大戦終結、8年の踏ん張り
ジークハルト帝国、イスラル公国間戦争勃発。
イスラル公国は大陸の南と中央部を抑える国の一つだ。
元々はジークハルト帝国の一部であったが中央部を領地にすると独立。
イスラル公国を名乗り国となった、帝国とはお互い不干渉であったが何故ここに来て、帝国に宣戦布告した、しかも理由は帝国を納めるのは自分だって。
何が何だか一兵士の俺はさっぱりだ、隊長はこれは我が国の問題であって女神の勇者様には関係ないといわれ帝都への帰還を勧められたが俺はそれに反対する。
そして晴天号を駆り戦場へと向かう、勇者だとかそんなの関係ない。今この国で戦える奴は少ない、更に言えばイスラル公国側の紛争は早期に平定されたから駐屯している兵も少ないはずだ。全部見越して宣戦布告したのなら、敵ながらさすがと言える。
「清孝様! また参陣なさってくれたんですね、女神の勇者にこのような戦争に出て頂く事になるとは、今はその心意気に感謝を、戦況ですが、芳しくありません」
「紛争で負傷兵多数なのを良い事に、あっちこっちから攻めてきてるんですよ」
「更に公国の奴ら魔法銃を装備してるんですよ、おそらく独自に開発されたのかと」
「公国は軍事技術に力いれてるって話だったからな、独自開発さもありなんだよ」
「魔獣騒ぎに他種族紛争が終わったころにこれだよ、もう国は疲弊して戦える奴なんて、もう……」
その報告を無言で聞きながら装備を整える、木刀は剣や槍、斧の一撃を受け、傷が目立ち始めていた今度小倉に伝令を飛ばして貰って作り直してもらうとしよう。
軍靴の靴底もすり減ってるし防具も一新してもらいたい、それと銃の弾丸も頼もう、よし出陣!
「へっへっへ、帝国恐れるに足らず、この公国の最新兵器魔法銃ってのはべらぼうに強いぜ」
「それに今、帝国は国力が大幅に減ってるからな、公国が帝国を納める日も近いぜ」
「前方から敵が接近中、数は一人です!」
「わざわざ死にに来てくれたのかね、魔法銃構え、放て! ハチの巣にしてやれ」
銃弾が飛んでくる、しかしそのどれもが魔法の弾丸、一切傷がつくことはない。
そのまま駆け続ける。
「おい、魔法銃が効いてねぇぞ! 魔法障壁か!?」
「なら、魔法大砲だ、さすがに魔法障壁でも守りきれりゃしねぇだろ!」
次は魔法の弾丸よりも大きな大砲の砲弾のようなものが飛んでくる。
当たった瞬間に消滅する、魔法である限り喰らうことはない。
さぁ土嚢を飛び越えあいさつ代わりに公国兵に蹴りを加えつつ着地。
「おいおい、大砲の一撃も喰らわないってどんな奴だよ」
「ひ、ひるむな! 魔法剣を出せ、細切れにしちまうぞ!」
公国兵は一人、また一人と腰につけた筒を取り出し魔力を込める。
そうすれば、赤、青、緑、色は様々だが、魔力の剣が作り出される。
王国でも見ない兵器だな、公国独自の技術かな、魔法剣を振りかぶり攻撃をしてくるが遅い、こちとら物心つく頃から剣道をやって異世界に来てからは7年も最前線で戦い続けてる軍人だ。白兵戦の訓練はお粗末なのだろうね、ただ振りかぶっただけのような剣にあたる素人じゃない。しかし、複数の方向から攻められれば土台無理な話で剣が当たる……のだが。
「ま、魔法剣が消滅した! どういうことだ、魔法消滅魔法か!?」
「し、知らねぇ魔法剣喰らってきれないってなんだよ!」
「や、やってられっかよ、こんな化け物とやってられっかよぉ!」
「待て! 何逃げようとしてやがるんだ!? 怯むな相手は人間だ! 斬れば必ず殺せるはずだ!」
魔法剣をくらってもダメージは無い。おそらくは刃は魔法で出来ているのだろうそれならば喰らわないのも当然だ魔力が無いのだから魔法の剣じゃ死ぬ訳無い。
剣も銃も大砲も効かない俺に恐怖した兵の一部が逃げ出していく。
逃げずに立ち向かってくる兵もいたが、木刀で腕や足、腹を殴り骨を砕いてやれば。
戦意を喪失する、後は負傷兵を連れて逃げかえってくれれば!?
