞬だけ。すぐに驚きへ色を変えた。




 「やれやれ、今まで冒険者たちとは違って、少しだけ強いね。……そう、ほんのちょっとだけどね」




 オーガさんは立ち上がった。


 その姿にダメージのあとはない。




 「そんな……魔王だって無傷じゃなかったのに……」




 愕然となるシーラにオーガさんは狙いを絞り、飛び掛ろうとする。


 しかし、「させるかよ!」と前衛のロザリーが再び、盾を構え突っ込んでいく。




 「させるかよってのは、こっちの台詞だ。二度目はない!」




 体を反転して突っ込んでくるロザリーを片手で止める。




 「片手って、化け物かよ! でも、気づいてるか? 今のアンタ、隙だらけだよ?」




 「あん?」と疑問符を浮かべるオーガさん。


 接近するアッシュに気づくのが遅れる。




 「取った!」




 アッシュの横薙ぎの一振りがオーガさんの胴に入った。




 ――――キン




 その音は金属と金属の接触音と同じだった。




 「剣が通らない……だと?」




 呆気に取られたアッシュの頭部が捕まれる。


 そのまま地面に押し潰された。


 グシャと果実が潰れたかのような異音。




 「あと2人って……まだ戦うつもりなのか? お前?」




 見ればオーガさんを引き止めるようにアッシュが腕を掴んでいる。




 「あぁ、体の頑丈さと回復能力は自慢でね……やれ、ロザリー!」




 先ほどと違う。ロザリーは盾ではなく剣を構えていた。




 「コイツは特別だよ。シャイニングクロス」




 聖属性の魔力が剣に流れ込んでいる。


 巨大な十字架のようにシルエットが変化した剣をロザリーは振う。




 「どんなに頑丈な魔物でも、聖属性が効かない魔物なんていないのさ!」




 剣技とは言えない巨大な魔力の塊。


 それを叩きつけられたのだ……いかにオーガさんとは言え……




 いや、舞い散る土煙で隠されてはいるがシルエットが浮かぶ。


 オーガさんは立ち上がっていた。


 ――――しかし、それも一瞬だけ。


 線が切れたマリオネットのように地面に倒れた。




 「こんな凶悪な魔物が生まれていたなんて……ここで消し去ってやる」




 勇者の剣が光を帯びていく。その剣こそ魔王を討った聖剣。


 本気を出せば、ダンジョンを半壊させるほどの威力を出せる。


 それを今、繰り出そうと――――




 いや、勇者アッシュの動きが止まった。


 誰かが飛び出してきたのだ。


 魔物……ではない。人間だ。 しかし、なぜ人間が、魔物を庇うように立っているのか?




 アッシュたちは知らない。


 このダンジョンに住む人間の事を――――


 そして、自分たちを1人で追い込んだ魔物の強さは、この人間が作った作物と料理によるものだという事を――――




 そう、その人間こそ――――




 神埼亮だった。




 


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