第3話 紗音瑠の過去

「あの子は、母親に捨てられたんですよ」児相の田中が言った。

児童相談所の窓から遊んでいる紗音瑠を眺めながら、太陽は田中の説明を聞いた。

「あの子が6歳の時、いつもの通り大家が家賃を取りに行ったら母親がいなかった。あの子から手渡された手紙には、『これ以上この子を育てていけない。よろしくお願いします。』という内容だったので児相うちに連絡が入ったというわけなんです」

「その後、母親から連絡はないんですか」太陽が尋ねる。

「家に帰れば大家から連絡が来ると思うんですけど、さっぱりですね」

「どれくらい経ってるんですか」

「もう、半年以上ですね」

「それじゃあ、もう来ないかも…」

「母親も未婚の母で頑張っていたみたいですけど、女手一つで子供を育てるのは大変ですからね。あの子は保育園にも行っていなかったので、他の子とも遊ぼうとしません。話は分かるんですけど、自分から話すことはほとんどないですね」

太陽はあの子を育てられるか不安になったが、誰かが育てなければならないのなら、自分が育てようと決意した。

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