「まだだぁ! 公国の伝統兵器地雷犬だ、いけ、いけ! やれぇ!」
腹に何かの塊を背負った犬が噛みつく、すると犬の背中についた塊が爆発し中からは鉄の棘が爆発の衝撃で俺に襲い掛かる、くっそ魔法は聞かなくても物理は!?
軍服は防刃製があるようにと指定して作って貰ったのが幸いして耐えてくれる、だが、これ以上の戦闘行為は出来ないな一時撤退!
「清孝様! 今すぐ応急手当の止血剤と包帯を持ってこい!」
「清孝様がこんなになる兵器を公国が持っているってのか」
「そんな奴ら相手に守り切れるのかよ、俺らの国を」
「狼狽えるな! 清孝様お怪我の具合は……」
自分が思ったより、見た目は凄い負傷だったようだ。顔面蒼白にした兵に横になるように言われる。言う通りにしながらも公国の武器や地雷犬の事を報告する。
思ったより長い戦いになりそうな予感が今の俺の中にあった。
「駄目だ、守っても守っても攻め続けてくるぜ」
「援軍やせめて武器や食料の支援は無いのか?」
「国はよくやってくれてる、だが他国はこの戦役に中立を保つってさ」
「最近じゃ盗賊や山賊がそこかしこに発生してるって話だぜ」
「お前ら! 滅入る事ばっか言うなよ! 清孝様は文句言わず戦ってるぞ」
「そうだ! 俺達帝国兵士が先に滅入ってどうするってんだ! やってやろうぜ!」
戦争が勃発してから2年、公国との戦争は激化の一途を辿っていた。
多方面から攻めてくる公国を少ない兵で何とか退ける帝国兵。
最近では混乱に乗じた盗賊、山賊も増えているという報告を受けている。
早くに戦争を納めれなければ、負けが続きいずれ帝国は滅ぶことになる。
そこで他国に軍事同盟や同盟国に兵の派兵を求めるが。
なしのつぶて、帝国も女神の勇者派遣などで他国の魔獣騒動を治めたじゃないかと
交渉材料にしたが、公国からも多額の支援金を受け取っている為、どちらかに加担は出来ないと言うだけだそうだ。他種族にも派兵を求めるが紛争の爪痕や遺恨がそれを阻む、八方塞がりなのだろうか、それでも俺は戦い続ける。
俺の奮戦が少しでも兵士の士気を上げれるかもしれないのだから。
「敗走した軍が出始めたってよ」
「とうとうか、俺達の帝国もここまでなのかなぁ」
「まだあきらめるなって、きっと女神の勇者様達が何とかするさ」
「今回の戦役に参戦してる勇者様は半数にも満たないんだろ、期待するだけ無駄さ」
4年が経過した、一部の領土が公国の支配下にされつつあった。
俺は各地に転戦し敗走する兵士の救護や支援に忙しくしている、クラスメイトの数名も参戦していたが半数以上がこの戦役に参戦を拒んでいる。
魔獣はまだ獣だったからよかった、紛争だってまだ人間とは見目などが違う他種族だったから抵抗はあってもやれたやつがいた。しかし今回の戦争相手は人間。平和な日本で生きてきた俺達には最も無縁で経験の無い事例だ、今ここで戦っている俺の方が少数派なのである。だからと言ってそいつらを攻めることはしてられないそもそんな暇があるならば俺は一人でも自分で救えるだけの人を助け続けるだけだ。しかし、それと裏腹に兵士達の士気は下がる一方だった。
「聞いたか、あの噂、あれってマジだったらしいぜ」
「ああ、紛争の原因は公国の情報操作だったらしいな」
「だが、そのおかげか他国の支援が今際の際に来たんだってよ」
「やれる、これならやれるんじゃないか、滅入ってる場合じゃねえ!」
「そうだな! なんだったら、公国の土地をふんだくるぐらいに大勝してやるぜ!」
「俺達なら出来る! なんたって守護英雄がいるんだからな! 行くぞ!」
「「「「「「応!!!」」」」」」
6年が経過した、この年に奇跡が起きたその奇跡とは紛争勃発の真相だ。
10年前の紛争の発端は公国の情報操作によるものだったと公開された。
公国の工作兵が他種族の独立気運を高め、その為の武器を横流ししていたとか。
証拠として公国の使っていた装備と他種族の装備の機構が類似、また帝国の魔法銃とは違う機構があることをこちらの専門家が発見したとの事。
