とあるコンビニ物語。

結月 万葉

また来てしまった、

 人の心って難しい。ついでに習慣って恐ろしい。

 真奈美まなみはそんなことを考えながら進む足を止めることが出来なかった。

 昨日があったのになんで行きたくなってしまうのだろうか。行かないと落ち着かないくらい日常生活のルーティンに組み込まれてしまったのか。いや、落ち着かないのは、あの人の顔が見たいからか。

「会いたい」という期待と「会いたくない」という不安が入り交じりながら真奈美は今日もここへ、[コンビニ]へ来てしまった。

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 ぴろりろりーん♪

「いらっしゃいませー」

 入店音は聞きすぎてもう覚えた。1番最初のいらっしゃいませは店長さんだということも。今の時間きっとバイトは休憩中。あと5分もすれば終わるはず。

 あまりにも自分が覚えすぎて少し怖くなった。私はストーカーか?いやいや常連客だ。…常連客が店員に告白した時点でもうダメか。そんな自問自答を繰り返しながら店内を物色する。どうせ買うものは決まってるのに。そしてあの人のレジに向かうのに。やっぱり止められない。あんなに、はっきりと、振られたのに。


 真奈美は、きのう、失恋した。

 相手はこのコンビニの店員だった。

 生まれて初めての"一目惚れ"だった。


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 元々コンビニ自体はマンションのすぐ近くにあった。何かしらの用事があるか、ちょっと小腹が空いた時に買いに来るか…そんな頻繁に行く場所ではなかった。真奈美の生活を変えたのは、高校に入学してすぐの春。

 一瞬で恋に落ちて、1年も思い続けた。

「…もう、笑ってくれないよね」

 ぐるぐる悩みすぎてとっくに5分経っていた。もう休憩は終わったはず。

 不安と少しの恐怖とちょっとの期待を抱えレジへ向かうと、あの人は…いなかった。

 あれ?今日はシフトのはずでは?固定シフトだから余程のことがない限り休みはしないはず。昨日告白したから?私が絶対来るって思ったから?いやいやそんな事情で?もしかしたら裏で作業しているのかも?とりあえず買おう。

 会えなくてよかったような、やっぱり寂しいような、モヤモヤしたままレジに商品を置いた。

「108円です」

 御手洗かなーいや時間はきっちり守る人だからそれはないなーやっぱり裏かなー聞いてみようかなーでもなー

「110円お預かりします」

 やっぱり顔みたいなー会いたいなぁーでもやっぱ迷惑かなぁーてか迷惑だよなあー

「2円のお返しです。今日は佐久間さん休みだからいないよ」

 そうかー休みなのかー休み…

「って、え?」

 思わず顔をあげた。あれ、私そんなにキョロキョロしてた?ていうかなんで佐久間さくまさんって?

 驚きすぎて固まる真奈美に店員はさらに言葉を続ける。

「元々佐久間さん今日は休み申請出していたから最初からいないよ。だから昨日、西野が告白してた事とは一切関係ないから安心しろ」

 淡々と言う店員とは対象に顔はどんどん熱くなる。なんでこいつは私が告白してた事を知っているんだ!?覗き見でもしてたのか!?いや覗き見も何も無いな、私コンビニの前で告ってたし。シフト終わりだからこの人も帰るとこだっただろうし。まあとりあえず告白とは関係ないのかよかったよかった…ちょっと待て、今、西野にしのって言った?言ったよね?なんで、なんで私の名前を知っているのだこの店員は。

「えっあの、なんで名前…あれ?」

改めて店員の顔を見る。どこかで見たことあるような、でも初対面のはずの顔。だけどやっぱりどこかで会ったことあるような顔。一体誰だ?

「あの、どこかで会ったことありますか?」

「…やっぱり気づいてなかったか。まぁ今コンタクトだしな」

コンタクト?つまりいつもはメガネなのか…メガネ…メガネ?ふと名札をみた。[とがわ]と書いてある。とがわ…戸川…戸川とがわ


戸川祐二とがわゆうじ!?」

「なんでフルネームなの」


店員は同じクラスの戸川だった。


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