そして更に小倉のいる他種族付近の集落にも人間の武器商人が来ていたと10年越しの報告が上がった。この情報の公開により公国周辺国は公国が危険な国だと、いつ自分等に銃が向けられるかと認識を改める。続々と帝国と軍事同盟を結び、帝国への支援が積極的に行われまた公国は各国から非難声明を受け士気が落ちてると来た。
その報告はこちらの兵士達の士気を上げ戦果を挙げる結果をもたらした。
そして俺は最近では守護英雄だなんて呼ばれるようになった、そんな大層な呼ばれ方するような男ではないと思うが、それで士気が上がるなら乗ってやるべきか。
「聞いたか、公国がとうとう音を上げて、帝国に和平を申し込んだって」
「ああ、一部領土の譲渡だけじゃなく多額の賠償金を支払うんだってな」
「きっと和平にいった使者は冷や汗かいて土下座してるに決まってらぁ!」
「冷や汗どころか震え声で顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして謝ってるはずさ!」
「そいつは傑作だろうな、想像するだけで爆笑もんだ、見てやりたいぜ」
「「「HAHAHA!!!」」」
「なんにせよこれでようやく戦争が終わるのか? もう戦わなくていいんだよな」
「そうだ、俺達は生き残ったんだ、死んじまった奴らの分まで生きようぜ」
「ああ、本当に終わったんだ、ああ……」
戦争が始まって8年、俺も30を過ぎた頃、とうとう和平が成ったという報告が最前線にも届いてきた。2年前からここまでは本当にとんとん拍子であった、周辺国からの支援により。軍はすぐに盛り返し、更に他種族の一部がかつての非礼を帝国に詫び援軍として帝国から武器を借り公国との戦いに参戦し大戦果も挙げる。
更に帝国は各地の盗賊や山賊を傭兵として支援金で雇い入れ戦わせた。
盗賊や山賊はそのノウハウや経験を生かした、ゲリラ戦で思わぬ戦果を挙げた。
そういった全てが重なり、とうとう公国を打ちのめす結果となった。使者の無様な姿を想像して笑うものや膝から崩れ涙を流すものなどさまざまな姿で戦争が終わったことを喜んでいた。
ようやく……か。聞く話によればなんでもこの戦役で最後まで最前線で戦った女神の勇者は俺だけらしい、他の奴らは戦傷などで前線から離れたりしたり、ただ戦死者はいないようなのでそれだけでとても喜ばしい事だ。
「清孝様! 帝国からの勅命です、いい加減帝都へと帰還せよとの事」
「転戦の連続で帝国諜報員でも詳細な居場所を今日まで掴めずにいたようで」
「ようやくこの最前線に駐屯していると聞きつけ、急いで参った次第です!」
「守護英雄様帰らないと! 勅命だから破れば国家反逆罪で首が飛ぶぜ!」
「ここまで頑張った守護英雄様が反逆罪で打ち首なんて見たくないぜ俺は!」
「俺もだよ! ささ早く帰ってください、きっと報酬たんまり貰えますよ」
「何せ15年ずっと戦続きだったのでしょう」
「爵位貰って領地も頂いて、きっと綺麗な嫁さん紹介してもらったり使い切れない金も貰えますよ」
「そうなったら俺達の事雇ってくださいよ! 守護英雄様の所なら喜んで!」
「俺も俺も!」「いやいや、ここは俺が」「俺だって雇われたい!」
「いや、落ち着くんだ、我々全員で雇われればよいのだよ」
「「「お前天才かよ!!!」」」
「さぁ、最後の整列だ! 兵士一同貴方と戦えたことを誇りに思います、敬礼!」
帝国からの勅命書を渡され、俺は兵士に言われて最前線から王都へ戻る事にする。
兵士に馬で帰るため帰国は2週間ほど先だろうという事を伝えて欲しいと頼む。
頼まれましたとすぐに伝達魔法で帝都へ連絡を繋げてくれる。
俺が馬に乗って出発するとき、兵士達は横一列に並び敬礼をしてくれる。
俺もその敬礼に返し、馬を走らせ帰国の途へ入る。
あれから、晴天号は引退しており現在は二頭目となる快晴号に乗っている。
名前の意味は晴天号と同じで晴れの日にもらい受けたのと。いつか戦争が終わり心地よい晴れ模様の下で、共に走りたいとそんな願いを込めて。
終戦を迎えた今日の天気は雲一つない、晴れ間が俺を照らしてくれていた。
さぁ、帰ろうか……今や俺の第二の故郷になったこの国の都へ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます